効かないインフルエンザワクチンをめぐる専門家の混乱と居直り(NEWS No.520 p08)

昨年12月号で、インフルエンザワクチンの製造過程で生じる、抗原の変化問題をとりあげました。製造過程で抗原性が変化し、効かなくなるという問題です。この問題点に目をつぶり、「安定供給」を叫ぶ保団連などの医師団体は、ワクチン接種による自らと薬企業の利益を、患者の利益よりも優先するものです。
厚労省はインフルエンザワクチンの大御所?元大阪市立大学教授の廣田良夫氏らの「研究」で、抗原変化は問題ないとのデータを出しました。他方で、国立感染症センターや日本臨床内科学会の調査では抗原が変化したA香港型には効かなかったというデータを明らかにしています。

廣田氏の研究結果は、表のように、香港株ワクチンは接種後香港株中和抗体価を546に上げ、埼玉株ワクチンでは約半分の260に上げます。ところが、埼玉株に対する中和抗体は、香港株ワクチンは116に上げるのに、ワクチンと同じ埼玉株ワクチンでは61しか上がっていません。「流行予想株とワクチン株との抗原性の合致度は、必ずしもワクチン有効性と相関する指標ではない。(廣田)」しかも、香港株ワクチンの方が、ヘテロの埼玉株インフルエンザに埼玉株ワクチンより効果大だったわけです。一昨年から問題になっている、A香港株ワクチン抗原性の製造過程でのズレなんかは、香港株と埼玉株の差と比べればどうってことはないジャン、というわけです。

廣田氏と逆の意見もあります。

しかし、これでは今のインフルエンザワクチン製造の工程をまるきり否定するものとなります。次年度に流行する型と抗原性を予測して、それに従ったワクチンを正確に作ることは世界のインフルエンザワクチン企業と行政のやり方で、それで多くの「研究者」や企業家などが利益を得ていいます。その人たちから?の反対のデータが出されています。

まず、国立感染症センターは、2017/18のA(H3N2)ワクチン株と実際流行した株では8割が「反応性低下が認められた」としています。昨年のワクチンはだめだったとしているようなものです。

もう一つは、日本臨床内科学会の調査で、「A香港(H3N2)に対しては、2014/15シーズン(A香港が流行)と2015/16シーズン(A(H1N1)pdm09とB型が流行)では有効であったが、2016/17シーズン(A香港型が流行)と2017/18シーズンは有効性を確認できなかった。」としています。

私には、どっちみち効かないものなら「生産を単純化して利益を増やせ」という方向に導く廣田研究と、既存の権益を守ろうとする感染症センターや臨床内科学会のもめごとのようにも見えます。

このような、効果も「不明な」ワクチンへの予算は、危機的状況の介護や公的病院の拡充や医療関係者の増員などに使った方が、より市民の生活に大きな利益をもたらすことは明らかです。

はやし小児科 林敬次