HPVの効果判定 粘膜変異性とウイルスを混合している問題(NEWS No.521 p05)

HPVワクチンのコクランレビューのことを12月1日の大阪小児科学会で報告しました。

今回は、HPVワクチンの効果判定に重大な問題があることをLars Jorgense (LJ), Peter Gotzsche, Tom JeffersonのBMJ EBM誌への再批判論文から報告します。
「HPVワクチンはがんではなく、子宮頚粘膜の異形成性を減らすだけ」との批判は、大変重要だと思います。しかし、子宮頚粘膜の異形成を防げれば、がんも防げる可能性が高いとの主張(厚生労働省など)が間違いと証明できたわけでありません。
効果のない薬を効果があるかのように見せかける方法の主要なものの一つに、効果を評価する指標(アウトカム)を操作する方法があります。このワクチンに使用されている主要なアウトカムは子宮粘膜の異形成(CIN)です。その悪性度は、がん>CIN3>CIN2>CIN1の順です。これを、例えばCIN2単独でなくCIN2またはCIN3とすれば判定は曖昧になります。
再批判では、粘膜変性とウイルスの混合アウトカムに焦点を当てています。これについて、コクランレビューで分析されている結果などのデータを示すことで、これまでの研究報告にも、コクランのレビューにも使われているこのワクチンのアウトカムの基本的問題を明確にしています。
コクランレビューは、主要なアウトカムとして例えば「CIN2」ではなく「CIN2 かつHPV16/18ウイルスなどの存在(CIN2 +associated with HPV16,18)」を採用しています。(下記参照)

CIN2+ワクチン含有HPV:カウント
CIN2+ワクチン非含有HPV:無視

右段表の一番上の段のように、このアウトカムですと、RiskRatio =0.01(0.00,0.05)*となり、圧倒的に効果があるかのようになります。
*( )内は95%信頼区間(以下同じ

これでは、HPV16/18を含むCIN2は数えられるが、これらのウイルスを含まないCIN2は除外されます。ワクチンが単にHPV16/18感染を予防することができれば、ワクチン群のCIN2のうちHPV16/18ウイルスを含まないものは除外され、ワクチンがCIN2をほとんど減らし、がんも減らすかのようになるわけです。
逆に、表の上から2段目、HPVの型にかかわらない「CIN2+全型PHV」 (any CIN2+ irrespective of HPV types)をワクチン群と非ワクチン群で比較すると、RR=0.79(0.66,0.97)となりワクチン群と対照群の差はずーと縮まり、2割程度へらすだけとなります。(15–26 yでは0.70 (0.58, 0.85), 24-45yではRR=1.04有意差なし)
さらに、表の上から3段目のよりがんに近いCIN3では、「CIN3+全型HPV」をアウトカムとするとRR=0.91(0.66,1.27)で有意差がありません。
アウトカムがHPVウイルスの存在にかかわらない子宮頚がんとなると、より「効かないことが」はっきりするかも知れません。なお、コクランレビューにはAIS上皮内腺癌ではRR0.32というデータがありますが、これは分類上CIN3に含まれるようで、単独の比較にどれだけ意味があるか不明です。

上段(CIN2+HPV16/18)がコクランの主なアウトカム

アウトカムワクチン群対照群RR(95%信頼区間)
CIN2+
HPV 16/18
1/11815194/118610.01(0.00-0.05)
圧倒的に効果あり!!
CIN2+
全型HPV
900/225121140/225540.79(0.65-0.97)
効果激減
CIN3+
全型PHV
203/8810233/88120.91(0.66-1.27)
CIN2より悪性のCIN3で効果なし
がん

上段はコクランレビューのanalysis 1.1, 中段は同 analysis3.7, 下段はLJらのBMJ-EBMでの再反論からFUTUREⅠ,Ⅱ研究のデータを合計したものです。

以上より、CINの発生率は、HPV ワクチンによってそれほど低下するものではないことが、明らかになりました。日本ではワクチンに含まれていないHPV型が発がんとの関連が強いとの報告もあり、HPVワクチンが子宮頸がんを減らせない可能性もより高いと思われました。

はやし小児科 林

(この報告は、1月24日の医問研例会で報告したものです。)