インフルエンザに関する2つの話題(NEWS No.521 p06)

1,ゾフルーザなど抗インフルエンザ薬
2, インフルエンザワクチンは感染力を増加させる可能性あり

1, 抗インフルエンザ薬
今年インフルエンザの話題をさらったのは抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」でした。すでに、薬のチェック誌はこの薬の効果はタミフルと同程度、免疫ができにくくなる、副作用が不明などの問題があり、使うべきでないとしています。詳しくは、薬のチェック誌No.2018号をお読みください。ここでは、その評価を基にしながら、効果を中心に検討します。

日本で認可されている主な抗インフルエンザ薬は5種類で、タミフル(ロシュ社)・リレンザ(GSK)は世界規模で使われています。これらの薬には肺炎も入院も死亡も防がず、症状のわずかな短縮の代わり嘔吐や精神異常の増加が、世界中の資料を分析したコクランレビューにより証明されました。
そのため、WHOは「エッセンシャル・ドラッグ」で、「重症の患者で重症のインフルエンザに罹患したときのみ使用」と、ほぼ使用を否定、日本小児科学会さえ普通のインフルエンザへの使用を推奨しない由の提言をしています。
ところが、今年から、浜六郎氏をはじめ、薬剤疫学の「権威」であった故藤田利治(統計数理研教授)らの、意識障害が1.79倍に増えるとの結論*に反して、10代への使用が認められました。さらに乳児への保険適応が、たった22例での「効果の印象」の「有効」82%、との単なるアンケート調査という、冗談のような理由で認可されています。
日本の開発したものは3種類ありますが、頻用されるのはイナビルと今年参入のゾフルーザです。いずれも高価です。**
イナビルは、一回の吸入でよいと、最も頻用されていま。すでに本ニュースでもお伝えしてきたように(医問研ebm-jpで「イナビル」で検索)、評価の指標(アウトカム)が、「発熱期間」では効果なし(台湾での実験)だったので、その後は「罹病時間」に代わり、次々と「効果あり」のデータが集積され認可されています。ところが、2014年にbiota社という会社が臨床実験をしたところ、全く効果がなかったということで、欧米では販売されていません。要するに効かないということです。
ゾフルーザですが、この薬は一回の服用でウイルスを早く減少させるのを特徴としています。しかし、著名な亀田総合病院はこれを採用せず、その理由を高価、効果がタミフルと同じ、耐性ウイルスが子どもで23%も生じる、などを挙げています。(日経メディカル誌)
この薬の評価が、今や薬の宣伝誌のようなNew Engl J of Medに発表されています。その筆頭著者であるHydenFGは、タミフルを持ち上げたインフルエンザ業界の重鎮です。第二著者は、これまた日本インフルエンザ業界の代弁医師菅谷憲夫氏です。この論文のタミフルと比較した、症状が時間と共に減少してゆくカプラン・マイヤー曲線で、両者はほぼ同じす。ウイルスへの作用方法もその除去の期間も違うのにこれほど似るのか、不思議なくらいです。
その菅谷氏でさえ、ゾフルーザの耐性ウイルスの出現率の高さに、注意を喚起せざるを得ないしろものなのです。
しかも、この論文の主要エンドポイントも「罹患期間」です。発熱などと違いとても主観が入り込む余地があることはイナビルと同様です。対象者の大部分は日本人です。海外で評価すれば全く効かないとの結果が出るかもしれません。ちなみに認可審査資料では、発熱期間が17時間短縮するとはなっています。
タミフルは、日本で天文学的な使用量になり、その致命的な副作用が問題になりました。そもそも、タミフルなどが不要ですし、副作用も不明なこんな薬が必要ないのです。

*「インフルエンザに随伴する異常言動について 日本臨床内科医医会誌2009;24(4):470-4):せん妄アセトアミノフェン1.55(p=0.0613)、タミフル1.51【p=0.084】、意識障害アセトアミノフェン1.06(p=0.839)、タミフル1.79(p=0.0389)熱性けいれんNS」

**<抗インフルエンザ薬の
一インフルエンザ治療の値段>
ゾフルーザ4789円、イナビル4279.8円、タミフル2720円(ジェネリック1360円)、リレンザ2942円、ラピアクタ(注射)6216円、
2,インフルエンザワクチン
もう一つの話題は、インフルエンザワクチンです。日本のワクチンは、2年連続で、ワクチン製造中に流行しそうなインフルエンザ株と大幅に違った株に変わってしまったことは、昨年12月号に書きました。この問題に対する大阪保険医協会からの返事はなにもありません。

今年もインフルエンザ報道はひどいものですが、中でも最近とみに報道内容が悪くなった「報道ステーション」で、インフルエンザのコーナーがあり、その最後に男性キャスターがそのコーナーの終わり直前におおよそ「ワクチンをしていなければ本人が自覚していなくてもインフルエンザウイルスをまき散らすのですね。」と念をおし、コメンテーターが「そうです。」と答えました。まるで、ワクチンをしていなければインフルエンザウイルスをまき散らす犯人のような報道で、悪質でした。

しかし、ワクチンをしていればインフルエンザの流行を抑制できるというような根拠はありません。コクランレビューを調べると、高齢者施設などで働いている職員へのワクチン接種は、入居者のインフルエンザを抑制する科学的な証拠がないとしています。(右上図)
臨床的研究では、介護施設従事者へのインフルエンザワクチンの接種を半強制的に行っていることの科学的根拠がないわけです。これ以上の、インフルエンザワクチンをした方が、インフルエンザを移さないという根拠はないのですが、それでもそのメカニズムが解明されないと納得いかないという方々に、かなり説得力あるデータが出ました。

今ネットで有名になっているとのインフルエンザワクチン情報です。それは、「米国科学アカデミー紀要」*というかなり権威のある雑誌に掲載された論文で、インフルエンザワクチンをしていると、インフルエンザウイルスがより多く鼻腔から検出されるという実験結果が、発表されたことです。(*Yan et al. PNAS 2018; 115: 1081- 1086)
右下の表を見て下さい。これは上記論文の’Supporting Information’の中の、ワクチンをしていると、fine-aerosol viral RNAが、ワクチンをしていない人の何倍検出されるか、というデータを簡単にしたものです。
今年度ワクチン接種をした人は、A型では、実に5.8倍になり、以前に接種した人は3倍、以前と今年度の人はなんと7.6倍にもなっています。B型では有意差が出ていませんが、1.3倍や1.2倍になっています。調査人数を増やせば有意差が出るかも知れません。
ワクチン接種をしてA型インフルエンザにかかると、インフルエンザウイルスを多量に排泄するとの結果は、ワクチン接種者の方がインフルエンザウイルスをまき散らす可能性が高く、移しやすいという結論になります。B型でも感染を防ぐものではありませんでした。
先のコクランレビューの、少なくとも入居者への感染を防ぐことはないとの結果を支持する強力な根拠となるものと思われます。コクランレビューにも書いていますが、施設職員などへのインフルエンザワクチン半強制や「移すからワクチンを」というのは間違っていることが一層明らかになりました。

はやし小児科 林

コクランレビュー
Influenza vaccination for healthcare workers who care for people aged 60 or older living in long-term care institutions.
施設職員がワクチンをしていても、していなくても、施設入所者がインフルエンザにかかった率は差なしの結果(図の菱形が真ん中にあり、オッヅ比が0.00で、ワクチン群と非ワクチン群に差がない)

表 ワクチンをした人が、していない人と比べてインフルエンザウイルスRNAが存在する倍率

インフルエンザワクチン接種歴全観察人数倍率95%CIP 値
A今年度接種915.81.1300.03
A以前接種9130.8110.1
A以前と今年度接種917.61.2470.03
B今年度接種510.90.250.94
B以前接種511.30.370.08
B以前と今年度接種511.20.280.83