前号で、HPVワクチンについての、コクランレビューの問題点の、効果の判定をどのようなアウトカム(指標)でするのかについてピーター・ゲッチェらの意見を解説しました。
それでは、がん(浸潤性)そのものを予防したというデータは、私の知る限り世界中でひとつだけで、「編集者への手紙」という短い報告がでています。今回はこのデータについて検討します。
このデータは、以前になされたRCT(ワクチンを接種する人たちと、接種しない人たちを平等に2群などに分けて、効果を比較する、最も科学的な方法)とRCTに準ずる研究参加者を、フィンランドのがん登録を使って追跡したものです。普通はRCTで使用するITT(intention to treat)という用語を使っていますので、方法については少々理解が困難です。ともかく、結果を見てゆきます。
<結果:子宮頸がんは減っている>
上の表のように、ワクチンを接種した人たち65,656人・年(観察人数×観察年数)、と接種しなかった人たち124,245人・年の両群で、子宮頸がんがどれほど発生したかを調査しています。
表の子宮頸がんなどHPV関連がんの欄では、ワクチン接種群では0人、接種していない群では10人が発見されています。その差は統計的に有意に(p=0.021)ワクチン群で少なかったことになります。接種群で0というのはインパクトがあります。
このデータによれば、HPVワクチンはHPV関連がんを予防したことは明らかで、HPVワクチンの効果があったことになります。
しかし、このデータには大変決定的な問題点があります。実は、それは、この表の中にはっきり表れています。
<その他のがんまで減っている>
がんの種類 | ワクチン群 | 非ワクチン群 | 罹患率比較 | ||||
人・年数 | がん | 10万当り | 人・年数 | がん | 10万当り | カイ二乗検定 | |
HPV関連がん計 | 65,656 | 0 | 0 | 124,245 | 10 | 8 | p=0.0215 |
(子宮頸がん) | 0 | 8 | |||||
(その他) | 0 | 2 | |||||
非HPV関連がん計 | 65,656 | 8 | 12.2 | 124,245 | 35 | 28.2 | p=0.0277 |
(乳がん) | 2 | 10 | |||||
(甲状腺がん) | 1 | 9 | |||||
(皮膚がん) | 5 | 16 |
Luostarinen T et al. Int.J.Cancer 2018;142:2186-7 より林作成
この表の下の方の欄では、HPV関連がん以外のがんについてのデータが記載されています。
確かに、HPV関連がんはワクチン群の方が少ないのですが、HPVと関連しないがんもワクチン群で少なくなっているのです。
HPVと関連しないがん(乳がん、甲状腺がん、メラノーマ、メラノーマ以外の皮膚がん)の総計はワクチン群8/65656、非ワクチン群では35/124245で、10万に当たりでは、それぞれ12.2と28.2で、統計的有意にワクチン群が少なくなっています。(p=0.027)
<他のがんも減っていることの意味は?>
これをどう解釈すればよいのでしょうか?
一つの考えでは、HPVワクチンは、子宮頸がんだけではなく、乳がんや皮膚がんなどHPVと関係のないがんをも減らす力がある、というものです。たしかに、「がんに対する免疫を高める」という漠然とした能力がHPVワクチンにあるとすれば、このような解釈も成り立ちます。
しかし、HPVワクチンは子宮頸がんの主な原因と考えられているHPVの何種類かに対する感染予防によって子宮頸がんを予防するのだとされています。
したがって、HPVとの関係が何ら示されていない、乳がんなどまで予防できないはずです。
<病者除外交絡バイアス(浜六郎氏)?>
とすれば、このような子宮頸がん以外のがんがワクチン群で少ないとのデータがでたのはどうしてでしょうか?
これは、あらゆるワクチンの効果判定で問題になる病者除外交絡バイアスの可能性があります。このバイアスとは、ワクチンを接種する人たちよりも、しない人たちの方が、病気になりやすい傾向があるというものです。
例えば、インフルエンザワクチンでは、元々熱の出やすい学童はワクチンを受けないことが多いため、ワクチンをしない学童の方がした学童より熱が出やすいために、ワクチンを打たない学童の方がインフルエンザになりやすいという、ウソの結果がでることを高橋晄正先生が証明しています。(Cochrane Library, Vaccine for preventing influenza in the elderly, Comment)
また、HPVワクチンの有害事象に関しての「名古屋スタディー」でも、元々神経系も含めて病気がちである人はワクチンを接種しなかった場合が多かったことが、浜六郎氏によって証明されています。このバイアスは、疫学・薬剤疫学では常識的なものとされています。
もう一度、表をみてみますと、「HPVワクチン」は10万人当たり、「HPV関連がん」では(8―0=)8人減らしますが、HPVと関連しないがんでは(28.2―12.2)=16人減らします。
これは「病者除外バイアス」と考えればほぼ説明のつくデータであり、とてもHPVワクチンによる子宮頸がん予防を証明したものでないことになります。
<RCTでは起こらないバイアス>
このバイアスは厳密なRCTでは生じないバイアスですが、この論文では「これは、ワクチンがHPV関連の浸潤性がんを予防するというITT(intention to treat)試験による初めての証拠であり、」と書かれています。しかし、このようなバイアスが生じているデータから、このような結論を出せるとは思えません。
以上より、これまでの医学の常識で考えれば、表のデータからは「子宮頸がんを減らす効果」はHPVで証明されたとはいえないとの結論になります。
<強い利益相反あり>
さらに、9人の著者中3人がHPVワクチン製造販売のメルク社とGSK社から研究費助成金を受け取っており、研究の費用負担にもGSK Biologicals SAが名を連ねています。
HPVワクチン会社の資金と著者の強い影響がある研究であることを考えても、信頼できないデータです。
はやし小児科 林