福島原発事故に関するIPPNW声明文 2019年2月28日(NEWS No.526 p07)

核戦争防止国際医師会議IPPNWドイツ支部の声明(2019年2月28日付)を、おなじみのドイツ在留の桂木忍氏から送っていただきました。
IPPNWドイツ支部は、科学的知見に基づき、昨年7月に日本でのオリンピック開催への懸念を表明している団体です。また、2014年2月には、医問研医師3名をフランクフルトでの国際会議へ招待していただいた団体です。
貴重な声明ですので、医問研ホームページに掲載させていただきます(本記事末尾に桂木氏による和訳を掲載)。

この声明は、事故が決して収束していないことを強調、除染はされたが人里はすぐに「セシウム137に覆われる」として、強い被曝がさけられない帰還を強要する政府に対する国連人権委員会の日本政府への批判勧告に言及しています。
「甲状腺がんのリスクは15倍に」という表題に端的に表れているように、福島原発事故以後に甲状腺がんの罹患率が異常に増加したことを明確に指摘しています。

「166人のがん確定、38人が手術待ち」との現状を説明し、いわゆる「スクリーニング効果」論を批判し、「甲状腺がんはたいした病気でないか」のような意見に反論し、甲状腺がんの罹患率に地域差がある(事故と関連している)ことを主張しています。その上で、現在の甲状腺がん検査の重要性を低めようとする動きや、福島医科大学の原発推進勢力による圧力に言及するなど、甲状腺がんの異常多発と原発事故との関連を否定する医学者・県・政府への明確な批判をしています。

また、健康に生きる権利を主張しているところも大いに評価すべきです。
以上を前提としてですが、私たちは以下の点で同意できない問題を含んでいる声明ともとらえています。

<甲状腺がんに限定することの問題>

声明の基本的問題は、「福島県立医科大学の甲状腺がん検査は唯一の学問的なスクリーニング検査で、これだけが福島原発事故による健康被害についての重要な情報源になりうるものである」(下線:著者)としている点です。実際、2016年に掲載された、H・シャアプらの周産期死亡率の増加論文や、昨年にUrologyに掲載された村瀬薫らの停留精巣の増加を示した科学的論文も無視しています。

そのようなことを主張すれば、今後の甲状腺がん以外のがんをはじめ様々な放射線障害の疫学調査も「重要な情報源に」ならないことにつながります。原発勢力が津田敏秀氏やシェアプ氏などの論文を「けなす」ときに使うのが、疫学的常識を外れた非科学的な理屈です。これにより事故の健康障害を隠します(津田論文に対するUNSCEARのひどさはその良い例で、神戸大山内知也教授により科学2018年9月号で徹底的に反論されています。http://www.lib.kobe-u.ac.jp 内で、「山内知也」で検索すると読めます)。
言うまでもないかもしれませんが、このようなこととは明確な一線を引き、疫学の常識に従った評価をお願いしたい。

<低線量も含めての福島原発事故による健康障害の研究の強化を>

世界のIPPNWの中では科学性立場のリーダーであるドイツIPPNWは、周産期死亡率や村瀬氏らの停留精巣と重症心奇形の論文の科学性を認め、世界に発信していただきたい。
他方で、「重要な情報源」が少ないことも確かです。ドイツIPPNWには、被曝の障害を明確にする研究を奨励することを世界のIPPNWに求めて欲しい。

特に、唯一広島・長崎原爆の被害を受け、チェルノブイリと並ぶ原発事故を引き起こした日本でありながら、日本の学界は福島原発事故による健康問題を原発推進派にゆだね、科学的研究を強く抑制している考えられる情況です。「重要な情報源」がより必要なら、IPPNWとして被害の研究の組織化をはかり、日本などの学会にも要求することが必要かと思われます。

今回の、ドイツIPPNWの声明をドイツの桂木忍氏を通じておしえていただくと共に、桂木氏、シュアプ氏、私たちの意見・資料を桂木氏からアレックス氏に送っていただき、一定の意見交流ができたと思われます。ドイツIPPNWの今後の議論と、来年の「声明」に期待します。

はやし小児科 林

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IPPNW声明文

2019年2月28日

出典:
https://www.fukushima-disaster.de/deutsche-information/hintergrundinformationen/artikel/4975168e9d21a04bda7900cd79e52a50/15-faches-risiko-fuer-schilddruesenkre-2.html

甲状腺がんのリスクは15倍に

この3月で東京電力福島第一原発事故から8年になろうとしている。原発事故の年に生まれた子どもたちは、今は小学校に通っている。一方で、当時放射性ヨウ素を空気といっしょに吸い込んだり、食事を通して取り込んだりした多くの子どもたちや若者たちは、今や大人になりつつある。2011年3月、福島第一原発が爆発したショッキングな映像を見た日から長い年月が経った。この話題は一般の人々の脳裏からは消え去り、日本では当時の出来事と事故がもたらした影響を考えないようにしようという風潮がある。しかし、原発事故は続いている。

放射能で汚染された水は事故原発から太平洋と地下水に流れ出している。事故を起こした原発の事業者である東京電力は、事故原発敷地内に保管してある汚染水の現状について、政府と国民に対して何年も公開していなかった情報があることを、最近になってようやく認めた。汚染水に残留している放射性物質はトリチウムだけであると明言していたのに反して、実際には約89万トンある汚染水のうちおよそ75万トンは国が定めている放射性物質の基準値を100倍以上超えており、さらにストロンチウム90のような危険な放射性同位体が含まれていることが日本の当局により明らかになったのである。当局が検査したサンプルのなかには、基準値の2万倍を超えるストロンチウム90の値が確認された。その直前に東京電力は、汚染水を太平洋に排出するという計画を公表していたところだった。しかし、この事実が発覚したため、東京電力の計画には当面ストップがかかった。

村や町では、放射性降下物質を除去するために根気よく細かい除染作業が行われた。しかし、人が通りにくい山林の多い東北地方では放射性微粒子が蓄積され、それらは制御不可能である。豪雨や水害、山火事、花粉の飛散があるたびに除染された人里はセシウム137に覆われる。原子力推進の日本政府が、とっくに帰還してもいいと考えている地域で高い放射能の値が確認されているのは、そのためである。人々が帰らないのもそのためである。事故当時20万人いた避難者のうち5万人以上が、原発事故が起こって8年経ってなお、仮設住宅や支援住宅に住んでいるが、日本政府は、この住宅支援を打ち切ろうとしている。そうすることによって人々を早期に帰還させることができると考えているからだ。国連人権委員会は今や、福島原発事故からの避難者問題について介入せざるを得ないという姿勢を見せている。

166人でがん確定。38人が手術待ち

放射能による健康被害は、甲状腺がん患者の増加という形で最も顕著に表れる。原発事故時点において18歳以下だった福島県の子どもは、2011年以降2年おきに甲状腺検査を受けている。2011年から2014年までは第一回目の検査、2014年から2016年は第2回目、そして2016年から2018年までは第3回目で、2018年からは第4回目の検査が始まっている。第一回目検査のデータ分析はすでに完結しているが、第2回目と第3回目、とりわけ第4回目の検査のデータの精査は不完全なままである。とはいえ、現在手に入る検査結果を見れば当面の結論を導き出すことができる。そもそもこの検査は、原発事故による住民の健康への懸念を払しょくさせるために始まったものであったが、結果はかえって不安をかきたてるものだということがわかった。

日本のがん統計によると子どもの甲状腺がん発生率は、原発事故の前には10万人の子どもに対して年間0.35人であった。福島県に当時住んでいた約36万人の子どもで換算すると年間の甲状腺がん発生率はせいぜい一人であろう。2011年3月の原発事故からの年数で数えると8人ということになる。

しかし、現実には、これまでに205人の子どもが細胞診検査を受け、がんが発見されている。これらの子どもたちのうち167人は、腫瘍の成長が早いため、あるいは転移が明らかなため、あるいは生命にかかわる臓器が危険に晒されているためなどという理由で手術を受けている。166の症例で細胞診によって「甲状腺がん」の疑いという診断が出ている。良性の腫瘍だという結果が出たのは一例のみである。そして、38人の子どもが手術を待っている。この数字は福島県立医科大学の2018年12月27日の最新の発表に基づいており、2018年9月末までの検査結果を網羅している。

福島県立医科大学は、この最新の発表の際に、21万7513人の子ども(33万6,669人の検査対象人数の64.6%にあたる)が検査を受け、そのうちの65%にあたる14万1275人において結節か嚢胞が見つかったとしている。不安にさせるのは、先行検査(第一回目の検査、訳者注)では特に目立った変化がなかった子どもたちのうち2万2108人(10%)において第3回目の検査で結節や嚢胞が見つかったという病理所見の数の多さである。この変化は第2回目の検査では見つかっていなかった。135人の患者においては結節5ミリ以上、ないしは嚢胞が20ミリ以上で、2次検査(さらに精密な検査、訳者注)が必要となった。それに加えて、第2回目の検査では結節も嚢胞もなかった557人の子どもたちから、成長の早い結節や嚢胞が見つかり、2次検査が行われた。
目立った所見の54人の子どもたちは第3回目の検査で細胞診検査が行われ、18人にがんの疑いが確認された。そのうち手術を受けたのは13人で、全員甲状腺がんと診断された。

昨年以来、第3回目の検査において5人のがんが確定し、6人のがん疑いが新たに出てきた。第3回目の検査のデータのうち約35%がまだ精査されておらず、最終的な評価はまだ出されていない。

スクリーニング効果?

原子力ロビーは、福島県での甲状腺がんの数が多いのはいわゆるスクリーニング効果だと繰り返し説明している。先行検査(第一回目の検査、訳者注)で見つかった101例の時まではこの説明でごまかすことはできたかもしれないが、本格検査として行われた第2回目と第3回目のスクリーニング検査では、この言い訳はきかない。ここで見つけられるがん症例はその前の検査が行われてから新たに発症したものだからである。第2回目と第3回目の検査で見つかった甲状腺がんの症例数だけを見ても65の新たな甲状腺がんが発症したことになる(第2回目で52例、第3回目の検査で13例)。約27万人の子どもたちが、4年半の間(2014年4月から2018年9月)に検査されているのだから、これは年間の発生率に換算して原発事故時点で18才以下だった10万人の人口あたり5.3例となる。前述したように、甲状腺がんの年間発生率は10万人に0.35例である。福島県での甲状腺がんの年間発生率は日本の平均値の15倍であるということがわかる。子供の時に福島県で原発事故に遭った人は、少なくとも他の日本人よりも15倍甲状腺がんに罹る可能性があるということだ。これは統計的にも極めて有意であり、スクリーニング効果とはもはや言えない。

同時に、検査を受けた子どもたちのうち8万7000人が検査受診を継続しなかったこと、第3回目の検査のデータの3分の1がまだ出ていないこと、さらに、公的な検査実施病院以外で診断・治療された甲状腺がんは統計に含まれていないことを鑑みると、隠れた数字はさらに大幅に高いことが推測される。

甲状腺がんはたいした病気ではないのか?

このように検査結果は懸念を抱かざるを得ないものである。甲状腺がんが比較的予後のいい病気であるとか、原子力ロビーが何を主張しようとも、甲状腺がんは取るに足らない病気ではなく、患者にとっては生活の質、および健康が深刻に制限される。甲状腺の手術にリスクがあることは明らかで、患者は一生薬を飲み、血液検査を受け続けなければならならず、一生再発を恐れて暮らさなければならない。「甲状腺がん子ども基金」の調査によれば、手術を受けた甲状腺がん患者の10%に再発、新たなガン細胞が発見され、あらたな手術が必要になったという。福島県では84人のうち8人に、2~3年でがんが再発している。

甲状腺がんの地理的な分布

すでに昨年の報告において、我々は福島県における甲状腺がん患者の数の分布が放射線ヨウ素の汚染の度合いと重なることを指摘した(参考文献4)。甲状腺がんの疑いで細胞診検査を受けた患者の罹患率が年間10万人につき7.7例と最も低かったのが、放射能汚染が最も少なかった会津地方であった。同じ数字が10万人につき9.9例と2番目に低かったのが浜通り地域であり、ここも放射能汚染は少ない地域である。それよりも放射能汚染が強かったとされる中通りでは、甲状腺がん疑いの罹患率は年間10万人につき13.4例とより高く、もっとも罹患率が高かったのはもっとも放射能に汚染された原発周辺の地域で、10万人につき年間21.4例であった。県民健康調査で出されたこの数字は手術を受けてがんであることが確定した症例だけではなく、細胞診検査による疑いの例も含んでおり、そのため上で述べた発生率よりも高くなっている。

甲状腺がん検査の重要性を低める試み

福島県立医科大学にとってこれらの数字は都合が悪いものであるようだ。炉心溶解が複数起こっていてもがんが増えることはない、という原発事故当初から流布されていた理論と異なっているからだ。福島県立医科大学は原発事故直後から原発推進政策をとる政府と巨大な原子力産業からの圧力を受けている。さらに、県立医科大学はIAEAを通して国際原子力ロビーからの財政的、物質的な支援を受けている。これらを鑑みると、福島県立医科大学の学術的独立性は疑いの目で見なければならない。

昨年の報告(参考文献4)で指摘したように、福島県立医科大学はこの甲状腺がん検査を自ら縮小しようとしている。当初の計画では調査対象者が25歳以上になると検査の間隔が2年とされていたのが、5年に広げられるという。福島県立医科大学のスタッフが学校を訪れ、「検査に参加しない権利」、「知らない権利」について啓蒙するという計画も明らかになった。最近では検査申請書に「希望しない」の項目を作り、子どもたちを検査から遠ざけようという試みもある。検査への参加はそもそも自由意志によるものであり、調査コホートからすでに今でも20~30%の子どもたちが検査を受けなくなっていることを考えると、このような試みは奇妙に感じられる。満18歳からは検査費用を患者ないしは家族が負担しなければならないことにも批判が集まっている。福島県立医科大学が検査参加率をさらに減らし、計画的に検査結果をゆがめることによって、検査そのものの価値を長期的に下げていこうとしているのだろう。そうなることは、日本の原子力産業にとって悪くない流れであろう。

また、福島県立医科大学の検査の数字は現実の一部にすぎないということを改めて指摘しておきたい。甲状腺がん以外の放射線由来の疾患については把握されていないし、原発事故時18歳以上だった住民、福島県以外に住んでいた人々、事故後引っ越しした人々、あるいは独自の判断から県民健康調査に参加しなかった人々で病気になった人についても把握はされていない。福島県立医科大学関係機関以外の医療機関で診断された甲状腺がんが公式の数字に含まれないことも数字が操作されていることがわかる一例である。2017年のはじめに、子どもが甲状腺がんと診断された家族が、自分の子どもの症例が福島県立医科大学の公式の数に含まれていないことに苦情を申し立てた。検査の責任者は、この子どもの病理所見は県立医科大学によるものではなく、県立医科大学が2次検査および診療のために紹介した協力医療機関で出されたものだからと説明した。この男の子は原発事故当初福島県に住んでおり、福島県立医科大学の検査に参加しており、見つかった甲状腺がんの所見によって手術を受けなければならなかったことは検査の責任者にとっては関係のないことなのであろうか。

2017年末には、福島県立医科大学の公式統計に表れない甲状腺がんが一例明らかになった。この患者は原発事故当初は福島県に住んでいて、県立医大の先行調査(第一回目の検査、訳者注)に参加したが、住んでいた郡山市から避難したために病理所見および手術が県外で行われていた。そのためこの患者は公式の統計には数えられなかったという。

甲状腺がんで統計に入らなかった症例がどれほどに上るのか、福島県外で発見された症例がどれほどに及ぶのか、あるいは事故当時18歳以上だった福島県民の甲状腺がんがどの程度の数なのか、これらすべては調査の対象外であり、おそらく知られることはないのだろう。

健康に生きる権利

福島県において、子供の甲状腺がんの罹患率は統計的に有意な上昇を見せている。だが、県民健康調査の調査主体と原子力ロビーとの間に特別な利害関係があること、および、この調査の数字が限定的にしか分析されていないことから、これらの数字が計画的に過小評価されていることが考えられる。

さらに、電離放射線によって誘発あるいは悪い影響を受けたことによって他のがん疾患、がん以外の疾患が増えていることも予想される。福島県立医科大学の甲状腺がん検査は唯一の学問的なスクリーニング検査で、これだけが福島原発事故による健康被害についての重要な情報源になりうるのである。しかしこの調査は現在原子力エネルギーの推進者たちによってなし崩しにされようとしている。

福島県の住民も他の地域に住む日本の人々も健康な環境で健康に生活する権利を持っている。子どもたちの甲状腺を検査することは、病気の早期発見・治療を可能にする。しかし、これは子どもたちだけのためというよりは、拡散された放射能によって健康を害したすべての住民にとって利益をもたらすと考えるべきである。この調査を適切に継続し、調査の結果を学問的に観察しつづけることは公共の利益であり、政治的・経済的な動機で妨害を受けることがあってはならないのである。

アレックス・ローゼン(医学博士)
IPPNW理事

参考文献:
1) Proceedings of the 33rd Prefectural Oversight Committee Meeting for Fukushima Health Management Survey, December 27th, 2018
 www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-33.html

2) NHK: Thyroid cancer relapses in some Fukushima children. 01.03.2018.
www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20180301_24

3) Sheldrick A, Tsukimori O. “Fukushima nuclear plant owner apologizes for still-radioactive water”. Reuters, 11.10.2018.
 www.reuters.com/article/us-japan-disaster-nuclear-water/fukushima-nuclear-plant-owner-apologizes-for-still-radioactive-water-idUSKCN1ML15N

4) 福島における甲状腺がん―原発大事故の開始から7年
https://www.fukushima-disaster.de/fileadmin/user_upload/pdf/japanisch/2018_Schilddruesenkrebs_in_Fukushima_Dr.med._Rosen.pdf

翻訳:桂木 忍