臨床薬理研・懇話会6月例会報告 シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第48回(NEWS No.527 p02)

臨床薬理研・懇話会6月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第48回
免疫チェックポイント阻害剤 免疫関連害作用と臨床アウトカムとの関係

21回(例会報告498号)に、免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブ(キイトルーダ)をとりあげた際、免疫チェックポイント阻害剤は、1) がんの病態が進んだ状態で効きはじめ、死亡までの期間を一定長くするというのが特徴の薬剤でないか、2) その意義をどう考えたらいいのか、3) その間の患者のQOL評価はどうなっているのだろうか、などと話し合われました。あれから2年余が経過しました。2019年6月これらの疑問に関係する2論文が相次いで出版されましたのでとりあげました。

1. 進行したメラノーマでのキイトルーダの免疫関連害作用と治療アウトカムとの関連(Bisschop C et al. J Immunother)

免疫チェックポイント阻害剤の毒性は、臨床効果と関連しているようである。この関連をキイトルーダのオランダにおける拡大アクセスプログラムデータ147例について評価した。この研究はリアルライフの大規模患者集団においてその関連を評価した最初の研究である。フォローアップ期間の中央値は37か月(22-44か月の範囲)である。

治療中のどの時点における害作用 (AEs)も、AEsのない患者と比較して、疾病コントロールを行う効果的なチャンスを示した(多変数ロジスティック回帰分析、低グレーAEsではオッズ比=12.8, p=0.0002, 高グレードAEsではオッズ比=38.5 p=0.0001)。コックス回帰分析は、治療中にAEsがない患者と比較して、治療のどの時点でも高グレードAEsの患者において、低い死亡リスク(ハザード比:0.51 95%信頼区間0.28-0.97)と病勢進行リスク(ハザード比:0.54 95%信頼区間0.30-0.98)を示した。AEs出現の時間依存を補正するために、6か月間におけるpseudolandmark分析を行ったが、AEs出現のために治療を中止した患者においても生存期間の延長が観察され、治療利益の可能性を示唆していた。

治療中のどの時点でも高度な毒性の出現は、客観的な反応率の上昇、病勢進行のない生存、全生存の延長と関連していた。早期に出現するAEsが患者の生存延長の予測因子として価値があるかについてはさらなる評価が必要である。

2. 免疫療法生存者集団: 免疫チェックポイント阻害剤で治療した転移性メラノーマ患者における健康関連QOLと毒性 (O’Reilly A et al. Supportive Care in Cancer)

免疫チェックポイント阻害剤は転移したメラノーマ患者のサブグループで持続する反応をもたらす。転移性メラノーマの生存者集団はcancer survivorship 時代の新たなポピュレーションである。この研究の目的は、転移性メラノーマの生存者を、英国の大規模な1センターにおいて、健康関連QOL、免疫関連害作用、免疫抑制剤への曝露に関して評価することにある。

生存者ポピュレーションは「転移性メラノーマと診断された患者集団で、免疫チェックポイント阻害剤に持続した反応を示し、免疫チェックポイント阻害剤の開始から最低12か月間病勢進行なしにフォローアップした患者」と定義した。健康関連QOLはSF-36(患者の自己報告健康状態調査票)を用い評価した。電子ヘルスレコードが患者データ収集に用いられた。

84例の生存者が適格で87%(N=73)がSF-36を修了した。免疫チェックポイント阻害剤関連のいろいろなグレードの毒性が92%の患者に起こり、43%がグレード3または4の毒性を経験した。ほぼ半数(49%)の患者が免疫チェックポイント阻害剤関連毒性の治療にステロイドを必要とした。一方14%がステロイドでは不十分で免疫抑制剤での治療を必要とした。

メラノーマ生存者は標準ポピュレーションと比較して、身体的、社会的機能に関する健康関連QOLスコアが有意に低かった。以前にイピリムマブ(ヤーボイ)に曝露した患者の健康関連QOLスコアは、イピリムマブに暴露のない患者に比して健康関連QOLスコアが劣る傾向にあった。

転移性メラノーマ生存者は、免疫チェックポイント阻害剤関連のかなりの毒性を経験し、健康関連QOLスコアが有意に低下している可能性を示した。これらのユニークな患者ポピュレーションの求めに応えるサービスプラニングの設計が必要である。

これまでの調査結果を総合すると、免疫チェックポイント阻害剤は、がんの病態が進んでがん細胞のPD-L1陽性率が高度になった場合に効くが、陰性や低率では正常免疫細胞のPD-1を阻害し、免疫を抑制し、がんの進行、感染症増加、自己免疫疾患を誘発させます。がんの病態が進んだ状態で生存期間を一定長くしますがその間のQOLは低下している、そのような薬剤のようです。

キイトルーダは各種がんに適応を拡大し、2018年度の世界医薬品売り上げランクは、自己免疫疾患用剤ヒュミラ、多発性骨髄腫用剤レブラミドに続く3位で、前年からの増収額は88%増収でトップ、数年後には世界売り上げ1位になると予想されています。

当日は、QOLが悪くともやり残した仕事をなんとか完成させたいなどの患者では、一定の存在意義があるのでしょうが、世界売り上げランキング3から1位の医薬品というのは異常な状態を顕著に示しているとのディスカッションがありました。

薬剤師 寺岡章雄