福島近県での急性心疾患の増加は放射線障害によるものだ(NEWS No.527 p06)

放射線の心臓障害は体内に取り込まれたセシウム137が心臓の筋肉と結合し、至近距離からの被曝(内部被曝)によって発生し、病理的には心筋の融解として確認されている(バンダジェフスキー)。心筋障害や不整脈は、急激な心停止に繋がる。その場合、日本では病理解剖を実施せずに死亡診断がなされるのが通常であり、診断名として、心不全(急性心不全、虚血性心不全)、不整脈・伝導障害、心筋梗塞、虚血性心疾患、その他の心疾患、突然死(以上、急性心6疾患)のいずれかになると考える。心不全には慢性心不全も含まれるが、その区別が困難なため心不全を採用している。
すでに、祖父江論文の問題点①循環器疾患全体を含めて、突然死を省いていること②福島県だけの分析で減少傾向にあるとだけで終わっていることを①急性心疾患としてまとめること②全国との比較をすることで批判してきた。
今回、福島県だけでなく、岩手県、宮城県、茨城県の3県を加えて急性心6疾患年齢調整死亡率を比較することで、急性心6疾患の年齢調整死亡率の増加の要因の検討をおこなった。
まず、図1に4県と全国の急性心6疾患の年齢調整死亡率の推移を示した。

急性心6疾患の年齢調整死亡率は岩手、福島、茨城、全国、宮城の順に高く、県間格差がある。この差は食習慣、救急搬送体制やAEDの配備状況、医療機関整備状況などによると思われる。ただし、全国及び各県がほぼ平行に推移し、2007年に減少、2008年増加、2009年減少とこの間は変動も同調しながら減少傾向を示している。そして、全国レベルで2011年までは年0.6%程度の減少が2011年以降は年2%程度の減少に変化している。このことは、推移を規定する要因は安定しており、全国的に共通する気候などによって変動(寒いと発作を起こしやすい)し、AEDやカテーテル治療などの普及によって治療成績が良くなって急激な減少傾向を示していると考えた。
1県ごとに全国と比較してみると、図2.福島県では、2011年までは全国と平行して推移しているので、2012年以降も全国と平行して推移すると過程したライン(1点鎖線)を予測値として、その95%上限ライン(破線)を超えているかを検討した。

福島の急性心6疾患年齢調整死亡率は2011年に95%上限付近に上昇し、2012年、2013年、2014年は95%上限を超え、2015年は95%上限付近に落ち着いていた。

宮城県の急性心6疾患の年齢調整死亡率は、図3のように、2006年から2011年までは全国より低い状態で平行して推移し、その後2011年と2014年と2016年の3回、予想傾向の95%上限を超えて上昇している。

茨城県も図4のように、2006年から2011年までは全国より高い状態で平行して推移し、2011年と2016年に予想傾向の95%上限を超えて上昇している。

岩手県は図5のように、2011年付近での上昇がなく、2016年のみが予想傾向の95%上限を超えて上昇している。
以上、福島、宮城、茨城、岩手の順に急性心6疾患の年齢調整死亡率の上昇傾向が強く長期に亘って見られた。この順は東北大震災の津波被害の大きさの順ではなく、福島第1原発事故の放射性物質による汚染の強さの順である。従って、福島近県4県での急性心6疾患の年齢調整死亡率の上昇は原発事故後のセシウム137の内部被ばくによる可能性が大きいと考えた。
福島以外の3県では2016年の急性心6疾患の年齢調整死亡率が有意に上昇していたことから、福島で、2016年の上昇が見られなかったのは偶発的な変動(ばらつき)の可能性が高いと考える。
今後、4県全体での分析や、2017年も含めたデータでの分析で検討していきたいと考えている。

保健所 森