臨床薬理研・懇話会7月例会報告 シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第49回(NEWS No.528 p02)

臨床薬理研・懇話会7月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第49回
覚醒と睡眠の日内周期リズムとメラトニン
(睡眠障害に対するメラトニン補充投与のランダム化比較臨床試験) 

メラトニンは、間脳の内分泌腺である松果体で合成され分泌されるアミンの一種で、覚醒と睡眠の日内周期リズム(概日リズム)を調節する伝達物質ないしホルモンと考えられています。明るい光によってメラトニンの分泌は抑制され、ヒトではメラトニンは夜間にのみ分泌されます(Lynch HJ. Science 1975; 187: 169-71)。分泌されたメラトニンはメラトニン受容体(主にMT1受容体)に結合し、視交叉上核(SCN) に存在する神経の活動を抑制することで睡眠が優位な状態になると考えられています。

メラトニン(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)

言葉を換えると昼間に交感神経が興奮した夜は、良く睡眠がとれるように、からだは松果体にメラトニンをたっぷりとため込んで置くのです。夜に良く睡眠できるようにするためには、昼間の適度な運動などの活発な活動が重要なことを示しており、健康な生活の指針となります。
一方、欧米において使用頻度の高いベータブロッカーの害作用として睡眠障害があり、その機序として、交感神経ベータ1レセプターを特異的に阻害してメラトニンの分泌を抑えてその夜間レベルを低下させ、それが睡眠障害をひきおこすと言われています。また、一般の生活者でも加齢によりメラトニンの夜間レベルが低下することが知られており、それが高齢者でよくみられる睡眠障害の機序とも考えられています。

今回とりあげたのは、睡眠障害に対するメラトニン補充投与のランダム化比較臨床試験の文献です。
Frank AJL et al.  Repeated melatonin supplement improves sleep in hypertensive patients treated with beta-blockers: A randomized controlled trial. Sleep 2012; 35: 1395-1402, (フリーアクセス)
ボストンのブリグハム女性病院とハーバード医科大学の著者たちによるもので、ランダム化、二重遮蔽、プラセボ対照、並行群比較のデザインです。ベータブロッカーによる睡眠障害にメラトニン補充が有効なことが示されています。ベータブロッカーで治療中の16人の高血圧患者が対象で、介入は睡眠ポリグラフ測定を含む2回の4日間のラボへの入院、最初の入院でベースラインを調べた後、ランダムに2.5mgメラトニンまたはプラセボに割り付けて就寝前に3週間投与、そのあと再び4日間入院で睡眠を評価しています。
プラセボと比較しメラトニン3週間補充は徐波睡眠(ステージ3と4の脳を休める深い睡眠)やレム睡眠(骨格筋が弛緩し身体を休める睡眠で、脳は覚醒状態を維持)を減じることなしに総睡眠時間を有意に増加させました(+36分、P=0.046)。睡眠効率(睡眠時間/ベッドにいた時間)を有意に増加させ(+7.6%、P=0.046)、睡眠グレードがステージ2(比較的浅い睡眠)に達するまでの時間(ポリグラフ測定)を有意に減少させました(-14分、P=0.001)。メラトニンはステージ2を有意に増加させ(+41分、P=0.037)、他のステージは変化させませんでした。メラトニン補充中止後も持ち越し効果がみられました(睡眠開始までの時間、-25分、P=0.001)。
著者たちは、これらの所見はベーブロッカー治療に伴う睡眠障害に対する対策に役立つかもしれないと結論しています。またpotential clinical relevance (今回の結果が可能性として持つ意味)では、とりわけ生理量のメラトニン1週間投与で中間睡眠期のsleep efficiency が改善したZhdanova IVたちの二重遮蔽、プラセボ対照ランダム化臨床試験成績(J Clin Endocrinol Metab 2001; 86: 4727-30)を引用し、メラトニン補充が内因性のメラトニン濃度が低いことによる高齢者の睡眠障害を改善する期待についても述べています。

メラトニン関連の医薬品としては、日本・米国で処方せん医薬品として販売されているメラトニン受容体アゴニスト製剤「ロゼレム錠8mg」(ラメルテオン錠、武田薬品) (国際誕生2005年7月、日本承認2010年4月)があります。効能効果は不眠症における入眠困難の改善、用法用量はラメルテオンとして1回8mgを就寝前に経口投与で、これらは日米で同一です。なおポケット医薬品集2018年版には「米国では睡眠薬として未承認、サプリメントとして販売」とありますが誤りと思われます。また、メラトニンはフランスでは医薬品、調剤薬品、サプリメントに使用されています。フランス医薬品庁ANSESは医薬品の用量に匹敵する用量でサプリメントとして販売されていることを危惧し、2018年4月11日メラトニンを含むサプリメントを摂取しないよう推奨を公表しています。

なお、筆者は高齢になってたびたび中途覚醒し、深夜1時ごろ以降に目が覚めるとそのまま眠れない睡眠覚醒スケジュール障害に苦しみました。毎朝日光をあびてウォーキングや体操をする、光が強すぎるパソコンは夕方にはシャットダウンしその後はリラックスを心がける、コーヒーなどは午後4時以降には摂取しない、その他睡眠障害の解消に良いと考えられる生活習慣はすべて試みましたが、改善の傾向がみられず悪化していました。ところがこのメラトニンアゴニストを服用し始めたその日から、中途覚醒してもすぐ寝られるようになって3週間が経過しています。中途覚醒は回数が減ったもののまだありますが、より切実な昼夜逆転の悩みがなくなりホッとしています。1例報告ではありますが、深刻な睡眠覚醒スケジュール障害には試みられていい薬剤とも思われました。また、ラメルテオンは薬のチェック75号では他の睡眠薬同様「使用すべきでない」との評価ですが、すべての薬剤が使えず選択肢のない評価は患者に厳しすぎるようにも思われ、「限定使用」が適当とも思われました。

薬剤師 寺岡章雄