福島県での循環器疾患の年齢調整死亡率について(NEWS No.528 p05)

環境省の祖父江報告では、福島県の循環器疾患全体(ICD10のI00~I99)の年齢調整死亡率を求めて、減少傾向にあるとして、循環器疾患死亡の増加を否定している。
年齢調整死亡率で比較するのは、人口の高齢化(自然増、都市部への人口流入、災害での若年者の大量非難)による影響を取り除くとともに、人口構成の異なる他の都道府県との比較をする上で必要だ。
問題なのは、まず、循環器疾患全体(ICD10のI00~I99)を分析していることです。循環器疾患全体とは簡単死因分類に変換すると表1のようになる。

循環器疾患というと、心疾患をイメージしますが、この中には約40%の脳血管疾患が含まれている。
心疾患での死亡の傾向を調べたいのであれば、せめて9200心疾患(高血圧を除く)を分析すべきである。ただ、この中にも原因が明らかで、放射線の影響を除外できる「慢性リウマチ性心疾患」「慢性非リウマチ性心内膜疾患」「心筋症」が含まれているが、この3疾患を合わせても循環器疾患全体の4.3%しかなく、放射線の影響を見る上で、無視できる範囲かと思う。しかし、約50%の9200心疾患(高血圧を除く)に対して約40%の脳血管疾患をあわせて分析すると心疾患の変動が半減されることになる。実際、福島の脳血管疾患の年齢調整死亡率を見ると(図1)のように、2011年における前後のギャップはなく、スムーズに減少している。

そこで、福島での9000循環器疾患、9200心疾患、急性心6疾患の年齢調整死亡率の推移をトレンド解析した。(図2)

環境省に対する祖父江報告は、福島県の循環器疾患の年齢調整死亡率を調べて、「減少傾向にあり、増加傾向はなかった。」としている。しかし、私が、人口動態調査の「保管統計表 都道府県編 死亡・死因 第2表-07(福島県)死亡数,性・年齢(5歳階級)・死因(死因簡単分類)・都道府県(16大都市再掲)別」からのトレンド解析では、全体として減少傾向にあるものの、2011年には有意な上昇を示した。また、2006年~2013年までの期間の回帰直線から見ても2011年は有意に突出していた(図3)。以上、増加が無かったとはとても言えるものではなかった。

また、循環器疾患年齢調整死亡率の減少は全国的な傾向であり、全国的な減少と比較して、福島県の動向を評価しなければならない。急性心6疾患として、急性心筋梗塞(I21~I22)、その他の虚血性心疾患(I20、I24~I25)、不整脈及び伝導障害(I44~I49)、心不全(I50)、その他の心疾患(I01~I02、I27、I30~I33、I40、I51)、老衰、乳幼児突然死症候群以外の突然死(R54、R95以外のR00~R99)を2006年~2016年までの、全国の急性心6疾患の年齢調整死亡率の動向と福島の動向を分析し、2010以前と2011年以後をトレンド解析した(図4)。

2006年から2010年までは福島県の急性心6疾患の年齢調整死亡率は全国の年齢調整死亡率+7程度で平行して、しかも増減まで連動して推移していた。


福島県で2011年からの急性心6疾患の年齢調整死亡率の上昇は、東日本大震災によるストレスも否定はし切れないが、原発事故による放射線障害が要因となっている可能性が考えられた。

保健所 森