フクシマの危険を黙殺させない東京オリンピックのために~独日シンポジウム報告~ (NEWS No.530 p01)

桂木氏の報告の中にある、「ハーゲン・シュアプ」講演のスライドを、同氏と日本語訳された桂木氏の了解を得て医問研ホームページにも掲載させていただきます。なお、このスライドも含めて桂木氏報告の全体はニュースで紹介された https://akjapan.home.blog/2018/12/30/hiroshima-nagasaki-und-fukushima/ でご覧ください。
ハーゲン・シュアプ氏のスライドはこちら

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9月14日~15日、外国協会所属ドルトムント独日協会主催、ハインリッヒ・ベル財団NRW州支部協賛にて表題のシンポジウムがドルトムント市にて開催されました。

主催者チームも講演者もドイツと日本の両国を代表していただけでなく、参加者も日独を代表する精鋭の活動家の集まりになりました。50人収容のホールに50人近くの参加者が集まり、熱気のある討論が2日間繰り広げられました。
シンポジウムのテーマ以外にも、メンタリティーや社会生活の在り方において日本とドイツには明らかな違いがあるのかなど、お互いに知り合うこともシンポジウムの中心に置かれました。
例えば、大阪大学から現在ルール大学に客員教授として滞在中の木戸衛一氏は、戦後から脈々と続き、現在の安倍政権につながる自民党のメディア戦略について講演し、東京電力福島第一原発事故後の報道が自由ではない歴史的経緯が報告されました。質疑応答も活発で、ドイツ側から、ヒロシマやナガサキを経験した国が一体全体どんな理由で原子力に飛びついたのかと問われると、日本人講演者や日本識者がそれにさまざまな形で回答する、という場面もありました。議論する中、日本に対する多くの偏見は取り除かれ、特にフクシマ以前から日本にも脱原発の動きがあったということも明らかになりました。

東京オリンピックの際に、特に福島県内での競技で、実際に被ばくの危険があるのかどうかは、もちろん議論の中心になりました。講演者の一人であるアンドレアス・ジングラー氏が、一年に何度も数週間福島県に滞在しているが、IPPNWの発表によると短期間では危険はない、との見解を示すと、ハーゲン・シェアプ氏がこれを一種の「矮小化」にも近い発言として、「私の娘が妊娠していたとしたら、フクシマには行かせないだろう。」と切り返す場面もありました。

シンポジウム2日目は、ドイツと日本での2020年に向けた行動計画の発表に移りました。IPPNWドイツ支部からは、「放射性オリンピック」キャンペーンについて講演があり、今後は聖火リレーのルートとなる福島県内各地の被ばくの危険性について、また東京湾の汚染の危険性について専門家として見解を発表していきたいと報告されました。ハインリヒ・ベル財団からは、2020年3月にFoEが企画して東京と福島アクションや催し物が行われることが報告されました。そこでは、東京と福島県やその周辺で競技が行われるオリンピックがテーマとなる予定です。その際、東京電力福島第一原発事故の被災者自体が声を上げ、子どもたちの状況を明らかにし、環境運動の活動家たちに発言する機会があたえられることが重要だと報告されました。

緑の党のシルビア・コッティング=ウール氏はビデオメッセージを寄せてくれ、彼女のフクシマ後の日本についての深い見識を話してくれたあと、それをもってしてJヴィレッジを東京オリンピックで使用することの不可解さを表明していました。

また、シンポジウムの提唱者からは、2020年東京オリンピックの年に、日独のジャーナリストが相互訪問して情報交換したり、さらに福島第一原発事故の体験者に日独両国で語り部として語ってもらえば現地の状況理解に役に立つだろう、と希望を述べました。

来年3月に日独両国でどのようなアプローチをしたらいいか、どうやって東京オリンピックが被ばくの危険性をはらんでいること伝えたらいいか、シンポジウムを経て日独の活動家は模索しています。そこではシンポジウム参加者たちのネットワークがさらに維持されることが重要になります。

私個人としては、ドイツで脱原発、脱核兵器の運動に携わる多くの活動家がこのシンポジウムに参加してくれたこと、パネルディスカッションでフクシマは他人ごとではないとの思いを皆が発言してくれたことに改めて感銘。自国のことばかりを考えず地球規模で核の危険を訴える、脱原発を政権が表明しても「撤回されるかもしれない」と警戒を緩めないドイツ人の「根本から取り組む」姿勢に改めて学ぶ2日間でした。また、医療問題研究会のみなさまとともに重要な2本の論文の発表に多大な貢献をしてくださったハーゲン・シェアプ氏と3年半ぶりに再会し、日本のために貴重な知識を惜しみなく提供してくれていることに感謝の意を伝えることができました。

シェアプ氏は、チェルノブイリとフクシマに共通する放射能の遺伝子への影響について講演をしてくださいましたが、この内容には参加者のほとんどから「知らなかった」と大きな反響がありました。

なお、このシンポジウムの詳細な記録は以下のブログにて日独両言語で見ることができます。
https://akjapan.home.blog/2018/12/30/hiroshima-nagasaki-und-fukushima/

桂木 忍