手作り自由集会参加報告 第8回低線量被曝と健康被害を考える集い(NEWS No.531 p01)

第78回日本公衆衛生学会が10月25日に高知市で開催されました。昨年の福島県郡山市の学会では、東電福島第1原発事故に関して3つのシンポジウムがあり、リスクの評価や甲状腺がん多発の解釈を巡り、会場との活発な議論があり、学会としての更なる課題が示されましたが今学会には、それを引き継ぐ講演やシンポジウムは一切ありませんでした。この自由集会は、放射線と健康を考える学会期間中の唯一の企画となりました。
集会では、はじめに山本英彦氏(医療問題研究会)から「福島の原発事故後の甲状腺がん検出率と外部被ばく線量率との関係」について、本年9月に英文雑誌Medicineに掲載された論文の紹介として報告されました。福島県の甲状腺検査が進むに従い、がん多発の地域差が誰の眼にも明らかになる中、福島医大や検討委員会は、それを否定しようと躍起になっています。この論文は「福島の小児甲状腺がん多発が原発事故により起こった」という科学的証明を与え、そのことを先駆的に示した岡山大学の津田敏秀氏のEpidemiology論文を補完するものである、と解説されました。
続いて山内知也氏(神戸大学大学院 海事科学研究科教授)より「宮崎・早野論文と東大・福島医科大の倫理指針違反・研究不正調査から見えてくる住民のこれからの過剰被曝」について講演を受けました。事故後にフィルムバッチで測定された伊達市民の個人被ばく線量のデータを基に、英科学誌に発表された早野龍五東大名誉教授らの2本の論文の研究不正内容が説明されました。被験者である伊達市民の同意を得ていない、掲載のグラフに捏造がある、線量評価を4分の1に過小評価した誤魔化しなどについて、これらを見破った高エネルギー加速器研究機構名誉教授黒田真一氏の指摘内容を、専門の放射線計測学をもとに参加者に解りやすく説明していただきました。
質疑応答に入るなり参加者からは積極的な発言が続きました。支援で現地を訪れた保健師さんは、ガラスバッチを付けた子どもたちを見て、モルモットにされていると異様に感じていたが、これらが本人の同意なしになぜ使われたのか、との不信を述べました。宮城出身の保健師さんからの「伊達市の責任」にされ許せない、との意見には、この調査が原子力行政の高いレベルからの指示があった可能性がある、との意見がありました。看護大学教員からは、現在は研究不正に対し倫理委員会など厳しい制裁があるのに、こんなことをして何のメリットがあるのか、と疑問が出されました。これには、除染に効果があるといっていた早野氏が、2015年を境に同じグラフを使い効果はみられないに変わる、いろんな意見があるはずの福島医大から、放射能の影響を否定する論文しか出てこないなど、意図的に真実を隠し科学を冒とくするもので、これらを批判しきることが福島医大の若い研究者を助けることになる、と述べられました。山梨の若手医師からは、事故後には各地の放射能汚染を伝えていたメディアが、数年してめっきり減ってきているとの疑念には、太平洋の汚染は一回りして戻ってきて瀬戸内海も汚染が進んでいること、台風19号など水害によるダム底に沈殿していた放射性セシウムの動態、除染されていない東京都などの現状が示されました。最後に長年にわたり日本の公衆衛生に尽力されてきた大先輩の先生から、科学者の誠実さが問われている問題なので参加した、一緒に地道な努力をしていきたい、との感想をいただきました。

制約の多い「学会後援の自由集会」と異なり、自由闊達な意見交換ができる、8回も継続している「手作りの自由集会」に、初参加の皆さん方から高い評価をいただきました。事故後10年を迎える「第9回低線量被曝と健康被害を考える集い」は、来年10月に京都市で開催されます。ともに創り上げていきましょう。