抗生物質濫用の根本責任は製薬会社、より根本的な制度改革が必要!(NEWS No.531 p08)

<35.9%が急性上気道炎に抗菌薬投与>

9月2日の毎日新聞は、協会けんぽの発表で、本来抗菌薬注が不要な「急性上気道炎」の患者に、2017年で抗菌薬使用が全国平均35.9%、多い奈良県で48.9%、少ない福井県でも26.6%使われている、との報道をしています。極めて多くの医師が「急性上気道炎」に抗菌薬が必要という間違った認識を持っている可能性はあります。これは、医者が不勉強だからですが、それだけではありません。制度的に急性上気道炎には抗菌薬の使用が当然なこととなっているのです。

実は、健康保険の料金を請求する際にその患者の病名を「感冒」とする抗菌薬の料金は支払われませんが、「急性上気道炎」としておくと抗菌薬の料金が支払われる制度になっています。したがって、日本の健康保険制度そのものが「急性上気道炎」に抗菌薬を推奨している制度なのです。

注(抗生物質+合成抗菌薬の意味で使用)

<抗菌薬濫用の責任は製薬会社にある>

このことは、公文書である抗菌薬の「添付文書」に、「適応症」として、「咽頭・喉頭炎、扁桃炎」が書かれており、これらの総称である「急性上気道炎」に使用することが、明記されているのです。ということは、抗菌薬濫用の制度を作ってきたのは製薬会社と厚労省だったのです。私が医者になりたてのころ当時「プロパー」、今「MR」の年配の方が「かぜにケフレックスをどうぞ」という挨拶代わりの言葉を思い出します。

<学会や医師も責任は免れない>

そしてそれを「学術的に」支えてきたのが各種学会です。日本小児科学会の広報誌でかぜに抗菌薬を推奨する文章を権威筋が書き、私との間で論議になったこともありました。日本小児科学会は、その反省もなにも公表していません。

そして、抗菌薬を使わなければならない病気とそうでない病気を鑑別しなく、なんでも抗菌薬を出しておきたい医師たち(本当に患者のためになると考えているかどうかに関わりなく)が、抗菌薬濫用世界トップの日本医療を創ってきたのです。その結果が、2018年4月号でもお伝えしましたように、肺炎球菌ペニシリン耐性世界ナンバー1、耐性ぶどう球菌MRSAはナンバー5、という情況を作ってしまったのです。それに対して、世界の医学会からの批判があり、WHOなども加わった日本に対する圧力が強まました。そのような中で、厚労省は世界的な医学の流れにある程度沿った対応をせざるを得なくなったことは、2018年3月号の高松勇論文に明らかです。その結果のひとつが以下の「手引き」などの政策です。

<厚労省「手引き」は積極的側面が強い>

2017年6月1日に厚労省が乱用を抑えるためのかなり積極的な「抗微生物薬適正使用の手引き」(以後「手引き」)第1版が出しました。また、小児科で3歳未満の子の感冒や上気道炎、急性副鼻腔炎などに抗菌薬が不要である由を書いた文章を渡して説明すると料金が800円つくようになりました。私自身はその以前と処方内容は変わらないのですが、これを出すようになり、増収とともに、耳鼻科などで不要な抗菌薬を処方されている方に説明するのが楽になりました。

<製薬会社は知らん顔では許されない>

この問題の根本的な責任を負っている、製薬会社の対応はどうでしょうか?抗菌薬の添付文章に2017年12月「効能・効果に関連する使用上の注意」に、「咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、副鼻腔炎への使用にあたっては、厚労省「抗微生物薬適正使用の手引き」を参照し、抗菌薬投与の必要性を判断した上で、本剤の投与が適切判断される場合に投与すること。」と書くようにはなりましたが、何の責任もとっていません。

<保団連の撤回申し入れは撤回すべき>

全国保団連は2018年2月27日に、先の急性上気道炎などに抗菌薬は不要とした厚労省の「手引き」に対し、その撤回を申し入れました。多くの医者の人気取りに出したのでしょうが、これは反患者、反医学の内容であり、製薬会社と国、そして間違っている医者を擁護する内容です。早急に撤回すべきです。(2018年4月号参照)

<科学的使用に向けて一層の闘いが必要>

この問題は、単に「手引き」発行・小児科への保険料金増額に終わらせずに、現在と未来の市民のための大きな課題です。学会もより積極的対応をするための努力が必要であり、昨年の日本小児科学会でのシンポジウムだけに終わらないより活発な取り組みが求められています。

【2016年2月号・5月号でいち早くこの問題をしてきしていた小林論文、2018年3月高松論文、2018年8月林論文も御参照ください(医問研ホームページ)。なお、「抗生物質から、広い意味で「抗菌薬」に訂正しました。】

はやし小児科  林