「ぜんそく」被患率が、原発事故後に 福島県の小学生で上昇―学校保健統計調査―(NEWS No.532 p04)

はじめに

福島原発事故後の放射能汚染による健康被害が、小児甲状腺がん、周産期死亡、複雑心奇形手術例の増加などに現れている。今回、全国一律に実施されている学校健診の項目を検討した。
学校保健安全法による健康診断の結果が、全児童、生徒の20数%が抽出されて学校保健統計調査として報告されている。この資料をもとに、子ども達の健康状態の変化を調べるため、平成18(2006)年から30(2018)年までの「疾病・異常」について、全国および主要な県の事故前後の被患率の変化を検討した。「心電図異常」については都道府県のばらつきが大きく、今回は「ぜんそく」について検討した。

結 果

年次推移(図1)において全国総数では、小学生>中学生>高校生の順に被患率は高いが、事故を挟んでの変化はみられない。

(図1)

一方、福島県では小学生の被患率が事故のあった2011年から上昇し、7年後も高止まりとなっており、この変化について統計学的推論を試みた。

考 察

時系列におけるイベント前後のアウトカムの変化をみる中断時系列解析 (Interrupted time-series analysis)を用いて検討した。

明らかに上昇をうかがわせる福島県の9歳児について、2011年の原発事故を介入イベントとして、前後5年間の「ぜんそく」被患率の回帰直線を求めた。


それぞれの回帰直線に事故前X=2010、事故後X=2011を代入して事故直近の切片を算出した。事故直前の被患率2.96は事故直後に5.62となり、オッズは1.90である。全国の9歳児で求めると、前値は4.03、後値は4.33で、オッズは1.07である。また、少なからず汚染がみられている千葉県の9歳児では、前値5.26、後値6.36でオッズは1.21となる。全国に対する福島、千葉の9歳児のオッズ比は、それぞれ1.77、1.13が得られた。このようにして両県の小学生全体についてオッズ比を求めたものが(表1)である。

(表1)

オッズ比からは福島と千葉で、小学生の全学年において上昇がみられている。数字からは汚染の高さとの相関が示唆される。
次に見方を変え、福島県の2000年から2003年生まれの集団で年齢が大きくなる中で、2011年の事故を挟む被患率の変化をみた。これらの集団の事故時の年齢は8歳から11歳であるが、いづれの集団においても事故後に明らかな上昇がみられている。

原発事故として、同様の環境放射能汚染を受けたチェルノブイリにおいても、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアなどから、事故初期の揮発性ガス状放射性微粒子の影響(IAEA 1992、Antonov 1996、ほかロシア語)、Cs137による子どもの肺機能の低下(Svendsen 2010,2015)など、ぜんそくをはじめ呼吸器疾患発生の増加が報告されている。
今回の検討で、福島の原発事故においても一般学童に呼吸器系の異変が示唆され、引き続きこれらについて検証を試みていきたい。

Reference
1.IAEA 1992
2.Reduced Lung Function in Children Associated with Cesium 137 Body Burden.
Erik R. Svendsen AnnalsATS 12 (7) 2015
3. 137Cesium Exposure and Spirometry Measures in
Ukrainian Children Affected by the Chernobyl
Nuclear Incident
Svendsen Environ Health Perspect 118(5) 2010
4. The prevalence of respiratory organ diseases among those who cleaned up the accident at the Chernobyl Atomic Electric Power Station. Antonov NS , Terapevticheskii Arkhiv [01 Jan 1996, 68(3):17-19] 1996/01
5. Radiation Effects in the Lung John E. Coggle,*   Environmental Health Perspectives Vol. 70, pp. 261-291, 1986
6. Pathology of respiratory organs in persons participated in the Chernobyl NPP accident response
Air radionuclide contamination resulted from Chernobyl NPP accident and lungs exposure “https://inis.iaea.org/search/search.aspx?orig_q=author:%22Kut’kov,%20V.A.%22″.

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