文献紹介「がん検診は寿命を延ばさない・がん死亡が減少しても検診による合併症での死亡が増えることをエビデンス(根拠)に基づいて提示するBMJ2016年1月掲載の論文」(その2)(NEWS No.532 p07)

前号に引き続き、がん検診は寿命を延ばさない・がん死亡が減少しても検診による合併症での死亡が増えることをエビデンス(根拠)に基づいて提示するBMJ2016年1月掲載の論文について、要旨を紹介します。
第二節での、がん検診が救命できるとする「強力な証拠」となっている米国NLST(全国肺がん検診)に対する評価の続きです。

*CT群による肺がん死亡率の改善は、総死亡率の改善をもたらすほど十分なものではない
*米国で毎年12,000人以上の肺がん死を防ぐと評価されている肺がん検診での死亡率改善は、検診に引き続く27,034件の主要な合併症(無気肺、心臓発作、脳卒中、死亡など)と比較対照するべき。
*NLST(53,454人対象)は例外的な結果であった可能性がある。参加者6万人のランダム化試験の系統的レビューにより、CT検診を受けた人々はコントロール群より長くは生存しなかったことが判明した。

第三節「スクリーニングに対する一般的な認識

*一般の人々はマンモグラフィーや子宮頸がん検査、PSAの利益は誇大視して認め、害には割り引いた感覚を持っていると系統的なレビューは示している。
*コクランレビューでは、PSA検診のRCT(ランダム化比較試験)について、前立腺がん死亡の減少を示すことはできず、マンモグラフィーの乳がん死亡についても減少を示さず。
*検診擁護者は検診の利点を強調し、時には恐怖を小売りする人(fear mongering)と言えるぐらい。
*マンモグラフィーを推奨しないとしたスイス医療委員会の決定の要約では、1000人の女性が検診を受けると乳がん死を5人から4人へと、1人防ぐが、非乳がん死は39人のままか、40人にも増える可能性を示している。
*今日までに600,000人以上の女性が調べられたが、マンモグラフィー検診が総死亡率の減少を示す明白なエビデンスはない。

第四節「害」

*総死亡率での明白な改善がない中では検診の危害を考えることが、より重要になってくる。
*一次検診は、検診の害にほとんど注意を払っていないことが経験的分析で示されている。すなわち57の調査のうち、過剰診断を定量化したのは7%のみで、偽陽性結果の割合を報告したのはただの4%。
*乳がん検診での偽陽性結果は乳がんの診断と同じくらい大きな心理社会的苦痛を6ヶ月後も
もたらしていた。
*10年間あるいはそれより長期間、乳がん検診を受けた女性の60%以上、及びPSAによる3~4回の検診を受けた男性の12~13%が偽陽性結果の影響を受けている。
*NLSTでは、被験者の39.1%が少なくとも1回の陽性結果を受けたが、その96.4%は偽陽性。
*NLSTでの低線量CTで肺がんと診断された被験者の18%が過剰診断であった。
*浸潤性乳がんとの診断の3件に1件(または浸潤がんと上皮内がんの2件に1件)が過剰診断であった。これらの数値は主要な検診のほとんどで認められる数値とほぼ同等。

第五節「次は何?」

*検診が命を救うかどうかを、どのようにしたら知ることができるか?10倍大きい規模で、総死亡率に考慮した試験が必要。
*結腸直腸がんの試験に基づくと、総死亡の減少を示すには410万人の参加が必要(一方、当該のがん死亡減少を示すには150,000人の参加)。
*この規模の調査には10億ドル以上の費用が見積もられることもあり得るが、大規模な全国的観察登録で行なうと費用が劇的に削減され得る。

第六節「総死亡率を重視する臨床試験への障壁」

政策、財源と一般的認識は資源集約型の科学的努力への支援を構築する際の一般的なハードルである。これらの問題での意見の一致をみるには時間と労力が必要だろう。

第七節「結論」

検診の害は確か。しかし総死亡率の改善は確かでない。検診を断る事は多くの人々にとって合理的で賢明な選択。難解な基準を満たすためでなく、医師と患者の間で合理的で共有された意思決定を可能にするために、我々はより高い基準のエビデンスを求める。

小児科医 伊集院