薬機法改正法案成立と今後の課題(NEWS No.533 p04)

大幅に遅れていた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法) 改正法案の審議が、2019年11月27日国会で可決成立しました。改正の内容は多岐にわたりますが、厚生労働省は「改正の趣旨」を、「国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するとともに、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる環境を整備するため、制度の見直しを行う」としています。改正を準備した厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会が、その議論の大半を「薬局・薬剤師のあり方」に費やし、改正に関係するとりまとめに加え「医薬分業に関するとりまとめ」が出されたことも、今回の特徴的なことでした。

薬機法改正には、患者への迅速な提供を名目として規制緩和で承認を急ぎ、安全性有効性の確保が危惧される医薬品の「条件付き早期承認制度」と、医薬品・医療機器・再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」の法制化、さらには医薬品等の安全性確保などの施策の実施状況を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会 (第三者監視組織) 設置などの重要な事項が含まれています。制度部会や国会審議でこれらについて十分な時間がとられないまま可決成立したことは、今後の薬機法改正提案のあり方に大きな課題を残しています。今回の改正が6年ぶりで非常に多くの内容が詰め込まれたことがその一因となっています。何年分もまとめて審議するのでなく、重要な内容についてはその都度改正案を国会に諮り、十分な審議が行われるようにするべきです。

本稿では、「改正の趣旨」の前半については、「条件付き早期承認制度」と「先駆け審査指定制度」の法制化、第三者監視組織の設置、後半については「薬局・薬剤師のあり方」に絞ります。

1. 医薬品「条件付き早期承認制度」の法制化

この制度は、医療関係者や国民に知られないままに2017年10月課長通知で即日実施され. 今回企業の強い恒常化要望で法制化されました。医薬品は比較群を設定した臨床試験を行い、有効性安全性を確認して承認するのが基準です。これは、確認のための検証的臨床試験について、早期承認され販売した後も不要とし、観察研究データ(リアルワールドデータと呼ばれる実地診療データ)でよいと公認する世界ではじめての制度です。観察研究データを医薬品承認に用い得るかは欧米でも慎重な検討がはじまったばかりです。この制度の対象は世界のどこでも承認されていない最先端の新薬です. 強引な規制緩和は、患者の健康被害、薬害が危惧されます。

厚労相は、日本を低コストで効率的な環境の「創薬大国」にして内外から投資を呼び込みたいと語っています. この制度だけでなく、厚労省・PMDA(医薬品医療機器総合機構)は、経済優先の「アベノミクス」成長戦略のもと規制緩和に前のめりであり、監視強化が必要です。

2. 医薬品・医療機器・再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」の法制化

この制度も法律によらず実施され、今回企業の強い恒常化要望で法制化されました。日本で世界に先駆けて開発する医薬品・医療機器・再生医療等製品を指定し、開発承認の便宜をはかる制度です。指定されると先駆け総合評価相談、優先審査の対象となり、申請から承認までの期間が6か月と設定されます。先駆け総合評価相談は、その製品の承認審査を担当するPMDAが企業と事前に面談し、開発の早い段階から早期製品化を支援して並走します。

この制度の対象として指定された抗インフルエンザ剤「ゾフルーザ」は、申請からわずか4か月で承認販売されました。しかし、その有効性は既存のタミフル同様、症状がほぼ1日早く治まる程度に過ぎません。そして高率で耐性ウイルスを発生させることが判明しています。一方、安全性について、厚労省は販売直後の2019年3月、添付文書の重大な副作用欄に「出血」を書き加えるよう指示しました。2019年6月には、重大な副作用に「ショック・アナフィラキシー」が書き加えられました。

さらに重大なことに、2019年10月の安全対策調査会資料によれば、2018年9月から2019年8月までのゾフルーザ服用後の重篤な副作用報告は348人501件に上り、うち37人が死亡しています。2018年10月から2019年3月までのゾフルーザ推定使用患者数は427万人であり、極めて高率の死亡率です。そして厚労省は担当医が「因果関係あり」とした33例全例を「情報不足等により被疑薬と死亡との因果関係は評価できない」としています。薬機法改正の国会付帯決議もゾフルーザを問題視しています。

再生医療等製品として先駆け審査指定された脊髄損傷を治療する「ステミラック注」は、比較臨床試験実施が可能な患者の多い疾患にかかわらず、13例のデータのみで承認され、科学総合誌 Nature、Scienceをはじめ国内外から厳しく批判されています。これらの実例は先駆け審査指定制度の問題点を如実に示しています。

3. 第三者監視組織の設置

薬機法改正で、「医薬品等の安全性の確保や危害の安全性の確保や危害の発生防止等に関する施策の実施状況を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会」(第三者監視組織)が新設されます。これは厚労省の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が2010年4月取りまとめた最終報告を踏まえてほぼ10年かかり設置されるものです。

最終提言は、第三者監視組織の「独立性、専門性、機動性」を重視しています。国会審議では独立性について厚労省の大臣官房に置いて医薬品行政からの独立を重視すると答弁しています。最終提言は人材を確保するため、公募制も含め透明性を確保して新たな仕組みを作る必要があるとしています。しかし答弁では「公正中立な立場で評価・監視していただくのにふさわしい委員の選任を図っていく」としか言っていません。今回の条件付き早期承認制度の法制化などは、監視委員会があれば取り組む第一の課題でないか、しかしそうしたことができるのか、などの危惧があります。

厚労相は、委員会がしっかり機能を果たせるよう全力で取り組んでいきたいと答弁しています。公募制も含め委員の選任がどのように具体化されるかなど、注視していく必要があります。

4. 薬剤師・薬局のあり方

改正薬機法は、薬剤師による継続的服薬指導 (服用期間を通してのフォローアップ)を義務化しました。薬局開設者は薬剤師にそれらの義務を実施させるべきことも明記されました。薬物療法に対する薬剤師の責任が明確になり、患者の健康状態がどうなったのかが第一という医療者にとって当然のことが、薬剤師職務においても中心に置かれる意義は大きいのです。一方で薬剤師には狭義の調剤業務をこなすことに追われる現実があり、これについては薬機法改正にともない、調剤補助者が薬剤師の監督下に行うことができる業務を整理する2019.4.2課長通知が出されています。

薬剤師 寺岡章雄