福島原発事故後とチェルノブイリ事故後の小児甲状腺がんには質的違いがない!(NEWS No.533 p07)

山本、シェアプ、林の論文甲状腺がんの論文に対して、批判の手紙がJargin SV.から出されました。(’yamamoto thyroid cancer medicine blog’で検索)

この手紙に対する反論の一つとして、今回彼が問題にしている、チェルノブイリと福島の甲状腺がんが違うという、日本でもちまたで言われていることに反論しています(正式な反論は、山本氏と私の意見をうまく取り入れながらシェアプ氏が書いてくれていますので、是非先のブログをご覧下さい)。

彼は、チェルノブイリの「急速に成長する放射性がんとして解釈される後期甲状腺がん」とは異なり、福島事故後のほとんどの症例は古典的な乳頭がんでしたと述べています。この説は以下の点で間違っています。

第一に, Demidchik YE et al.(2007)はチェルノブイリの甲状腺がん (n = 686)と 散発的(被曝後でない)甲状腺がん (n = 66)を比較し、腫瘍サイズ、病理学的型、がんのステージで有意な差はなかったとしています。

また、福島で発見された甲状腺がんは世界的な適応で手術されています。
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/35/2/35_70/_html/-char/ja

福島の一巡目に発見された甲状腺がんは、115人中101人 (2017現), 二巡目では 71人中50人 (2017現), 合計186人中151人 (81.2%)が手術されています。

甲状腺がんの直径は13.9 + /-7.8mm(SD) (一巡目5.1-45.5mm)、二巡目11.1 +/- 5.6mm (5.3-35.6mm)  でした。チェルノブイリの甲状腺がんは直径11-30mmが60-70% でしたので(http://hdl.handle.net/10069/34356)、福島が少し小さい程度です。

リンパ節転移は、福島で2016年3月31日までに手術された132人中の77.6% に認められています。チェルノブイリの甲状腺がんでは、Tuttle RM et al.はリンパ節転移のN1は55-69% (平均 60%) 、遠隔転移M1は0-17% (平均8%)と報告しています。また、彼らは、小児の放射線被ばくと関連ない場合のそれは67%(NI)と15%(M1だったとしています(RM Tuttle et al.2011)。

チェルノブイリでの大部分の甲状腺がんは、事故から4年以上して発見されています。福島では1巡目ではわずか7ヶ月から2年、2巡目では1巡目から約2年後です。 福島でのサイズと遠隔転移の差は、この発見の早さと関連するかも知れません。

したがって、福島での甲状腺がんがチェルノブイリのそれよりも良性であるとの説は間違いです。

第二に、Jargin氏は甲状腺がんの病理学的分類に関して、福島では乳頭がん(PTC) であり、チェルノブイリとは違うとしています。しかし、Demidchik YE et al.2007 の報告野中で、チェルノブイリでも740人のうち94.9% (Demidchik et al.)が乳頭がんだとか、339人中93.8%(Rybakov et al.)の報告を記載しています。

福島では乳頭がんは1巡目で100/101 (99.0%) 2巡目で49/50 (98%) 、計 149/151 (98.7%),とされています。(この率は、最近の病理診断基準の改訂後の分類であり、改訂前の分類では、一巡目で81/84、2巡目で49/50、合計130/134 97.0 %でした。)これはチェルノブイリとほとんど違いがありません。子どもの甲状腺がんはそれが被曝によるものかどうかに関わらず、圧倒的多数は乳頭がんなのです。甲状腺がんが被曝によるものかどうかは病理組織診断では分からないものです。

はやし小児科 林

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福島の甲状腺がん(山本)論文が共同通信の配信で新聞に掲載!

とても分かりやすく解説された記事が、少なくとも6新聞(合計発行部数約126万部:栃木の下野新聞、青森の東奥日報、秋田さきがけ、岐阜新聞、高知新聞、長崎新聞)も掲載されました。長崎大学のかの山下俊一教授も見ているかも知れません。

紙面版では、東奥日報10月28日の記事を再掲させていただきました。