日立市のコホート研究とNew Engl J of MedicineのRCT論文の検討(NEWS No.534 p07)

XPによる肺がん検診は効果がないことが証明され(Manser R et al. Screening for lung cancer.Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jun 21;(6).)ています。これまでの、肺がん検診の反省もないままに、今度は、低線量CTの検診に変わりつつあります。XPより比べ物にならない高額なCTを売りこもうと、医療機器巨大企業がさかんに宣伝しているようです。

例えば、「低線量CT検診 肺がん死亡リスクを51%低減」「日立市コホート研究」との見出しで、メディカルトリビューン誌に載っていました。医療機器大企業の日立製作所の城下町日立市民を対象とした研究結果で、累積肺がん罹患率は従来のXPでのスクリーニングより23%増加(多く発見)し、累積肺がん死亡数は51%も減少したとしています。この記事からでも、大変怪しそうでした。

詳しいことを知りたいと思っていましたところ、「Japanese Journal of Clinical Oncology, 2019, 49(2) 130–136doi: 10.1093/jjco/hyy185」に論文として報告がありました。この論文の結論は、先の記事とは大違いで、「低線量CTスクリーニングはたばこを吸わないか軽いスモーカーで効果があるかも知れない「may be effective」との控えめなものでした。

それもそのはず、この調査の結果は下表1です。確かに、診断された肺がんはCT群の方が0.4%多く(p<0.001)、肺がん死亡率は0.1%だけの減少(p=0.142)で有意差なしです。他方、肺がん以外のがん死は1%も減少し、全原因による死亡は1.5%も減少(いずれもp<0.001)です。

表1、Table2より

CT群XP群
対象者17,93515,548
診断された肺がん273(1.5%)164(1.1%)0.40%
肺がん死亡72(0.4%)80(0.5%)-0.10%
肺がん以外のがん死亡404(2.3%)516(3.3%)-1.00%
全死亡409(2.3%)592(3.8%)-1.50%

ところで、肺がん検診の目的は肺がん死を減らすことだったはずです。確かに、肺がん死亡率は0.1%減少しています。他方で、肺がん死よりも、その他のがん死が10倍の1.0%減少、全死亡が15倍の1.5%も減っているのです。

ですから、このコホート研究は対象者のCT群とXP群との間に元々健康の差があっただけかもしれません。そのために、対象者間に元々あったがんになりやすさの差で「効果」を補正しないと「効果」がわかりません。もし、全死亡で補正すれば、むしろXP群の方が「効果」が良いとなる可能性も大です。少なくとも、このままのデータでは「死亡率を減らす効果があった」とは言えません。

このことは、以前子宮頸がんワクチンが子宮頸がんの発生を防いだ、としていた論文でも見られたごまかしです。この論文では、子宮頸がんも減らしていましたが、このワクチンと関係ない種類のがんも減らしたとの結果でした。子宮頸がんワクチンは、関係ない他の多くのがんも減らす効果があるとは到底考えられません。ワクチン群は元々がんの少ない集団だったと考えるのが妥当です。

もちろん、このような研究は対象者を平等に2群に分けるランダム化比較試験が最も正確な結論を出すはずです。その研究が、N Engl J Med. 2011 August 4; 365(5): 395–409.に掲載されていました。この雑誌は大変権威ありますが、近年薬に関して変な論文が多数載っています。この論文もそうでした。下表2では、表1と同様肺がん死亡率は確かに0.31%減っています。肺がん以外のがん死亡も0.25%減少し、全死亡では0.56%減っています。RCTとはいえ、日立市の論文と同様に、CTとXPの対照集団に元々偏りがあったか、何らかの操作が働いている可能性も考えなければなりません。この論文の発表の2年後のコクランレビューでも、今後もCT検診は利益と害の検討が必要と結論しています。

表2、Table2,7より

CT群XP群
対象者26,30926,035
肺がん死亡427(1.62%)503(1.94%)-0.31%
肺がん以外のがん死亡1,438(5.47%)1,488(5.72%)-0.25%
全死亡1,865(7.09%)1,991(7.654%)-0.56%

肺がんのCTスクリーニングではXPのそれ以上に多くの方々が「肺がん」を発見され、悩まされ、苦しい検査と手術を受けますが、寿命は延びなかったという悲しみを味あうことになる可能性が大です。

(2020/02/24)

はやし小児科 林