文献紹介(NEWS No.534 p08)

昨年、医問研ニュース11月号・12月号と2回に分けて「がん検診は寿命を延ばさない・がん死亡が減少しても検診による合併症での死亡が増えること」を論説した「Why cancer screening has never been shown to “save lives”—and what we can do about it」(「bmj.h6080)」で検索可能)を紹介しました。

この論文の根拠となった引用文献のごく一部について、医問研1月例会で補充紹介をさせて頂きました。

#1

30年間の経過を追跡したミネソタ結腸がん検診を報告した文献(N Eng J Med 2013;369)では1年毎、2年毎便潜血施行の検診群と経過観察のみの対照群で5年毎に累積した結腸がん死亡率と総死亡率を図示していました。

がん死亡は1年毎の群<2年毎の群<対照群の順で高くなっていましたが、総死亡率は30年後まで5年毎の全ての時点で検診群・対照群に差異は見られませんでした。結腸がんによる死亡は減少するが、他の原因による死亡が増えることが示された図表でした。

#2

文献「bmj,h6080」では、CTによる肺がん検診の有効性を示すと評価されている全米の調査(NLST:National Lung Cancer Screening Trial)に対して、「参加者6万人のランダム化試験の系統的レビューにより、CT検診を受けた人々はコントロール群より長くは生存しなかったことが判明した」との批判的記述がありました。根拠文献の一つとして米国の医療研究品質調整機構(Agency for Healthcare Research and Quality)2013年の勧告がありました。

NLST、デンマーク・イタリアなどの調査をレビューしたものでしたが、私の読解力では上記の記述箇所を読み取ることが出来ず、「再検討」としました。

#3

マンモグラフィー検診について論評を出すように委任されたSwiss Medical Board(スイス医療委員会)はコクラン・データベース、英国の独立機関による調査報告、カナダでの25年間にわたる全国乳がん検診調査、米国での調査報告などを検討しました。(N Eng J Med 2014;37)

・米国の女性(50歳)は、「乳がん検診を受けなければ1000人のうち160人が乳がん死するが、検診を受ければ乳がん死するのは80人になる」と理解しているとの調査がある。しかし実際のデータ即ち米国立がん研究所と米国死亡統計の2008年の乳がん死亡率から算出すると「1000人中5人の乳がん死が検診を受ければ4人に減るが、乳がん以外の原因による死亡は1000人中39人のところ、検診を受ければ39人のままか、40人に増えることにもなる」との調査がある。

・2014年カナダの報告は過剰診断の程度について信頼できる評価を出している。44,925人の女性を25年間の観察期間中に検診で発見された、がん484のうち106(21.9%)は過剰診断であった。106人の女性は不必要な外科的治療・放射線治療・抗がん剤治療あるいはこれらを組み合わせた治療を受ける結果となった。

・コクランレビューでの60万人以上を対象とした10件の調査では、総死亡率に対するマンモグラフィー検診による効果を示唆するエビデンス(証拠)はない事が明らかになった。

・50歳で開始して10年間毎年の検診で乳がん死を防いだ米国の女性について、次のような事があり得る。670人につき490人は偽陽性のため繰り返しの検査を受け、100人に70人は不必要な生検を受け、14人に3人は過剰診断を受けている。

委員会は検討結果として「組織的なマンモグラフィー検診は被験者1000人あたり、約1人の乳がん死を防ぎうるかも知れないが、総死亡率への影響を示唆する証拠はなかった」「検診の害、特に偽陽性や過剰診断リスクを強調する」と報告し、以下の勧告をしました。

*マンモグラフィー検診を推奨しないこと

*現在の検診計画は期限を決めること

*全てのマンモグラフィー検診の質を評価すべきこと

*検診による利益と害に関して明確でバランスの取れた情報を女性たちに提供すべきこと

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文献検索を通じてEBM(根拠に基づく医療)への努力を学びました。

伊集院