COVID-19流行の現状をどう評価するか?(NEWS No.535 p06)

1.イタリアのCOVID-19流行の現状

(表1)に示すように、イタリアでCOVID-19感染者は中国に迫り増え続けている。特に人口の約1/6を占める北西部のロンバルジア州(州都ミラノ)で感染者の約8割を占める。約100万のロンバルジア州ベルガモでは「4600人が感染し、開業医110名が感染、病院にスタッフを集中させたため在宅医療も機能しなくなっている(朝日新聞より)」といった現状である。イタリアの中でも最も医療の進んでいるはずの北部中心に起こっているCOVIDについて考察した。なお、表から、活動性者は症状のある確定者と解釈できる。すなわち不顕性感染者は約20%と推定される。

(表1)イタリアのCOVID-19感染の現状

2.現地からの悲痛な叫び

上記ベルガモ大学のアンドラ・レミッチ教授らは、診療の渦中にあり、以下の様に訴えている。概略を記すと、「医療従事の専門家たちは、2月20日以来、不眠不休で働いており、20%(350名)が感染し、死亡者も出ている。イタリア全土のICUは約5200床である。現在イタリア全土で1028人がICUに収容され、活動性感染者の9-11%に上っている(注;論文の書かれた3月11日現在の数。ICU収容者は3月20にはすでに2655名となっている)。同じように感染者が増加し、活動性感染者の10%が今後の4週間にCOVID関連のARDS(急性呼吸窮迫症候群)でICUに入ると推定すると、ロンバルジア州だけで4000床が必要となる。イタリア全土では今後1週間で集中治療の必要ベッドが2500床、20000名の医師と看護師、5000台の人工呼吸器が必要だろう。集中治療専門医はすでに人工呼吸器を誰に使うべきかを考慮している」である。レミッチ氏はその上で施政者を避難、現状の改善を訴えている。

3. イタリア医療は崩壊しているか?

イタリアでのCOVID-19の増加の一因にイタリアの医療の脆弱性を原因とする論調が見られる。確かに(図1)の国民一人あたりの医療費の推移をみると、イタリアではリーマンショック後の減少があり、特に2015年後著しい。

ところが、医師数をみると、OECD統計では2017年の人口10万人当たりドイツで4.3人、イタリア4.0人、フランス3.2人、UK2.8人、USA2.6人、日本2.4人、韓国2.3人である。

(図1)イタリアの医療費

イタリアで不足とされるICUの病床数を見ると先に述べたように、イタリア全土で(人口6000万に対し)5200床、それに対しドイツは25000床、また日本ではICU病床5528床(平成28年度)である。人口当たりのイタリアのICUは日本より多い。

以上からは特別イタリアの医療体制が劣っているとは思えない。ではなぜ7000名に及ぶ多数の死者や確定者の10%という高い致死率になっているのか? この点について、感染確定のためのPCR検査を初期から導入している韓国と比較して論ずる。

確定者の増加については、複数の初期感染者の特定や隔離などの対応が不十分であったため、医療従事者を含む院内感染の多発やマスギャザリングでの多発となり爆発的拡大の原因となった可能性は十分考えられる

一方韓国では2012年のMERSの経験もあり当初からPCR検査の対象を広げ、感染者の特定と隔離を行った(3月20日現在、検査実施者は30万人を超えた)。そのためか、患者の指数関数的増加を早い時期に食い止め封じ込めつつある;との推定は可能である。

(図2)は欧州各国と韓国の日々の確定患者の推移を示す。

(図2) 韓国と欧州の累積感染者数(3月20日現在)

4.イタリアで死亡例が多い原因の一つは高齢者の罹患が多いためと思われる

イタリアは先に述べたように初期の封じ込めに失敗したと推定可能であるが、死亡率が高いのはなぜか?ドイツに比べ、重症者治療にあたるべき人、ものの配置がうまくいっていないのかもしれない。ここでは高齢者の数という観点から死亡数の増加について論じてみた。

(図3)は年齢分布が判明しているイタリアと韓国の感染確定者の年齢分布のグラフを示したものである(3月19日時点)。明らかにイタリアでは確定者35731名中高齢者の割合が高く60歳以上が56%である。また致死率は8.5%と高い。一方韓国では8413名中60歳以上は22%、致死率は1%である。韓国でのPCR検査実施者累積者は約30万人、イタリアは約20万人と、日本に比べはるかに多いが、韓国では特に10-40代までの検査が多く、イタリアは60代以上が多いなど、検査実施の基準が同じではないため、両国の年齢群別の致死率の比較は公平ではない。例えば韓国では、死亡者が少ない点について、感染確定数を押し上げている宗教集団での20-29歳での女性の存在が大きいという当局の評価がある。

(図3) 韓国、イタリアの診断確定者の年齢分布の比較
(棒グラフ上:韓国、下:イタリア)

5.どうするか 高齢者の呼吸窮迫症候群への進展をとめること

以上の結果から、イタリアの高い死亡率を押し上げている原因として高齢者の感染拡大があげられるのではないかと考える。高齢者率の高さや病院通いの多さなど日本と酷似している。日本と異なり、社会活動への積極的参加が感染を助長したといえるのかもしれない。

高齢者のCOVID死亡を押し上げているのは肺炎からより進んだ病態である急性呼吸窮迫症候群に進むためであると推定されている。したがって、高齢感染者や肺炎発症者に対しては早期から治療に入り、できれば急性呼吸窮迫症候群への進展をくいとめることが必要となる。PCRの実施拡大を含め、周囲の感染者を早期に割り出し高齢者との接触を防ぐことは言うまでもなく、高齢感染者に対しては感染早期から医療監視下に置き、個体の過剰な免疫反応で起こる全身反応である急性呼吸窮迫症候群を起こす前の段階での普通の輸液や酸素投与、血圧維持などによる早期の一般的治療が必要と思われる。

6.最後に

我々も日常の感染症を防ぐ手洗いを中心とした手立てを実施しながら、胸痛やひどい咳、しんどさなど、肺炎を心配したらかかりつけ医に相談する、むやみに解熱剤を使わないなどの防護策を実施しながら、根拠のない過度の安心はせずに対応することが求められる。

大手前整肢学園 山本 英彦