アビガンの効果はまだなにも証明されていない、入院や死亡数を減らすか全く不明(NEWS No.536 p04)

3月31日に、製造販売元の富士フイルムがアビガンの国内治験を開始、安倍政権はこの効くか効かないさっぱり分からない「物質」を200万人分、139億円で備蓄するとのことです。マスコミでは、コロナウイルスで一躍有名になった、岡田晴恵氏やノーベル賞受賞者本庶佑氏などがさかんに売り込んでいます。岡田氏は、元感染研職員でデマの本「新型インフルエンザ恐怖のXデー」を書いた人です。当然、このアビガンも厳しい「批判的評価」が必要です。

1.アビガンとはどんな「物質」

アビガンとは、元々抗インフルエンザ薬として開発されました。抗ウイルス作用の機序がタミフルなどのノイラミニラーゼ阻害とは違い、「ウイルスの複製に関するRNAポリメラーゼを選択的に阻害すると考えられている」(添付文書案)そうです。これまでの抗インフルエンザ薬との機序の違い、耐性のなさなどを売り文句に承認を目指しましたが、動物実験で「初期胚の致死及び催奇性が確認され、精液にも移行するために男女共に危険なために、使用すると国が判断した場合のみ使用可能と考えられる。」とされ、実際には使用されませんでした。当初は、200万人分の備蓄が目標とされました。

ここまでは多くのメディアで知られていると思われます。

2.アビガンはインフルエンザにも無効?

アビガンがインフルエンザに対して、効果があったとするデータも出されていますが、「添付文書」の「試案」には、以下の様な、まるきり効いたとは言えないデータが記載されていたのです。(下表)

このように、使用量や対象を色々変えて実験し、その中の効いたとするものを選んで認可された模様です。こんな物がどうして認可されたのか不思議ですが、これを開発した富山化学の親会社富士フイルムの会長は安倍首相の財界お友達として有名な人だったことから「安倍印の国策薬」として承認されたのではないかとの報道があります(週刊文春)

3.アビガンは新型コロナウイルスに効くのか?

知っている限りでは、中国での臨床試験が日本に先駆け実施され、そのうち2つの報告が論文として雑誌に投稿されています。

日本のメディアに載ったのはたぶんそのうちの1つで、これは、「Lopinavir/ritonavir」というHIV(エイズ)の薬との対照試験でランダム化試験ではありません。この論文では、図のように大変効果があるようになっています。

上図:Y軸はウイルスの陽性率、X軸は投与後の期間、実線のアビガンの方が早くウイルスが陰性化している。

下図:投与14日目のCTでの肺炎改善率:左はウイルスが7日以内に無くなったグループでは、7日以上ウイルスがなくならないグループより多くが良くなっている。変な比較と思いますが。

日本のメディアも安倍首相もこれに飛びついたのかも知れません。しかし、この論文は、撤回されています。よほど重大な問題があり、効果がなかった可能性大です。

もう一つの論文は、中国で使われているインフルエンザ「薬」Arbidolとのランダム化比較試験です。これは、medRxivに投稿され、レビューされており、論文ドラフトとレビューアーの意見が公開されています。(*)

「それはまだ評価されていない新しい医療研究を報告しているので、臨床診療を導くために使用されるべきではありません。」(medRxiv)という段階です。(結果は下表)

(注:原著ではRR: ‘Rate Ratio’)

この雑誌のレビューアーのコメントでは。主要結果が事前に登録されてなかったこと、ランダム化した患者群の比較をするのではなく、当初決められていなかった患者の一部だけを取り出して比較したことがだめ、とされています。この方法ですと、実験終了後いろいろな群を比較して有意差が出る結果を拾い上げて、効果をでっち上げることも可能です。

次に、ランダム化した方法が詳しく書かれていないため、ランダム化が正確でありません。患者の配分がアビガンに有利になるようにされている可能性が残されます。

また、このRCTはどの患者にどちらの試験「薬」が投与されたのかが、医者にも患者にもわかる方法でした。そのために、例えばCT所見や症状をアビガンにひいきして判定することもできます。アビガン群の患者も「アビガンの方が良く効く」とささやかれ、患者自身も症状が少ないように思えるかも知れません。

この研究が目標にしていた効果の指標(プライマリーアウトカム)は投与7日目の治癒率です。先のような問題点があるにもかかわらず、この目標では両者には統計的有意差がありませんでした。効果を証明できなかったのです。

そこで、著者達は、患者の中の軽症グループに限った「Subgroup analysis」による結果を主な結果として、効果があったかのように報告しているのです。統計的手法にも問題があると指摘されています。

以上のように、どう考えても科学的にアビガンの効果を証明してとは言い難い研究だっとといえます。

なお、以上の治験はアビガンの「物質特許」が切れているため、中国企業が製造・販売しているアビガンのジェネリックを使っています。安倍政権が、気前よくアビガンを諸外国へ「提供」していると報道されていますが、それはアビガンにCOVID-19への効果がある程度証明できれば中国との競争に勝つための事前のサービスを国費で行っているとも考えられます。

4.日本での臨床試験の質は?

以上の様に、あまり芳しくない中国での治験の状況ですが、2月29日に安倍首相が日本で「観察研究」が行われていると宣伝しました、その後、RCTが採用され、6月末を目途に実施されています。先の、中国の論文を参考にしたのか、対象を「酸素吸入が不要な肺炎」患者だけを対象として、医師はどの薬と使っているか分かる「単目隠し方」を採用しています。

これならば、医師の主観で効果を判定することをプライマリーアウトカムにすれば「効果あり」の判定ができます。安倍政権が開発すると明言していることですから、「効果がなかった」とは治験担当者もよほどのことがないと言えないと思います。「安倍案件」として、効かない・危ないアビガンが認可されてはたまりません。さらに、これを突破口として「早く使わなければならない薬」が次々に早急に認可されることが危惧されます。

最後に、「命を救うために早くアビガンを承認すべき」という本庶氏の意見)はまるきり間違っています。(彼は知っていて言っているのでしょうが。)

現在までの治験では命を救うような結果は期待できません。とはいえ、日本の治験ではそのような結果も出る危険性があります。

(*)最近このように掲載される前のレビュー中の論文が公開されているようです。私も共著者である、福島原発事故後の低出生体重児の率と被曝量の関連を示した論文も現在レビュー中で公開されています。

4月28日 はやし小児科 林