PCR検査抑制は明らか 必要な検査を行える体制を国に要求しよう(NEWS No.536 p06)

4月20日、新型コロナウイルス感染症COVID-19の院内感染防止のため、無症状患者の感染の有無を調べる検査に公的医療保険を適用することを求める声明を、全国医学部長病院長会議が出した。同会議は、手術や分娩の前にPCR検査ができる体制の整備が必要として、「各病院で院内感染を防ぐ水際対策が遅れれば、医療崩壊につながる」と強調している。

慶応大学附属病院などで院内感染が相次いでおり、一部の大学病院では、外科手術を受ける患者に対し無症状でも検査しているという。新型コロナウイルス感染者は無症状の場合があるが、何割の人が無症状か正確には分かっていない。COVID-19のPCR検査は「実施に関しては保健所へ相談すること」となっているが、なかなか保健所に電話がつながらなかったり断られたりという実態があり、発熱のない咳や3日以下の発熱・咳などの軽症者は検査されていないのが実態だ。

日常診療に携わっている医師は、新たに受診する患者さんのうち誰がCOVID-19感染者か分からないので、初診外来では誰が感染しているかわからないという前提で対策をとらざるを得ない。

世界の中でも日本のCOVID-19の検査数の少なさは異常だ。米国などとは2桁違うし、日本より人口の少ない韓国でも6倍、ドイツで21倍などと比較にもならない。そこから導き出される感染者数も不正確だし、死者数も肺炎などCOVID-19感染の疑いのある患者を全て検査していない以上、全く信用がおけない。

東京五輪を開催するために感染者数を少なくしたかったことが疑われる。安倍や小池は、検査を絞って公表される日本の感染者数を増やさなければ、予定通り7月に東京五輪が開催できると高をくくっていたと思われる。3月24日の東京五輪開催延期の決定で態度を変え、それまで全く増えていなかった検査数も増え出した。

「専門家会議」は3月28日の基本的対処方針では「積極的疫学調査等の蔓延防止策により、各地域において感染経路の不明な患者やクラスターの発生を封じ込めること・・」としていた。クラスター対策であれば、感染者の早期発見と感染者の周辺の追跡をしっかり行うべきなのに、ほとんどしていない。濃厚接触者でも症状がなければ、保健所や保健所内に設置された帰国者・接触者相談センターに個人や医師が検査依頼しても検査されなかった。基本方針を怠ったといえるのだ。しかしCOVID-19は軽症や不顕性感染も多く市中感染が不可避な感染症だ。どんどん検査をして少しでも早く感染者を見つけて隔離や治療をしていかないと感染拡大を防げないということになる。だから韓国やドイツなど日本以外の国は積極的に検査をしている。

また、そもそも検査が出来なかった。日本の感染研究所や防疫所、保健所などの多くは20年以上も前の古い診断機器を使っていたり、検査技師などの人員も削減される一方だったりという状況だ。また1994年の「地域保健法」改定前は全国で847カ所あった保健所が2019年には472カ所と半減させられている。大阪では橋下府政の前には府内28カ所あった保健所を14カ所に半減。さらに人手も減らした。大阪市では保健所をたった一つにし、残りを医師がいなくてもいい保健センターに改組した。ほかの政令市でも同様のようだ。

新型コロナの検査を受ける時に個人の意思や医師の判断でもできずに、すべて保健所や「帰国者・接触者相談センター」の許諾が必要という検査抑制の仕組みが問題だ。そもそも予算も人手も数も減らされた中では検査そのものが難しい。保健所などで非正規雇用化が進行し、これも検査などのCOVID-19対策を脆弱にしているだろう。さらに、医療費や病床の削減という流れの中で、全国の「感染症指定医療機関」の数も100以上減らされているし、ICUの病床数に限れば、ドイツの6分の1、イタリアの半分などと非常に脆弱だ。

症状があってCOVID-19疑いケースには積極的にPCR検査を行い、必要な治療を含めた感染対策につなげる体制を早急に整備するように国に求める必要がある。

いわくら病院 梅田