学校一斉休校措置は中止し学校の再開を! 同時に、学校条件の改善と感染モニタ-を確実に(NEWS No.537 p06)

政府は2月28日より小中高の一斉休校を要請し全国的に実施されましたが、果たして科学的に妥当性はあるのか疑問に思われた方は多かったのではないでしょうか?

経験的に、インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルスなどでは乳幼児や小学生の間で感染が短期間で一気に拡大し保育所、幼稚園、小学校で集団発生が出現します。しかし、これだけ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界で流行しても、子ども集団での感染例はほとんど報告がされていません。実際に、中国からの報告では、大人と比して子ども発症者は少なく、症状は軽症者が多いと報告されています。全患者44672人中で20歳未満患者は965例(2.1%)でした1)。また、重症患者の割合は全年齢で18.5%ですが、子どもでは5.8%でした2)

世界保健機関(WHO)の報告書でも3)、インフルエンザでは子どもが感染の原因であることが多いが、新型コロナウイルスでは子どもは大人よりも影響を受けず、0-19歳のグループの発症率は低く、子どもは大人から感染しており、その逆ではないことが示唆されると述べています。

日本でも一斉休校されていた学校の再開が始まっています。世界的に見ても、ロックダウンをしていた欧州の国々では学校を再開し始めています。一方でロックダウンを実施しなかったスウェ-デンでは、この間でも大学と高校以外の学校は通常通り開校されていました。

学校再開に際して、子どもの感染の危険性の問題が大きな話題となり、世界の研究者たちの間で議論がなされています。総合科学誌『Nature』が5月7日号でこの問題を報告しています4)ので、それも紹介しながら考えていきたいと思います。

1) Susceptibility debate 感受性の議論 (子供は感染しにくいか?)

家族内感染を調べた報告がいくつか報告されています。中国の深センの分析では、10歳未満の子どもは大人と同じくらい感染する可能性が高いが、重篤な症状を示す可能性は低いと報告されました5)。子どもたちが静かに感染を拡大している可能性があるという報告に驚きがありました。

一方で、検査がより広範囲に行われた韓国、イタリア、アイスランドからのいくつかを含む他の研究は、子どもの感染率の低下を観察しています。

また、サイエンス誌に発表された中国の報告では6)、15歳未満の子どもの感染率は15歳から64歳の大人と比べると1/3程度と報告しています。

現状では、子どもは大人と同程度に感染するとする報告と、感染しにくいという報告があります。

2) Transmission risk 感染リスク (子供は感染させにくいか)

フランスアルプスでの調査では、新型コロナウイルスに感染し軽症だった9歳児が、感染しているとは知らずに3つの学校と1つのスキ-スク-ルに通学。発症中に学校関連で102人と接触しましたが、感染した人はゼロ。研究チームは、今回の事例は「子どもがこの新型ウイルスの重要な感染源ではない可能性を示唆している」と述べています7)

オーストラリアからの世帯調査の報告では、子どもが感染を家庭に持ち込む最初の人であることはおよそ8%の世帯でしかなく、めったにないことであると報告。H5N1鳥インフルエンザの発生中に子どもが最初に確認された症例があったのは世帯の約50%であったことと比較して少ないと述べています8)

学校からより広いコミュニティへの感染に関する研究は少ないですが、オーストラリアの報告によると、それは限定的であり、インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスよりもはるかに低いことが示唆されています9)

この様に子どもが感染源になるリスクは少ないことを示す多くの報告があります。学校や保育園におけるクラスタ-の報告はないか、あるとしてもまれであり、拡がっていく可能性は低いと言われています14)

3) 学校を閉鎖しなかったスウェ-デンの小児の感染者はむしろ少なかった

スウェ-デンは、5月16日現在、感染者数は約30,143人(人口の約0.3%)、死者数は3679人で、感染者数で全世界上位24位です10)。また、最近の研究では11)、スウェ-デンンの実効再生産数(Rt)は欧州11カ国中で最高で2.64(本年3月28日現在推計)で、社会の中で多くの感染が生じており、社会全体の感染リスクは高い状況にあったと考えられています。このパンデミックの中でも小中学校を通常通り開校していましたが、スウェ-デンでは小児の感染者の割合は決して高くなく、むしろ中国、イタリアと比較して少なくなっています。この事実の意味することは、小中学校を開校しても感染は高くないこと、一斉休校が子どもの感染拡大防止につながる科学的根拠がないことを示しています。

患者の中で0-19歳の患者が占める割合12)

*実効再生産数(Rt)(1人の患者が何人に感染を広げたかを示す数値。1より小さいと終息していく)

4)学校に戻ることを許可されるべき

イギリスの小児感染症研究者は「子供たちは大多数の感染症について責任を負っていないし、データは学校を開校することを支持している。証拠に基づいて子供たちが学校に戻ることを許可されるべきである」と述べています。また、「子どもたちは教育を逃したり、無料の学校給食などの社会的支援を得られないなど、ロックダウンから得ることが最も少なく、失うことはたくさんあります」とも語っています4)

上記の調査や研究報告から考えると、学校はその学校に感染者が出ていない限り、電車通学の場合を別として、小・中学校での感染リスクは低く、学校は比較的安全な場所であることを意味しています。学校一斉休校措置は中止し学校は再開されるべきと考えます。

5)学校再開に際して配慮すべき内容

一方で、子どもたちがウイルスを排泄しており、子ども感染源になりうるという報告13)がいくつかあり、学校と幼稚園の無制限の再開に対して警戒する意見もあります。この議論を解決するには、学校再開前後で感染者が実際に増加するのかを確認するための追跡モニタ-調査が必要です。

また、学校再開に際しては、子どもたちの感染拡大防止のための環境改善も必要です。日本の学校体制は、狭い教室で多数の子どもたちがひしめき合う密集した状態であり、感染リスクを高めるものです。感染リスクを減らすために教室で机を離し距離を十分にとった環境を作ることが必要で、そのためにも少人数学級制の導入が至急に求められています。

参照:子どもも例外的に重症化することがあり、最近、川崎病に似た症状を示す患者が、わが国では報告されていませんが、英国や米国から報告されており注意は必要です。

参考文献:

1)The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) — China, 2020  China CDC Weekly

2)Pediatrics  https://doi:10.1542/peds.2020-0702

3)WHO Coronavirus disease 2019 (COVID-19) Situation Report – 46

4)Nature 581, 127-128 (2020) https://doi: 10.1038/d41586-020-01354-0

5)Bi,Q.etal.LancetInfect. Dis. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30287-5 (2020).

6)Zhang,J.etal.Science https://doi.org/10.1126/science.abb8001 (2020).

7)Danis, K. et al. Clin. Infect. Dis. https://doi.org/10.1093/cid/ciaa424 (2020).

8)Kirsty Short, University of Queensland in Brisbane, Australia 未発表のメタアナリシス

9)Pan, A. et al. J. Am. Med. Assoc. https://doi.org/10.1001/jama.2020.6130 (2020).

10)worldometer COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC

11)Imperial College COVID-19 Response Team,:

Report 13: DOI: https://doi.org/10.25561/77731

12)医問研・山本英彦氏作成グラフ

13) Yi Xu et al. Nature Medicine 26, 4 doi: 10.1038/s41591-020-0817-4

14)小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会

高松 勇(たかまつこどもクリニック)