新型コロナの抗体検査について(NEWS No.538 p04)

抗体検査(IgM、IgG、IgAなどの血液中の免疫グロブリンタンパクの検査)は最近までの罹患履歴を示す検査であり、公衆衛生上も、個人の感染を振り返る意味でも重要な検査である。一方、ウィルスのどこに対する抗体を測っているのか(例えばコロナの突起か、膜タンパクかなど)や中和抗体なのか、いつ測ったのか(早すぎると陽性にならないし、遅すぎると陰性になるかもしれない)、検査キットによる陽性閾値や感度特異度の問題、測定した抗体は中和抗体か、抗体陽性なら二度と罹らないのかなど、多くの不確定要素も含む(例えば100検査キットが15万円など、商業ベースで用いられるため、品質の差も大きい)。これらも踏まえて、現在まで明らかになってきた点を紹介したい。NEJM, Lancet, JAMA, Nature, ScienceなどのSARS-CoV-2/COVID-19関係論文を中心に、PubMedからCOVID-19/SARS-CoV-2、antibody, seroprevalence、serology surveillance などの抽出論文タイトル900くらいから約50論文をhand searchし検討した。

1.感染後どのくらいで陽性となるか?

図1は中国3病院での有症状者263名、313サンプルでのIgG, IgM 抗体の出現日時、頻度である。症状出現後20日までにIgG 抗体の100%、IgM抗体の94%が陽性となる。また、IgG抗体の30%は症状出現2-4日で抗体陽性化する。

2.抗体上昇でウィルスは消えるか

図2はウィルス培養を基準にした場合の抗体価との関係を示した。明らかに抗体価が100%近くでウィルスは培養されなくなる。蛇足になるが、右は症状出現後の日数とウィルス培養の関係を示している。症状出現後10日までにウィルスは培養されなくなる。

3. 厚労省の抗体検査

6月1日から7日にかけて、厚労省主導で新型コロナウィルス感染の実態を把握するため、東京都、大阪府、宮城県の無作為抽出7950名に新型コロナウィルスの抗体検査が実施された。3社の検査キットを用い、対象とした宮城県の陽性率の高かった検査キットを除き、抗体陽性率は東京0.1%、大阪0.17%、宮城0.03%という結果であった。人口に対するPCR累積陽性結果からの5月31日までの感染率はそれぞれ0.04%、0.02%、0.004%であり、数字上はPCRに比べ抗体からの新型コロナり患は10-20倍高いという結果であった。が、抗体陽性数は全体でも6名であり、こういった評価は不正確であるが、大半の人は抗体を保有していない(罹っていない)ことは明らかとなった。

4.各国の献血者の抗体陽性率からみた感染の広がり推定

献血者の血液抗体は、年齢の画一性、健康体であること、定期的な検体採取が必要などから各国や同じ国の罹患情報の比較をしやすい。

4月実施した日本の日赤献血検体での陽性者は2/500=0.4%であった。

4月から5月にかけてのイングランドでは毎週地方ごとに1000検体を検査し、経時的にフォローしている。それを見るとロンドンでは約14%が抗体陽性を示した(図3)。

デンマークでは4月6-17日9496検体での陽性率は1.7%だった。

以上のように、欧州でも国の差はあるが、おおむね日本より新型コロナウィルス感染が広がっていることが推定される。

5.都市レベルの陽性率

ロサンゼルスでは863名中35名が陽性、陽性率0.04%とされた。が、この35名の中には発熱+咳10名、味覚異常7名を含む25名の有症状者が含まれている。

スイスのジュネーブでは広範囲な地域と年齢層で、4月6日から5週間、計2766名に抗体検査、279名の陽性(10%)を得た。対象者選出規模と方法、範囲により陽性率はかなり異なるので、地域の陽性率を比較する場合は条件を均等にする必要がある。なお参考までにジュネーブのPCR実施率は70/1000人である。

6.医療機関での抗体検査

神戸中央市民病院では3月31日から4月6日までに通院し年齢層別化した患者さん1000人の血液抗体を調べ、33/1000名が陽性だった。

スウェーデンのカロリンスカ医科大学では11000人の病院職員からPCR5500、抗体3200を採取し、PCRは7%、抗体は10%、両者陽性が2.4%と報告した。医療職員での感染者の多さを示すものと思われる。

7.PCRと抗体の関係

クラスターでの濃厚接触者164例の分析で、PCR陽性は16例9.7%、そのうち13例は症状を示し、3名は無症状だった。この16例はいずれも抗体陽性であった。PCR陰性だった148例はいずれも無症状で、そのうち7例は抗体陽性であり、全体での抗体陽性率は23/168=14%、抗体陽性に対するPCRの感度は16/23=70%であった。

有症状者は抗体陽性者の57%だった。

8.結論

以上から、現在市販されているSARS-CoV-2ウィルスのスパイク抗原に対するIgGないしIgM抗体キットの一部は、中和抗体を測定しており、それはウィルス増殖を阻止できる可能性が高い。

どのくらい抗体が持続し、再感染を防げるのかとか、いわゆる集団免疫の役割を果たすかどうかはまだわからない。

無症候者の不必要な隔離期間を短くする根拠となりうる検査とも考える。

また、疫学的には流行規模や罹患率などについては、PCRより正確に追うことができるものと考える。

抗体検査キットの世界的統一と個人負担の無料化が望まれる。

大手前整肢学園 山本