福島原発以後に低出生体重児が被曝線量と比例して(1µSv/hごとに10%)の増加の論文が掲載される!(NEWS No.539 p04)

「福島原発事故後の日本における都道府県レベルでの低出生体重とCs-137沈着との時空間的関連:分析生態学的疫学研究」

Hagen Scherb1 、林敬次

解説、その1 (医問研ホームページの概説参照)

これは、医問研会員が著者として、周産期死亡の増加、甲状腺がんの増加の論文に続き、福島原発事故が健康障害を起こしたことを証明した3作目の論文になります。3論文共に、我々のアイデアと提供したデータを元に、高度な統計学的分析方法駆使して、解析し、論文に仕上げてくれ、編集者やレビューアーとのやりとりを元に様々な改善をして論文掲載にこぎつけてくれたのはドイツの著名な生物統計学者Hagen Scherbさんです。また、この場を借りてシュアプさんにお礼します。これらの共同研究は、ドイツ在住の桂木忍氏の助力で実現したものです。

<低出産体重児LBWの意味>

まず、LBWの意味ですが、下表のように低出生体重児は周産期死亡・早期新生児死亡と強い相関があり、多くの小児の病気と関連が指摘されています。さらに、成人病との関連までも指摘されており、WHOでも妊娠出産を評価する重要な指標になっています。

<論文の結論>

さて、論文の順序とは逆になりますが、分かり易くするために、結論から入ります。今回のLBW論文は、日本の各地域の被曝量とLBWの比率の増加が比例していることを証明しています。LBWは出生児の健康状態に強い影響を与え、成人病にもつながるというデータもあるぐらいです。まして、原発事故後の影響であれば、母胎と胎児への放射線被曝の影響が出るため、他の要因とは違う深刻な問題でもあります。

それが、下図です。(論文Fig )

縦軸は、事故後に増加した率をオッズ比で表しています。横軸はセシウム137による放射線量μSv/hです。左端は被曝量が高い10都道県を除いた日本全体のオッズ比(黒丸)と95%信頼区間(舘の線)を現します。次から右へ10個のオッズ比は汚染度が中から高度の10の都道府県を表しています。汚染度が高いほど低体重児の増加率も統計的有意に高くなっていることを示しています。「1μSv/ h(8.8 mSv /yに相当)は、低出生体重イベントを観測する確率を約10%増加させます。」これが結論です。

<初めて全国の推定被曝量を使用>

C137の汚染度のデータは、ヤスナリらの論文から得た、都道府県別のデータを、UNSCEARのデータで補正しています。(論文table2)前者のデータは、福島での初期の計測数が少なく、極端に低くなっていたためです。これにはシェアプ氏の大変なご苦労がありました。もう一つの問題は、出生体重は、様々な要因に影響を受けます。日本の場合、妊婦の体重を制限することが産科医師によって全国的に行われたため、低出生体重児がどんどん増加しています。しかし、この傾向は2004年ごろより弱まり、2007年頃ピークを迎えますが、それが地域により多少の期間のずれが生じています。(下図)また、福島県やすぐ近隣では妊娠可能な人たちの避難も考慮して検討しました。(論文表3)

(誌面の都合で、2回に分けて報告します。8月号では、LBWの比率の推移と2012年でのジャンプの複雑ですが明確な分析結果と、地震・津波がLBWにどう影響したかを解説します。)

はやし小児科 林 敬次