ポピドンヨード液うがいから見える薬剤評価問題(NEWS No.540 p01)

大阪府知事と大阪市長がそろってポピドンヨード液の商品を並べ、まるでテレビの「栄養剤」などの宣伝番組のような会見を開き、「ポピドンヨードを使ったうがい」が「コロナに効くのではないかという研究結果が出た」と言い、翌日の釈明のはずの会見でも「感染拡大防止に寄与する可能性がある」と宣伝しました。

周知のように、この根拠になったのが、大阪はびきの医療センターで新型コロナウイルス軽症患者約40人を対象とした臨床実験で、1日4回のポピドンヨード入りのうがい薬をした群では唾液中のコロナウイルスが減少したとのものです。しかし、その目的は「重症化の抑制効果を検証するため」とのようで、「感染拡大防止」とは全く違います。「唾液からのウイルス量が減った」ことが「感染拡大防止」にすり替えられ、まるで詐欺まがいの発表を現職の大阪府知事・大阪市長がしたことは、前代未聞のことで、両首長が幹部である政党「維新」の政策が、賭博を含むIR案、さらに都構想までもがこのような手法で作られている疑いも生じます。

このような詐欺まがいのことが、日本では堂々とまかり通り、日々刻々とテレビやネットで宣伝されています。それを、治療や予防薬にまで拡大したいのが、日本はもとより世界の製薬大企業の欲望です。他方で、日医会長も含めて多くの批判が出たことは、薬剤評価の科学性を守る基盤がある程度は残っていることを示しました。

人間に使う薬の臨床評価について、再度確認します。効果を薬などの作用メカニズムで証明することはできません。複雑きわまりない生物、特に社会生活にまで強く影響される人間で効果があるのかないのかの科学的判定は、人間の臨床実験でされなければなりません。さらに、人間の臨床実験も、多数の動物実験結果を参考に、頻度の高い副作用を中心に検討する第Ⅰ相試験、使用量の決定と効果・副作用を検討する第Ⅱ相、最終的な効果と比較的少ない副作用を含めての検討をできるだけ多人数で行う第Ⅲ相試験が実施されなければなりません。

Ⅱ相・Ⅲ相はランダム化比較試験RCTでなければなりません。しかも、対象の特異性の影響を考慮すれば、複数のRCTが同じ結果を出さないと信頼できないことがあります。これらは、日本では欧米から遅れましたが、すでに1960年代に確立した臨床試験方法です。これらの厳しい試験では日本開発の「薬」はほとんど効果を証明できなかったことをごまかすために導入されたのが「全般改善度」「全般安全度」という評価システムでした。これは、主に私たちが1990年代中頃に批判し、変更されました。

2009年のインフルエンザパンデミックの時は、元データの改竄や隠蔽が問題になり、その「開示」が科学性を守るために不可欠だということが明確になりました。

新型コロナを利用して、この科学性を否定する雰囲気が世界的にも増加しています。例えば、新型コロナ用のワクチンは、抗体ができれば良いかのような印象を与えています。その問題点については、7月号の山本氏の記事に詳しく書いています。

最後に、ポピドンヨード問題の元データとなった大阪はびきの医療センターの研究が、RCTだったかなど研究方法や元データも不明、これは臨床試験のどの段階なのかも発表されていないと思われています。念のため、患者さんを対象として薬の効果を調べる研究なら事前に研究計画などを登録する‘Clinical Trial.gov‘を調べましたが登録されていませんでした。(「COVID -19 and iodine」で検索(8月24日)しましたところ、14の試験が登録されているが大阪はびきの医療センターのものはヒットしませんでした。)

なお、ポピドンヨードによるうがいの効果を研究したRCTは日本から「Satomura K et al. Am J Prev Med.2005;29:302-7」たった1つです。「うがい」をしないと比べ「水のうがい」ではURIの罹患率は0.64(95%CI:0.46-0.99)ですが、ポピドンヨード液のうがいだと同0.89(0.6-1.33)で有意差なしでした。うがいだけではKitamura T et al. Intern Med 2007;46:1623-4のRCT論文もあります。

最後に、毎回の例会での討議と寺岡氏の当ニュースでの報告は、まさに現在当面している臨床評価の問題を詳しく検討するものです。是非、皆さん、コロナ問題を機会にご参加を期待しています。