新型コロナウイルス流行に伴う休学問題 海外で盛んにおこなわれている学校再開議論-学校再開での考察─3(NEWS No.541 p04)

海外では9月からの新学期に向けて学校の再開や閉鎖をめぐる議論が盛んにおこなわれています。幾つかの文献が出ているので紹介し、以下の項目を整理し考えたいと思います。

〈1〉学校を安全に再開する上での基本的考え方

〈2〉実際に学校を再開した、もしくは学校を閉鎖せず開き続けた国々で生じた現実

〈3〉臨床的、疫学的な科学的知見で確認できること

〈4〉学校再開の社会的、政策的側面,とりわけ米国の現状と学校再開政策

〈5〉米国小児科学会の対応

参考資料は、Nature誌「パンデミック時に学校が安全に再開できる方法」1)、ニュ-イングランドジャ-ナル誌・医学と社会「パンデミック中の小学校の再開」2)、米国小児科学会-COVID-19計画に関する考慮事項:学校再開のガイダンス3)、などです(巻末に示します)。

〈1〉 学校を安全に再開する上での基本的考え方

全ての文献に共通した考えですが、Nature誌に簡潔に書かれています。米国、英国、コロナウイルスの大流行時に学校を閉鎖した一部のヨーロッパ諸国などでは、政府はいつ、どのように学校を開くかについて議論しています。安全にこれを行う方法があることを示す研究が増えており、重要なのは、衛生と身体的距離の監視、感染症の拡大を阻止するための迅速な公衆衛生対応、そして最も重要なことには、地域社会でのウイルス感染が低レベルであることです。当然のことですが、学校の子どもたちから地域社会への感染の伝播は大変小さく、学校は地域社会の感染伝播の影響を強く受けるもので、学校を安全に開校できるようにするには、地域社会の感染伝播を低くするために必要なすべての対策を講じることが極めて重要になるということです。

また、ニューイングランドジャ-ナル誌では、すべての小学生をフルタイムで学校を安全に再開することは、国家の最優先事項であるべきだと述べています。また、子供たちに対する私たちの大人の社会の責任であり、子どもたちを人生の変動から保護することは、私たちの人間性の中核の問題であると明確に位置付けています。

〈2〉 実際に学校を再開した、もしくは閉鎖せず開き続けた国々で生じた現実と課題

(1) 地域社会の感染伝播が低い場合:

韓国、ヨーロッパ、オーストラリアの調査によると、コミュニティの感染率が低い場合では学校は安全に開校できます。

韓国政府のデータによると、5月から7月の間に検査陽性であった111人の学齢期の子供のうち学校で感染したのは1人だけでした。ほとんどが家族や他の場所で感染しました。 「重要なメッセージは、適切なポリシーがあれば、コミュニティの感染が少ない環境で学校での感染を制御できることです」と。

欧州疾病予防管理センターによる調査でも、ヨーロッパのいくつかの国で5月中旬以降に学校を再開することは、これまでのところ地域感染の大幅な増加と関連していないことがわかりました。

オ-ストラリアでも同様と報告されています4)。なお、オーストラリアは、他の多くの国々とは異なり、パンデミック下でも、休校を義務付けていませんでした。

フランス、ニュージーランドの高校でのCovid-19の流行は、近くの小学校には及ばなかったため、幼い子どもの感受性、感染性、またはその両方が低いことを示唆しています。オランダの学校が4月に開校したとき、彼らはクラスのサイズを半分に減らしましたが、12歳未満の生徒の間で距離をとることを強制しませんでした。オランダの小学校は6月上旬にフル稼働と終日の教育に戻りました。リスクの高いスタッフと子供の両方が直接学校に戻ることを免除されていますが、ほとんどの子供や教育者は戻ってきて、発生率は今のところ横ばいのままです。

デンマーク、フィンランド、ベルギー、オーストリア、台湾、またはシンガポールでは、学校の再開により症例数が増加したわけではありません。

学校が開かれているほとんどの場所は、すでに低いコミュニティ感染率(患者発見が10万人当たり1日あたり1名未満)を達成しており、人口レベルの感染制御の維持に焦点を当てています。

パンデミック中も小中学校・幼稚園・保育所を閉鎖しなかったスウェ-デンからの報告では、学校を閉鎖したフィンランドと閉鎖しなかったスウェ-デンの共同調査5)によると、学校閉鎖は子どもの感染率に影響を与えなかったと報告しています。

(2) 地域社会の感染伝播が高い場合:

学校やキャンプが大発生の場所になっています。6月中旬に米国ジョージア州の夜間での出来事です。キャンプの初日、ジョージア州は993例の新規症例を報告していました。キャンピングカーは26名までのグループでキャビンで眠り、マスクを着用する必要はなく、毎日歌い、歓声を上げていました。テストされた344人の参加者の驚異的な4分の3が検査陽性でした。

5月中旬にすべての学校が再開されてから10日後に、イスラエルのエルサレムの高校で別の大規模な流行が検出されました。集団感染は153人の学生と25人のスタッフに影響を及ぼし、87人の兄弟、両親、および友人の友人に影響を与えました。

学校環境は、コミュニティがさらに広がるリスクを高めることもあります。 3月中旬、チリのサンティアゴにある大規模な学校では、国が最初の症例を検出してからわずか9日後にかなりの大発生があり、学生の10%とスタッフの17%でSARS-CoV-2抗体を検出しました。

このことは、学校が地域社会に伝染するレベルの高い地域で再開された場合、大規模な集団感染が生じえることを示しています。学校は、たとえば、教室の子ども数を減らすために1日を午前と午後のシフトに分割し、保護者や教師が学校の入り口や出口に集まらないようにすることで、妥当な距離を保つための措置を講じる必要があること。マスキング、クラスサイズ、手洗い、テストと追跡について勤勉であることが特に重要になると述べています。

〈3〉 臨床的、疫学的な科学的知見で確認できること

本誌5月号7月号で記載した「学校再開での考察」内容を踏まえた上で報告します。

圧倒的に多くの証拠は、子どもや青年は感染しますが、症状を示したり(発症したり)、新型コロナウイルス感染に起因する重篤な疾患を発症したりする可能性が低いことを示しています。また社会への感染伝播に関する子どもの役割について更なる研究が必要ですが、現時点では、10歳未満の子どもは感染する可能性が低く、他の人に感染が広がる可能性は低いと思われます。より最近のデータは、10歳以上の子どもでは大人と同じくらい感染伝播させる可能性があることを示唆しています。

米国小児科学会の「学校への再入学に関するガイダンス」は、10歳未満の子どもは感染する可能性が低く、感染を拡大する可能性も低いが、一方で10歳以上の子どもは大人と同様に感染を拡大する可能性があることを含む最新の証拠に基づいて更新されています。

〈4〉 学校再開の社会的、政策的側面,とりわけ米国の現状と学校再開政策

米国は感染者が約680万人、死亡者が約20万人(9/22現在)、世界で最悪の状況であり、秋に入っても大きな改善は認めていません。このような中で学校を完全に開く最も安全な方法は、新型コロナウイルスの検査と監視を強化しながら、地域社会の感染を減らすか、または排除することです。

低感染率の環境の学校は、教育者や家族を過度の危険にさらさない方法で、すべての生徒に教育的に健全で社会感情的に適切な指導を提供できると考えられています

地域の感染率が中程度、高度、または増加を経験している地域は、感染を下げるために可能な限り全力を尽くす必要があります。他国が感染率を下げた様に、社会で感染機会を減らすための厳格なコミュニティ管理措置を米国でも実施する必要があると述べられています。

一方、米国ではトランプ政権の誤った新型コロナ政策が行われ、実際にはこれらの感染防止のための公衆衛生措置の実施を拒否する政策をとる地区や州が存在し、深刻な社会的および道徳的なジレンマに直面しています。つまり、まだウイルスがまだ中程度または高レベルで流行しているときに学校を開かねばならないと迫られる地域が存在することです。子ども、家族、および社会にとって、学校の閉鎖や縮小して学校を運営するという教育や社会生活上の損失リスクと、感染するかもしれないという感染リスク(特に学校の職員、教育者および子ども、家族にとって)とを比較するというジレンマに直面しています。この様なジレンマは、医学的または科学的な必要性ではなく、社会的および政策的な失敗を表しています。

〈5〉 米国小児科学会の対応

米国小児科学会-COVID-19計画に関する考慮事項:学校再開のガイダンスでは、6/25付で「来学年度のすべてのポリシーの考慮事項は、生徒を実際に学校に通わせるという目標から始めることを強く推奨しています。」と打ち出した原則を、8/19付の改訂で、米国の地域感染が高水準である状況を踏まえ、「残念ながら、米国の多くの地域では、現在、SARS-CoV-2の制御されていない蔓延があります。 米国小児科学会は来年度の対面学習を強く推奨していますが、現在のウイルスの蔓延は、多くの法的領域で対面学習を安全に達成することを許可していません。」との苦渋の判断をしています。

そこでの考え方の原則は、学校を安全に開校できるようにするには、地域社会が新型コロナウイルスの蔓延を制限するために必要なすべての対策を講じることが極めて重要であること。そして、学校の再開方針を作る際に地域社会内でどの程度感染が広まっているかを考慮することの重要性を強調しています。現時点では、米国の多くの場所で、地域社会への感染が広がっており、検査が非常に積極的に行われているため、すべての生徒が学校で対面学習を開始することは現実的ではありません。ただし、これらの地域でも、対面学習が目標であり、地域全体および学校全体のウイルス感染レベルと検査陽性率が改善するにつれて実現できる可能性があります。疫学状況に応じて修正および適応できる戦略を策定し、都市、郊外、農村などの学区間の違いを認識し、学校再開を努力することが非常に重要です、としています。

更新されたガイダンスは、現在の米国社会の黒人差別への広範な国民の怒りを反映して、教育における人種的および社会的不平等に取り組む必要性をさらに強調しています。

参考文献:

1)Nature 584, 503-504 (2020)18 AUGUST 2020,doi: 10.1038/d41586-020-02403-4

2)NEJM. on July 29, 2020, DOI: 10.1056/NEJMms2024920

3)AAP COVID-19 Planning Considerations: Guidance for School Re-entry https://services.aap.org/en/pages/2019-novel-coronavirus-covid-19-infections/clinical-guidance/covid-19-planning-considerations-return-to-in-person-education-in-schools/ Last Updated 08/19/2020

4)The Lancet Child  &Adolescent Health August 03,2020 DOI:https://doi.org/10.1016/S2352-4642(20)30251-0

5)Covid-19 in schoolchildren A comparison between Finland and Sweden, Public Health Agency of Sweden, Year 2020.:www.folkhalsomyndigheten.se/publicerat-material/.

更なる情報を求める読者のニーズに応え、字数の関係で記載できなかった内容を含め、後日医問研HP上で詳細版を提示する用意です。

高松 勇(たかまつこどもクリニック)