いちどくを この本『消費税増税と社会保障改革』(NEWS No.541 p08)

『消費税増税と社会保障改革』
伊藤 周平 著
ちくま新書 1100円+税
2020年7月発行消費税増税は社会保障の充実のためと言われながら、社会保障費は削減され続けている。
生活保護基準の引き下げ、社会保障の中心をなす社会保険制度(年金・医療・介護)については、保険料の引き上げ、給付水準の引き下げ、給付要件の厳格化、患者・利用者の自己負担増が次々断行された。

安倍政権は、生活保障を求める人を「怠け者」や「不正受給者」のごとく攻撃して、助けを求めさせず、安倍路線を継承する菅政権はさらに露骨に「自助」を強調する。社会保障を国・自治体という公的責任による保障の仕組みと捉えず、自己責任が強調されている。

新型コロナウイルス感染(COVID-19)拡大によって日本の社会保障の脆弱さが顕在化した。安倍は事業者や国民に休業・自粛要請をとることで、自身の失政の責任を国民の自己責任に転嫁した。感染症治療を担う公立・公的病院や保健所の削減、病床削減や医師数抑制の結果、医療崩壊の様相を呈している。低賃金・人手不足が常態化している介護現場ではさらに介護崩壊が現実化した。事業者の倒産・廃業、非正規労働者中心に失業者も急増した。

消費税は逆進性が強く、所得再分配によって平等をめざす社会保障の財源には最も適していない。「社会保障・税の一体改革」は消費税増税なしに社会保障は一切充実しないという宣言だったが、消費税は社会保障財源というより、法人税・所得税の減税の穴埋めのための財源になっている。本書はこの大前提の上に立って、年金、医療、介護、子育て支援の現状と問題点、解決策を示している。

日本の医療は医療保険制度間の保険料負担などの格差が大きいなどの問題点がある。1918年度からの国民健康保険の都道府県単位化は都道府県ごとに保険料負担と医療費が直結する仕組みをつくり、都道府県間で医療費削減を競わせる意図があった。医療費抑制のため、病床数削減と医師数抑制が行われてきた。公立・公的病院に対して病床削減を国は求めてきた。保健所数、保健師数も削減されてきた。COVID-19感染拡大による医療崩壊、公衆衛生体制の崩壊は必然といえる。まずは、医師・看護師の確保、公立・公的病院の拡充が必要だ。著者は、国保への大幅な公費投入、後期高齢者医療制度廃止、将来的には政府が保険者となり、すべての国民を対象とする医療保険制度をめざすべきとしている。

介護保険では、介護を担う人材不足が深刻化して制度の存続すら危ぶまれている。介護保険導入の目的は、第1に医療費の抑制と介護保険による医療の安上がり代替、第2に、措置制度を解体して、市町村の直接的な介護サービス提供義務をなくし、公的責任を縮小し、公費負担を削減すること、第3に、在宅事業への企業参入を促すことだった。しかし介護報酬引き下げで介護職員の労働条件が悪化している。介護保険法は廃止して自治体の責任で高齢者や障害者への福祉サービス提供を行う仕組みを著者は提案する。

子育て支援・保育では、市町村の保育実施義務をなくして個人給付・直接契約方式へ転換、さらに保育の市場化を意図した制度改革(介護保険化)が進められているが、子どもの権利の視点が欠落し、保育士の労働条件がより脅かされる。市町村が保育の実施義務をもつ保育所方式への統一、児童福祉法への子どもの保育を受ける権利の明記を著者は主張している。

社会保障改革の方向性として、以下を提起している。税制では所得税・法人税の累進性強化、消費税率引き下げ・廃止。社会保険料の負担については、公費の増大。高齢者の介護保障・医療保障については保険方式から税方式への転換。介護や保育などの社会福祉制度については、公的責任によるサービスの現物給付と市町村責任方式への転換・拡充。さらに社会保障充実と並行して、最低賃金の全国一律1500円への引き上げも提起している。貧困をなくし、健康で文化的な最低限度の生活を保障させる取り組みのために、是非一読をお勧めする。

いわくら病院 梅田