日本学術会議任命拒否を許さない声を上げよう!学問の自由の侵害に抗する世界の流れに応えて(NEWS No.542 p01)

日本学術会議の新会員候補6人の任命拒否問題は大きな広がりを見せています。

この問題は、任命されなかった6人の学者は、安全保障関連法や特定秘密保護法など政府方針に批判的な研究、活動をしていた人として報道されています。問題の根本は、政府の政策に批判的だった学者を自らの思惑に反するとして排除したことです。このことは日本学術会議の独立性が脅かされ、また、憲法第23条「学問の自由は、これを保障する」と保障されている国民の権利に対する侵害です。

これに対して、日本学術会議は。1)任命拒否の理由の説明、2)任命されなかった学者の任命を求めて要望書を10月2日、菅総理に提出しています。

日本学術会議の当然の要望に対して、政府や政治家、御用評論家は、問題の核心は任命拒否により学問の自由が侵害されたことであるのに、唐突な問題のすり替えと学術会議自体を攻撃する言動を繰り返しています。許せない限りです。

突然「学術会議のあり方問題」を持ち出してきました。河野行政改革担当大臣は学術会議を行政改革の対象にし「聖域なき追求」を行うと言います(すなわち人と予算を削るぞと脅していることにほかなりません)。負けじと自民党は党内に学術会議のあり方を見直すプロイジェクトチ-ムを立ち上げ、非政府組織化も含め検討すると言います。これらは、人々の関心をそちらに誘導し、首相の任命拒否問題という核心から人々の目をそらそうという論点ずらしです。

与党議員やテレビの評論家が「学術会議会員が退任後、学士院会員になり終身年金をうけとる」と発言したり、御用政治家が「英米の学術団体に税金は投入されていない」「中国の千人計画に積極的に協力している(中国の科学技術入手に協力し軍事転用の恐れがある)」と吹聴しましたが、これは事実に反するデマでした。菅首相は「現在の会員が自分の後任を指名する」と言いましたが、実際は多くの候補者から選考委員会が選考します。事実誤認のキャンペ-ンのオンパレードとなっています。任命拒否での学術会議への切り崩しから、正面から解体攻撃を仕掛けています。

なぜここまでの学術会議への切り崩しがおこなわれるのでしょうか? この事がよくわかる出来事-10月23日の「読売」「産経」「日経」新聞に出された意見広告がありました。「日本学術会議は廃止せよ」広告主は改憲右翼団体「日本会議」の関連団体です。その理由に日本学術会議が「軍事目的の科学研究は絶対に行わない」との声明を何度も出してきたことを挙げています。軍事研究を推進する上で日本学術会議が大きな障害になっており、そのために学術会議を解体しようという狙いが示されています。

一方で、今回任命拒否された6名の学者が、10月23日に日本外国特派員協会で記者会見をされています。「総理は国民を代表し自由に公務員を選定罷免できると宣言した。ナチスのヒットラーでさえ全権掌握のために新憲法を作ろうとしたが、総理は現行の憲法でやろうとしている。独裁者になろうとしているのか」(松宮・立命大教授)。「大学での軍事研究を推進したい政府に明確に反対した会議が大きな問題になった。日本の科学技術のあり方を政府が支配しようとしている」(芦名・京大教授)。などと「総理の任命拒否は違憲、違法だ。拒否を撤回すべきだ」と政府の対応を批判されています。

今回のように拒否した理由も説明がないまま違法な介入が放置されれば、「税金を使っているのにたてつくな」「権力の言うことを聞け」と言う声が大手を振ってまかり通ります。異論が表に出ることを封じ込めてしまいます。政府の補助金が頼みの学術界や大学は今後様々な場面で萎縮や自粛をせざるを得なくなります。学問だけに留まらず、文化、芸術など公的資金が投入されているところに萎縮効果が広がっていきます。

このような強権的で理不尽な対応に、今回は多数の学会が任命拒否の撤回などを求める批判の声を上げています。10月18日現在、任命拒否に対して、理系、文系、医学系の各々100近くの学会、協議会が声明を上げています(安全保障関連法に反対する学者の会調べ)。

多くの国民は怒っています。多くの文化芸術関係者が、国民が声を上げています。

海外の科学誌は今回の菅政権の学術会議任命拒否の問題を批判的に報じています。英科学誌ネイチャー10月6日付の「ネイチャー誌が政治を今まで以上に扱う必要がある理由」と題した論説で言及しています。背景には、世界各国でも、同様な学問の自由を侵害し、時の政権が科学を蹂躙する事態が生じている流れがあります。米国トランプ政権の科学軽視、「ブラジルのトランプ」と言われるボルソナロ大統領が、ブラジルの森林が縮小したと報告した国立研究所のトップを解任した19年の事例と同様に、今回の菅政権の対応を批判的に報じて「科学と政治家の関係を導いてきた慣例が脅かされている。ネイチャー誌は沈黙して傍観できない」と結んでいます。

また、ネイチャー誌は、6月9日付の論説で、「体系的人種差別:科学は耳を傾け、学び、変化しなければならない」と主張しました。ミネアポリス警察の手によるジョージフロイドの殺害、およびドナルドトランプ大統領による全米での抗議行動の鎮圧に対して、世界中の都市で抗議行動が起こったことに言及し、「ネイチャー誌は、科学研究における黒人差別を終わらせる取り組みに全力を注ぐことを約束する」としています。いま世界の科学誌では、民衆の怒り、声、批判に応えようとの動きが高まっています。

日本でも、声を上げていきましょう。

*日本学術会議は約87万人の国内の科学者を代表する機関で、日本学術会議法に基づき首相が所轄し経費を国が負担しています。同法は、会議が政府から独立して科学に関する審議などを行うことを明記しています。同会議はこれまで、政府に対する多くの勧告や提言を行っています。

髙松 勇(たかまつこどもクリニック)