PCR検査を新型コロナ診断の主検査と位置づけ迅速で大幅な拡大を求めよう。本邦の抗原定性検査は使用すべきでない。抗原定性検査単独「陰性確定診断」指針は撤回するべき。(NEWS No.543 p05)

厚労省はインフルエンザ流行期を前に、発熱外来診療体制確保と称して、全国の開業医で「診療・検査医療機関」登録を進めており、1日54万件のコロナ検査、そのうち大半の34万件は抗原定性検査で実施する体制を整備しています1)この10月から全国の診療所・かかりつけ医で新型コロナウイルス感染症(以下コロナと略)の診断に、抗原定性検査キットが導入されてきています。具体的には、抗原定性検査は、「PCR 検査とともに有症状者の確定診断として用いることができる。症状発症から 2~9 日目の症例では陰性の確定診断として用いることができる」としています2)

発熱や咳など症状があってコロナが疑わしい患者さんが受診した場合(症状が出て2~9日の間)に、この抗原定性検査を実施し、「陰性ならコロナ感染症ではない」と言い切ってよいとする診断指針です。「コロナでない」と言われた患者さんはどうするでしょうか? 当然、良かったと胸をなでおろし仕事に復帰することでしょう。介護職場、医療職場、保育所や幼稚園に出勤される方も出てきます。しかし、実際には抗原定性検査の信ぴょう性=検出可能とされるものを検出できる能力は、「半分程度の確かさ」=「半分は陰性となって見落とす」の可能性が大きいのです。実際に、診断されずに出勤し知らないうちに他人にコロナを広めている可能性がありえるのです。

この様な知らないうちに他人に新型コロナウイルスを広めていた有名な例が「ホワイトハウスの集団感染」と言われています3)。ホワイトハウスはコロナの診断に、PCR法とは異なり精度の低い迅速検査を使用していました。当初メ-カ-は「偽陰性率は5%(感染者を間違って陰性と判断する確率)」と言っていましたが、実際の使用では偽陰性率が25%程度存在する精度の低いものでした4)。偽陰性が1人でもいれば建物内で働く全員に壊滅的な影響がもたらされる状況であったと考えられています。

さて、わが国で今回用いられることになった抗原定性検査について考えてみます。検査キットは2種類あります。A)エスプライン SARS-CoV-2(富士レビオ株式会社)、B)クイックナビ-COVID19 Ag(大塚/デンカ)ですが、いずれも鼻咽頭ぬぐい液を使用します。各々添付文書で確認するとPCR検査との一致率ですが、A)エスプラインでは、国内臨床検体(診察場面での採取検体の様だ)では37%(10/27例)、行政検査検体(PCR検査で用いた資料液を使用)では66.7%(16/24例)。B)クイックナビでは、国内臨床検体では陽性一致率が報告なし(すなわち、PCR陽性になったコロナ患者さんでの検査ができていなかったということ)。行政検査検体53.4%(55/103例)。いずれも検査成績を得た臨床試験の全体のデータが未発表であり、どこまで信頼できるのかは不明です。メーカー発表と使用時の成績が異なることは茶飯事で、生データでの確認ができる様に公開が必要です。

さらに、厚労省は、「キットの活用に関するガイドライン」で、5月13日には5)、「除外診断には適さないため、陰性の場合には、確定診断のため、医師の判断において PCR 検査を行う必要がある。」と陰性の確定診断はできないとの立場でした。それが、6月16日に改訂し「症状発症から 2~9 日目の症例では陰性の確定診断として用いることができる」ことを可能にしました6)

この際の厚労省が示した成績は3施設でわずか24例だけでした。この患者数でこの検査法の診断の正確性が証明されたということは無理があります。また、PCR法との一致率が79%(19/24例)でした。この際の対象患者はコロナ入院患者です。かかりつけ医の現場は、コロナ患者さんが多数受診することは少なく、コロナ以外の多くの患者さんが受診する場面です。一般的に、「疾患の有病率が高い集団で開発されたテストは、疾患の有病率が低い集団に適用すると、通常、感度と特異性が低くなる」と言われています。したがって、コロナ入院患者さんで得た成績は、一般患者さんが多く受診しコロナ患者さんの受診が少ない場面では、コロナを診断できる検証力が低く検査の正確性が劣るのは当然です。

世界の常識は、診断の「ゴールドスタンダード(最も確かとされる判定基準)」はPCR法のままです。したがって、抗原検査の陰性試験結果は、あくまで「推定の陰性結果」ですから、抗原検査の結果が臨床症状やコロナ患者からの暴露歴、地域の有病率などの経過と矛盾する場合には抗原検査での「偽陰性」を疑い、PCRで確認する必要があります7)8)9)。必要時にすぐにPCR検査が迅速にできるバックアップ体制の確立が重要です。その条件が無い中での、「抗原定性検査単独での陰性確定診断」という機械的な解釈での検査の多用は、コロナ患者さんを見落とす可能性が大きく知らない間に多くの人に感染を広げてしまう危険性があり問題です。

厚労省は検査キットの承認審査時に「i)製造販売後に実地臨床での臨床性能の検証を求める承認条件を付すこと、ii)添付文書で偽陰性の可能性等を情報提供すること、iii)本品陰性例に対しては引き続き PCR検査等の実施が検討されることを前提」としています10)。厚労省の抗原定性検査単独で「陰性確定診断」進める指針は撤回するべきです。

PCR検査はコロナ確定診断のゴールドスタンダードです。診断のための検査の主流です。そのPCR検査体制の貧弱さは大きな問題です。私が診療している大阪市内では、人口約270万人にPCR検査が可能な「地域外来・検査センター」は4か所しかありません。一部地域では週に3日しか稼働していません。大阪府全体で、人口約880万人に対して36か所です。東京都が人口1万に1か所設置しているのに対して、大阪市は約1/70、大阪府は1/25と極めて少ない状況です。PCR検査は、臨床現場で患者さんの診断に使われますが、同時に介護施設、医療職場、学校などでのスクリーニング、公衆衛生的に地域の感染監視(サーベイランス)としても必要であり、早急に大幅な拡大が必要です。

最後に、抗原定性検査の意味をもう一度整理したいと思います。

以下の表は抗原定性検査エスプラインに関する厚労省での承認申請時の審査データです。国内臨床検体を用いた試験ではPCR検査(上段)とエスプライン検査結果(左側)です11)。枠内は患者人数です。

まずこの試験対象者は72中PCR陽性=感染者が27人、すなわち感染者が37.5%もいる有病率の高い集団です。

*「PCR検査で陽性となった患者さん27人」に対してエスプライン検査で陽性者は10人でした。エスプライン検査で診断できた患者さんは10人/27人=37.1%しかありませんでした。抗原定性検査はコロナ感染者を約1/3しか診断できていないのです。逆に言えば、この抗原定性検査では感染者の約2/3を陰性と判定してしまう「偽陰性」で見落としてしまうのです。ウイルス暴露が多く感染者発生が高い環境で見落とせば感染を広げてしまいます。これでは抗原定性検査をする意味がありません。

**一方で、「PCR検査陰性45人」に対して、抗原定性検査で陽性者が1人でした。1人/45人=2.2%はPCR検査で陰性者=コロナ感染者でない人を感染者と間違って判定してしまうのです。これを「偽陽性」と言います。1000人検査で陰性者中22人、1万人検査陰性で220人で間違うのです。コロナ患者さんが少ない環境ではとりわけ「偽陽性」が生じやすいので注意が必要です。この冬のインフルエンザ時の発熱では、コロナが流行していない地域では、「偽陽性」が多数生じる可能性があります。実際に、最近のニュースで全国で61施設、125件が報告されていますので注意が必要です。

一方で、米国で使用されている抗原迅速検査では、RT-PCRと比較して84.0%から97.6%の感度、100%の特異性を報告しており、偽陽性の結果はありそうもないといわれています7)。米国の抗原定性検査は感染暴露が高い環境でのスクリーニングに用いられています。陰性時にはPCR検査でのバックアップが必要ですが、集団発生が考えられる施設集団で迅速な隔離が重要な時、症状がありコロナ患者と濃厚な接触がある方の診断で活用が期待されるとされています9)。

他方本邦の抗原定性検査では「感染者を2/3見落とし、感染の無い人を2%誤って感染者と判定してしまう」実態です。本邦の抗原定性検査は、残念ながら使用するに値しないと言わざるを得ません。診断の主流にはPCR検査を位置付けるべきでありPCR検査の迅速で大幅な拡大が求められます。

参考文献:

1).新型コロナウイルス感染症対策本部(第46回)20201116
2).新型コロナウイルス感染症(Covid-19)病原体検査の指針(第 2 版)
3).Rapid covid tests can work—if you avoid making the White House’s mistakes.2020.10.12 MIT Technology Review
4)J Clin Microbiol 58:e00798-20. https://doi.org/10.1128/JCM.00798-20.
5).SARS-CoV-2 抗原検出用キットの活用に関するガイドライン 20200513
6).SARS-CoV-2 抗原検出用キットの活用に関するガイドライン 20200616改訂
7). CDC:Interim Guidance for Rapid Antigen Testing for SARS-CoV-2
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/lab/resources/antigen-tests-guidelines.html
8)Interpreting a covid-19 test result. BMJ 2020;369 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m1808
9)COVID-19 Testing Guidance AAP, https://services.aap.org/en/pages/2019-novel-coronavirus-covid-19-infections/clinical-guidance/covid-19-testing-guidance/
10)新型コロナウイルス感染症診断薬の承認について(富士レビオ株式会社申請品目)20200513 0616追記 1002追記
11) Medical Tribune 2020年11月19日号

高松 勇(たかまつこどもクリニック)