COVID-19-新型コロナワクチンの緊急使用許可。ワクチンの安全性と有効性に関する懸念が大きく存在。政府や製薬会社は困難な課題に直面している(NEWS No.544 p06)

米ファイザーとドイツのビオンテック(BioNTech)が開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンが12月8日英国で接種が開始され、12月11日米国で米食品医薬品局(FDA)がワクチンの緊急使用許可(EUA)を付与し全米での接種が開始されています。また、米国では12月18日米食品医薬品局は、バイオテク企業のモデルナ(Moderna)が開発した新型コロナワクチンに緊急使用許可を発行しています。

米国政府は、ファイザーとビオンテックによって開発されたワクチンを1億回分、モデルナの新型ワクチンを1億回分、合計で2億回分を確保し、2021年6月までにほとんどの国民にワクチンを接種するというスケジュールの実現を図ろうとしていると報道されています。

新型コロナウイルス(SARS CoV-2)の遺伝暗号の断片を含むこのワクチンは、脂質粒子で覆われたmRNA(メッセンジャーRNA)の注射という新しいアプローチに基づいており、ワクチンの歴史の中では全く新しいタイプのワクチンと言われています。それだけに、このワクチンの有効性と安全性は厳しく検証が求められています。

FDAのワクチンの緊急使用許可に対して懸念が表明されています。FDAがワクチンを承認するには、(通常は少なくとも6カ月間、数万人の被験者の追跡を必要とする)治験を完了させる必要があるだけではありません。FDAはワクチンの製造施設を視察し、詳細な製造計画や製品の安定性データを調べ、大量の治験データを詳しく調べる必要もあります。このような確認作業には、ゆうに1年かそれ以上かかると言われています。FDAは緊急使用許可により、公衆衛生の緊急事態において未承認の製品の利用を許可できます。FDAはこれまで、H1N1型インフルエンザやジカ熱のような感染症を対象とした診断法や治療法については慎重に緊急使用許可を出してきました。しかし、緊急使用許可によってワクチンが一般市民に使用されたことはこれまで一度もありません。対象範囲が広く、健康な人に接種されるという面で、ワクチンは他の医療品とは異なるため、認可基準も高く設定されています1)

今回の緊急使用許可に際しても、国民から十分に信頼をえられるかという問題があると言われています。公衆衛生の専門家は「ワクチンが人を守るわけではない。接種によってのみ守ることができる」と警鐘を鳴らしています。市民の信頼を十分に得ていないワクチンは、高い効果があっても接種率が低くては、パンデミックを抑制する力が制限されてしまうからです。その実態を見てみましょう。

(1)シンクタンクのピュー研究所(Pew Research Center)のデータによると、すべての性別や人種・民族、年齢、教育レベルで新型コロナワクチンへの信頼が下がっています。疑念を持っている主な理由として、多くの人が安全性や承認のペースを挙げています2)

コロナウイルスの予防接種を受けると言うアメリカ人の割合は今年初めから急激に減少しています。接種するは米国の成人の約半数(51%)。一方で、接種しないは、ほぼ同数の (49%)と言います。COVID-19ワクチンを接種する人は5月の72%から21%ポイント低下し51%です。間違いなくコロナウイルスワクチンを受ける人の割合は、9月現在わずか21%で、4ヶ月前の半分です。

図.本日利用可能であった場合にコロナワクチンを受ける米国人の割合の低下

また、ワクチンを接種する人の割合はすべての主要な人口統計グループで減少していました。

図.COVID-19ワクチンを接種する割合(%)の大幅な減少(5月20日と9月20日の比較)

この米国の新型コロナワクチンへの世論調査結果は、9月8日から9月13日にサンプリングされた11,506人のうち、88%の回答率で回答が得られています。

(2)10月19日から11月1日にかけて行われたギャラップ社調査

COVID-19に対してワクチンを接種するアメリカ人は、接種する人58%、接種しない人42%で、依然として接種しないとする人が4割を超えています。また、接種しない人の理由は、ワクチン開発行程を急いだことへの懸念-37%、安全性の確認のため-26%、有効性の確認のため-10%、一般的にワクチンを信用しない-12%、その他-15%でした。実に73%の人が、接種しない理由に、早急で無理な開発、安全性、有効性への疑問を上げています3)

(3)11月20日のロイタ-通信は「COVID-19ワクチン試験の結果が肯定的に見える中、政府や製薬会社は次の困難な課題に直面しています。パンデミックの前と最中に行われた多数の世論調査は、多くの人は自信がなく、COVID-19ワクチン開発の加速について懸念を抱いており、その懸念に取り組むことが大きな課題である」と報じました4)

(4)11月21日(土曜)のワシントンポスト記事は、「医師と看護師は、パンデミックを終わらせるためにワクチンを擁護する前に、より多くのデータを求めています」と報じています5)

たとえば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者が木曜日に発表したレポートによると、オンラインアンケート(無作為抽出ではない)に回答したロサンゼルスの医療従事者の66%がワクチンの接種を遅らせると述べています。全国組合であるアメリカ看護師協会は、そのメンバーの3分の1がワクチンを接種するつもりはなく、さらに3分の1は未定であると述べた。

「私が医師から聞いているのは、誰もが表明しているのと同じ懸念のいくつかです。彼らは、プロセスが政治化されていることを心配しています。彼らはまだ公開されたデータを見ていないので心配しています。そして、彼らは証拠を見るまで、何らかの方法で決定を下すことに不安を感じています」と医師の躊躇を(米国医師会長・スーザンベイリー氏が述べています。

このように、新型コロナウイル(COVID-19)ワクチンは、有効性、安全性に関して多くの米国国民は懸念を抱いており、十分な検証と信頼を得られる情報提供が求められています。「正しいやり方であればワクチンはパンデミックを終わらせます。間違ったやり方だとパンデミックによってワクチンの命運が尽きます」(米国保健当局の元高官の発言)の分岐点にワクチンはあると言えます。

参考資料:

1)Covid-19 vaccines shouldn’t get emergency-use authorization. by Clint Hermes 2020.11.24 MIT Technology Review

2) U.S. Public Now Divided Over Whether To Get COVID-19 Vaccine,  Concerns about the safety and effectiveness of possible vaccine, pace of approval process  https://www.pewresearch.org/science/2020/09/17/u-s-public-now-divided-over-whether-to-get-covid-19-vaccine/

3) GALLUP POLITICS NOVEMBER 17, 2020 https://news.gallup.com/poll/325208/americans-willing-covid-vaccine.aspx

4)Reuters HEALTH CARE & PHARMA NOVEMBER 10, 2020

5) Doctors and nurses want more data before championing vaccines to end the pandemic, The Washington Post  November 21, 2020

高松 勇(たかまつこどもクリニック)