政府による高齢者へのインフルエンザワクチン効果の根拠の非常識さの再確認(NEWS No.544 p04)

コロナワクチンがEU、アメリカなどでの拙速な認可で人での実験的な臨床使用が始められ、日本でもその日が近づいてきました。日本政府がこれらのワクチンをより厳密に審査することは期待しがたいのは、インフルエンザワクチンに関しての日本の政府が推奨する根拠がいかに反科学的であるかを見ると明らかです。

今年の異常なインフルエンザワクチン接種のキャンペーンが今後も続くことを考えて、その基とされる「研究」を再検討しました。(以前、これに対する批判を大阪小児科学会で発表しています。)

厚労省のホームページからインフルエンザワクチンのQ&Aで「効果」を見てみますと、高齢者への接種の根拠にあげられているのが、1997-20年の3シーズンにわたって、三重県・名古屋市・新潟県・福岡市・大阪府箕面市で調査したものだそうです。これで、「死亡率を82%、発病リスクを34-55%減少させる」との結論を出しています。(死亡率が「82%」で、発病率は「3⒋-55%」と幅ある理由は不明。)

しかし、BMJでピータ・ドーシ氏も書いているように「アメリカで高齢者にインフルエンザワクチンが開始されて60年もたつのに高齢者の入院や死亡率を下げた科学的報告はない」のです。BMJ 2020;371 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m4058

それでは、日本のインフルエンザワクチン政策の根幹となっている「研究」を見てゆきます。

1.「研究」は、RCTでない。

この「研究」は、「ワクチンを希望したうち研究に同意が得られた」接種群と、「希望しなかった」非接種群を比較したものにすぎません。症状判定時の目隠しも記載がありません。一般の治療に使われている薬剤に関しては少なくてもランダム化比較試験による効果の証明が承認の前提です。

2.3シーズンの研究なのに、結論は1シーズンのデータで出している。

この研究報告によれば、1997-8,98-9,99-00年の、3シーズンにわたって調査されているのに、先の結論は1998-9年シーズンだけの調査結果(図1)から出しています。その理由が、他のシーズンのインフルエンザ流行が少なく、効果が証明できにくいため、とされています。海外でのRCTでも何年かにわたっての調査がありますが、それらの結果は流行したシーズンもそうでないのも含めて報告されています。1年で死亡率を82%、発病率を34から55%も下げるような優秀なワクチンなら、3年間を合わせても、それなりの肯定的な結果が出るはずです。ここにも重大なごまかしがありそうです。

(図1)

3.「効果」計算の元になるデータが、地域によりデータがない、内容が偏っている、データの提示方法がバラバラである。(表1)

(箕面市は抗体検査による接種回数の検討のみのため分析対象から除外した。)

(表1)

この報告書で、死亡率が報告されているのは三重県、名古屋市と福岡市のみで、合わせると接種群3.12%、非接種群6.51%であり、相対危険度RRは52%減です。1990-2000年「総合研究報告書」では死亡率「82%」減(RR)となっていますから、残りの新潟県の死亡率の差が極めて大きいということになりますがデータありません。入院率は三重県と名古屋市合計で42%減(RR)、38度以上の発熱は名古屋市だけで38.2%減(RR)となっています。(福岡市の発熱データは、「<38°C」と「>=39℃」の分類しかなく理解不能で除外、名古屋市もデータ表示方法が違うので除外した。)

4.これらの「効果」は間違い

なぜなら、接種者と非接種者の間には大きな「背景」の違いがあるからです。健康な人にワクチンを打って余命間もない人に接種しなかったら当然非接種者の死亡率は高くなります。

まずは、背景の違いを示します。とはいっても、これらのデータもまともには報告されていません(表1)。生活自立度は三重県と名古屋市が5段階に分けて報告していますが、新潟県では3段階に分けて報告、福岡市では報告もされていません。三重県と名古屋市を合計したものが次ページ図2です。統計的有意に非接種者の方が自立度が低くなっていました。三重県、名古屋市、新潟を個別に分析しても、いずれも非接種群の方が統計的有意に自立度が低く、死亡・入院・発病率が高くなっても当然といえる偏りがありました。

(図2)

基礎疾患は、三重県、名古屋市が、心疾患・呼吸器疾患・糖尿病・高血圧・脳血管疾患の後遺症・その他に分けて報告、新潟県は心疾患・呼吸器疾患・脳血管疾患の後遺症が報告され、福岡県はデータなしです。

これらのデータをできるだけ合計して、心疾患・呼吸器疾患・脳血管疾患後遺症でオッズ比ORを計算しました。ORはそれぞれ1.65(95%信頼区間1.33,2.03)、1.97(1.48,2.62)、1.34(1.089,1.638)と有意に非接種者が多かったのです。

(表2)

5.これらの背景の違いがもたらす結果

これを検討する方法は、高橋晄正先生に教えていただいた方法です。私は、高齢者へのインフルエンザワクチンの効果の、コクラン・システマティックレビューの「FeedBack」に高橋晄正先生がされた実例を報告しています。これは、対象者の両群のインフルエンザシーズンでの死亡・入院・感染率と、非インフルエンザシーズンでのそれらの指標と比較するものです。即ち、ワクチン効果と関係ある流行期間内の死亡率・入院率・発熱率が、ワクチン効果と関係ない流行期間外のそれらの何倍になっているかを比較検討します。

比較できるデータは限られましたが、死亡率は三重県と福岡市のデータを合計すると、流行外と比べて、流行中の死亡率は3.00倍に増加しています。しかし、非接種群では2.09倍の増加でした。流行時の増加率が少ない傾向であることは、ワクチンをしない方が、死亡が少なくなることを示唆しています。

(表3)

同様に、入院は三重県のデータだけですが、流行外に対する流行中の増加は8.08倍ですが、非接種群は2.09倍です。人数が少ないのですが、同様の傾向でした。

(表4)

発熱は接種群も非接種群も、増加率はほぼ同じです。流行中の発熱率を下げたとは言えない結果です。

(表5)

6.先の「総合研究報告」での「死亡リスクを82%減ずる」という結論の元は多分p7、表5のRR=0.18から得たものかもしれませんが、これは「38℃以上の発熱をともなう死亡」のデータですので、一致しません。

以上より、元々この「研究」は、死亡・入院・発熱しにくい方々にワクチンを接種し、死亡・入院・発熱しやすい非接種者と比較したものであり、死亡率を82%減らしたなどとは全く言えないものです。

この「研究」から背景を補正すると、インフルエンザワクチンは死亡・入院・感染を減らすどころかむしろ増加させかねないことを示しているのです。

全てのデータの公開と高齢者へのインフルエンザワクチン接種の再検討が求められています。

はやし小児科 林敬次