臨床薬理研・懇話会2021年1月例会報告(NEWS No.545 p02)

臨床薬理研・懇話会2021年1月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第64回
尿酸低下剤アロプリノールは慢性腎臓病の進展抑制に役立たない

核酸合成阻害により血中尿酸低下作用を示す痛風治療剤アロプリノールが GFR (糸球体ろ過率) 低下を遅らせ、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD) の進行を抑制するかどうかについては、これまで報告結果が一定しない状況にありました。ニューイングランド医学雑誌(NEJM誌) 2020年6月25日号が、この課題に取り組んだ2つのランダム化比較臨床試験論文を同時掲載しています。両者の結果は一致しており、アロプリノールは腎機能低下抑制に効果が無いという成績で、2020年の年間トピックとして注目されています。今回はこの2文献と周辺情報をとりあげました。

1.CKD-FIX研究

慢性腎臓病の進展に関するアロプリノールの作用. NEJM 2020 ; 382: 2504-13.

オーストラリアとニュージーランドの31病院で実施。両国の医学研究を行う官庁が資金提供。中等度ないし重篤なCKDを有する成人患者(高尿タンパクないし著しい腎機能低下が存在 )をランダムにアロプリノール(毎日100-300mg; 182例) またはプラセボ(181例)投与に割り付け。45%の参加者は糖尿病性腎臓病を有し、95%の参加者が高血圧症を有していた。腎機能は3年間モニター。結果はアロプリノールが血中尿酸レベルを有意に低下させたにかかわらず、腎機能低下の進度に2群の間に有意差がなかった。重篤な有害事象は両群で同じであった。

2.PERL研究

1型糖尿病におけるアロプリノールによる血清尿酸塩低下と腎臓機能. NEJM 2020 ; 382: 2493-503.

米国、カナダ、デンマークの16サイトで行われ、一部は米国国立衛生研究所(NIH)の資金援助を受けた。1型糖尿病と糖尿病性腎臓病のエビデンスがある患者をランダムにアロプリノール(毎日100-400mg; 267例)またはプラセボ(263例)のいずれかに割り付け。腎機能は3年間モニター。結果は、CKD-FIX研究と同様、アロプリノールは血液中尿酸塩レベルを有意に低下させたにもかかわらず、腎機能低下の進度に2群の間に有意差がなかった。重篤な有害事象は両群で同じであった。

今回2つの良好にデザインされた大規模なランダム比較試験 (RCT) の結果、CKD患者においてアロプリノールは腎機能低下が進むのを遅らせないという重要なエビデンスが提供されました。米国の市民団体パブリックシティズンの医薬品監視グループが市民対象に発行しているニューズレター2021年1月号は、2研究の結果と、アロプリノールがまれに危険な過敏性アレルギー様反応を起こし得ることから、CKD患者は腎機能低下の進度を遅らせる目的でアロプリノールを摂取すべきでないとアドバイスしています。

当日のズーム討議では、米国と日本の「痛風治療ガイドライン」の違いが焦点となりました。米国のガイドライン(1)は今回RCTでエビデンスが示された方向につながる内容で、アロプリノールなどによる血中尿酸低下療法には慎重な立場をとっています。しかし日本のガイドライン(2, 批判3, 4) は血中尿酸低下療法を優先した内容となっており、かなり深刻な状況です。

今回もズーム討議に薬のチェックの浜六郎さんと群馬の本沢龍生さんが参加下さり、討議が充実したものとなりました。ありがとうございました。

日本の「高尿酸血症・痛風治療ガイドライン」は「尿酸」を悪玉として扱っており、この点で「コレステロール」を悪玉としたガイドラインの扱いと共通性を感じさせます。そしてそれが、米国のガイドラインは痛風発症の予防目的で尿酸降下剤の投与を推奨していないのに対し、日本のガイドラインが腎障害合併高尿酸血症に対し腎保護の目的で、世界で初めて投与を推奨するなどの歪みをもたらしています。

尿酸はクレアチニンのような老廃物でなく、善玉作用 (生理的役割) として「抗酸化作用」が知られています。生体はSODなどの抗酸化酵素、ビタミンEなどの脂溶性抗酸化物質、ビタミンCなどの水溶性抗酸化物質により、過剰な酸化反応から身を守っています。尿酸はこの水溶性抗酸化物質です。尿酸は腎臓で血液から尿細管に大量に排出された後、約90%が再吸収されることも尿酸の生体にとっての重要性を示唆しています。また、人類は尿酸を分解する酵素を失って高尿酸を維持するように進化し、それが人類が長寿になった原因(井村裕夫) とも考えられています。なお、尿酸を抗酸化物質と書きましたが、状況によっては、尿酸分解産物と活性酸素種との反応により、酸化促進物質が生じることも知られており「両面性のある物質」と捉えるのが必要な場合もあります。

痛風はその大部分が、多くの要素が関与する多因子疾患です。高尿酸血症が原因と単純化するのも適当でありません。尿酸降下剤が腎機能低下予防に単純に結びつかないという今回の新たなRCT結果の薬理学的メカニズムも種々の要素を考察していく必要があります。

「ハリソン内科学」第4版2013 p2760(原著2011) にも「高尿酸血症は必ずしも病気ではなく、治療を必要とする特異的な症状もない。治療を行うか否かの決定は、それぞれの個人における高尿酸血症の原因と予測される結果次第である」と書かれています。

今回のRCTの結果は、症状のない高尿酸血症を尿酸降下剤で治療するのは適切でないとする米国ガイドラインのゼネラルコンセプトを支持しています。痛風は非薬物療法がもっと重視されるべきですが、薬のチェック誌が推奨している重曹やウラリット(クエン酸カリウム/ナトリウム)などアルカリ化剤も痛風に対する効果の大きさからもっと活用されるべきです。

参考文献

1) 2000 Amer Coll Rheum guideline for the management of gout. Wiley Online Library Website
2) 2019年改訂 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版 Minds 医療情報サービスウェブサイト
3) 薬のチェック編集委員会. 高尿酸血症・痛風治療ガイドライン批判 無症状の高尿酸血症は薬物療法の対象にすべきではない、非薬物療法の徹底を. 薬のチェック81号p12-5 2019
4) FORUM 高尿酸血症や痛風の治療について 薬のチェック82号p46 2019

薬剤師 寺岡章雄