デジタル監視法案(デジタル関連6法案)反対 シンガポール接触追跡アプリ犯罪捜査でも利用可(NEWS No.548 p01)

現在、国会で議論され、衆議院で強行されたデジタル監視法案(デジタル関連6法案)が問題となっています。新型コロナウイルス感染症の拡大防止で話題になった接触追跡アプリを通してこの問題を考えてみたいと思います。

現代の医学では、感染症の突発的発生時に接触者を追跡することが前提となっており、接触追跡アプリは新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止上大きく貢献するものとして宣伝され、登場してきました。各国政府と企業は拡散防止策の一環として、接触追跡アプリを立ち上げてきましたが、現状では接触追跡アプリで宣伝された内容には欠陥があることが明らかになってきています。アプリのダウンロード率は低く、使用率はさらに低く、接触追跡という手法は必要とされる規模に達していないのが現状です。最近のピュー研究所(Pew Research Center)の調査によると、人々は公衆衛生当局を信頼して自身のデータを提供することを躊躇しており、保健所などの知らない人からの電話に出ない、といった別の問題点も明らかになっています。その懸念が現実化した問題がシンガポール政府が接触追跡アプリの方針を転換し犯罪捜査でも利用を可能とした問題です。

ロイタ-通信によると「シンガポールは、警察がコロナウイルスのコンタクトトレース技術によって得られたデータを犯罪捜査に使用できると述べた」。シンガポール政府が発表した接触追跡アプリは現在570万人の人口の80%近くが使用されています。接触追跡アプリへの参加は当初、任意とされていましたが、昨年のうちに政府はそれを撤回。今回の決定(新型コロナウイルス接触追跡システムで収集されたデータに警察がアクセスして犯罪捜査に使用できるようになる)は、このアプリを2020年3月に運用開始した際に政府が説明したプライバシーポリシー「データは COVID-19 連絡先の追跡にのみ使用されます」に反しており、接触追跡への参加が実質的に強制となった直後に方針を変えるのは問題だとして批判されています。

世界中の接触追跡アプリについては、2020年に最初のアプリが運用開始されて以来ずっと、ユーザーのプライバシーが疑問視されてきました。接触追跡アプリが収集したデータが乱用されること、人々の人権が、接触追跡アプリの監視によって損なわれることには十分な警戒と市民の側からの監視が必要と言われてきました。

接触追跡アプリで収集したデータの使用に警察権力が関与したのは今回が初めてではありません。ドイツのレストランとバー、常連客らは2020年7月に、警察が捜査で目撃者を見つけ出すために接触追跡で収集された情報を使用したと報じられています。2020年12月に、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、警察当局と移民管理局が接触追跡データにアクセスするのを禁止する法律に署名しましたが、移民監視に転用される可能性が報道されています。

シンガポールの接触追跡アプリの方針転換の問題は、権力者があらゆる機会を利用して人々の管理統制を強化しようとする動きに出ることに注意を促すものです。今回のデジタル監視法案(デジタル関連6法案)は、全国で大規模に市民を監視し、個人情報を儲けのために大企業に譲り渡すものであり社会全体に大きな影響をあたえます。許してはならないと考えます。

参考文献:
1)Why people don’t trust contact tracing apps, and what to do about it,2020.12.15 MIT Technology Review
2)Key findings about Americans’ views on COVID-19 contact tracing,OCTOBER 30, 2020 pewresearch
3)Singapore COVID-19 contact-tracing data accessible to police | 2021.1.4 Reuters
4)Singapore’s police now have access to contact tracing data,2021.01.14 MIT Technology Review