少年の更生や社会復帰を阻害する少年法「改正」に反対する(NEWS No.548 p08)

来年4月の改正民法施行で成年となる18、19歳に関し、原則として20歳以上と同様の刑事手続きを取る対象犯罪を拡大し、厳罰化を図る少年法「改正」案が4月20日、衆院本会議で可決。政府は今国会で成立させ、来年4月1日の改正民法との同時施行をめざしている。「改正」案は、18歳、19歳を「特定少年」と位置付け、起訴され刑事裁判の対象となった段階で、現行法で禁止されている実名報道も可能とした。

全ての事件を家庭裁判所に送致し、家裁が犯罪に至る背景などを調査する現行法の枠組みは維持したが、家裁から検察官送致(逆送)する対象犯罪を拡大。法定刑の下限を懲役・禁錮1年以上の罪に拡げることで、強盗や強制性交などが新たに加わる。

18歳、19歳を未成年(少年)と見なす現行法の中では、殺人などの凶悪犯罪の場合は、家裁から地裁に送致され、成人と同様の処罰を受けるケースはあるが、ほとんどは、まずは鑑別所に送られ、3~4週間、家庭裁判所の調査官による家庭環境や生育環境などの調査をもとに、学校や児童相談所とも相談の上で、児童自立支援施設や少年院などへの送致、試験観察や保護観察処分などを通し、その少年の更生を図っている。しかし、18~19歳が成年とされれば、矯正教育を受ける機会を失い、警察から検察に送致されることとなり、窃盗などの微罪の場合はその7割弱が起訴猶予、さらに刑事事件として立件された場合でもその多くは執行猶予という形で、社会に戻ることになる。

少年犯罪の背景には、多く家庭環境や生育環境があり、それを変えていかない限りその少年の更生の手助けにならない、といういままでの矯正主義の観点から見れば、多くの少年が更生の機会を奪われることとなり、もとの劣悪な環境に戻され再犯を繰り返すことになりかねず、犯罪が増加する原因ともなり得る。

また、実名がいったん報道されると、インターネット上で拡散され、半永久的に残る。社会復帰は困難になる。

また、罪を犯す恐れのある「虞犯(ぐはん)」の18歳、19歳を家裁送致の対象から外したことは、専門家による立ち直り支援の機会を失うことになる。

現行少年法に基づく処遇は有効に機能している。少年の刑法犯の検挙人員は1982年の約31万7000人をピークに減少し続けている。2012年からは毎年戦後最低を更新していて、2018年は約4万4000人とピーク時の7分の1程度だった。殺人、強盗、強制性交等(強姦)放火といった重大犯罪は、1960年~1965年頃がピークで、少なくとも最近15年ほど減少傾向が続いている。いずれもピーク時の10分の1程度、強制性交等については26分の1に減少している。

2000年以降に繰り返されてきた少年法の「改正」は被害者の声が反映されて行われてきた側面が強い。かつて少年院に2回入り、いまは非行少年の立ち直りを支援するNPO法人「再非行防止サポートセンター愛知」の理事長・高坂朝人さんは「国は非行少年の教育機会を奪うのではなく、被害者支援の充実に力を入れていくべきだ。被害者も加害者も増やさない政策が必要なのに、今回の改正案は逆行している」としている。

今回の少年法「改正」案は、精神的・心理的課題を抱える少年たちにはより一層更生や社会復帰を阻害する要因となり得る。少年法「改正」に断固反対する。

いわくら病院 梅田