大阪市オンライン授業に感染拡大防止の科学的根拠はあるのか?(NEWS No.549 p06)

大阪市内では今回の緊急事態宣言を受けて、小中学校に「原則オンライン授業」が行われています1)具体的には、大阪市内の小学校、中学校だけが、府内の他の市町村と異なり、自宅でのオンライン授業と学校でのプリント学習を組み合わせたものです。保護者や児童生徒に大きな負担をかけ、子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していると批判されています。

子どもたちの感染リスクを軽減させ安全な学校の教育環境を作る上で科学的な根拠が認められた対策だったのか、考えていきます。

まずは、学校で生活する子どもは感染リスクが高いのかどうかですが、先月号の「英国変異株-子どもは感染リスクが高いのか?」2)で書いていますが、「変異ウイルス株の場合でも、子どもは流行の中心ではなく、子どもから大きく広がった事実はないことがわかります」と確認できます。

では、次に、学校を安全に開き続けるために必要なことは何なのでしょうか?

科学的に確認されていることは、第一に、教育機関を対人学習のために開放する最善の方法は、より広い地域の感染を制御することです。子どもたちの休校やオンライン授業単独を実施する前に大阪府のコロナ感染者の減少に全力を挙げることなのです。

第二に、学校内で感染した教職員や生徒・学生を検査で迅速に発見し保護隔離し、周辺の感染者を追跡する公衆衛生的対応をサポートすることです。とりわけ、小児や青年の過半数(40~60%)は無症候性COVID-19感染者であり、また、症状出現前の個人も伝染リスクを持っているために、包括的な検査戦略はコントロールの中核となる原則です3)。以下にこの重要性を示す研究結果を示します。

SARS-CoV-2感染および教育的な場面での伝染の危険性について知るために、公衆衛生イングランドは、2020年6月1日から、症候性および無症候性SARS-CoV-2感染、血清抗体価、および職員と生徒の血清変換(セロコンバージョン)の発生率を推定するために、2020年6月1日から部分的に再開された小学校で、学校KID(sKID)のCOVID-19サーベイランスの研究をおこなっています4)。鼻綿棒RT-PCRを通じて推定されるSARS-CoV-2感染率は非常に低いことがわかりました。40501の鼻咽頭綿棒が生徒とスタッフから収集され陽性例は生徒で1名、スタッフで2名だけでした。セロコンバージョンは、スタッフ(4·8%;3·4-6·6)と生徒(5·6%;3·4-8·6)の間で似ていて、教師は地域社会の他の住民よりもリスクが高くなく、セロポジティブであることと学校への出席の間に関連は確認されませんでした。

もう一つの研究は、英国の最初の国家ロックダウンの後に学校を再開した時期で、イングランドの夏期半期(2020年6月~7月)の教育現場における職員と学生の間でのSARS-CoV-2感染率と集団発生率を推定したものです5)。研究の解釈では、「感染および流行は、夏の半期の間に教育の場で少なかった。地域COVID-19の発生との強い関係は、教育環境を保護するためにコミュニティの伝達を制御することの重要性を強調しています。アウトブレイク(集団発生)のリスクは学生よりもスタッフで高く、介入は、スタッフの中および間の伝送を減らすことに焦点を当てる必要がある」としています。小学校での感染リスクが低いことは英国以外でもオーストラリアやノルウエ-でも認められています。

これらの研究から言えることは、PCR検査により感染者を発見し公衆衛生対策が確実に行われる設定では、学校でのいわゆるサイレントトランスミッションがほとんど存在せず、学校の出席が感染リスクを悪化させなかったことを示しています。

学校現場では、物理的距離、マスクの使用、教室内の適切な換気の確保という感染対策を行っておれば、学校は決して「感染が広がりやすい環境」ではありません。感染は、まずは社会で広がり、家庭の中で子どもたちに広がり、そこから学校に持ち込まれる流れにあります。

まず行政がやるべきことは、地域社会の感染を抑えるためにコロナ対策に全力を尽くすことです。次に学校に持ち込まれる感染に対して、学校の安全のために十分なPCR検査体制、感染者を発見し保護・隔離し、周辺の感染者の追跡する体制を充実させることです。必要な感染対策をほとんど行わずに「子どもを感染から守る」と称して小中学校に「原則オンライン授業」を行うことは要点がずれた対応であり、保護者や児童生徒に多大で不要な負担をかけるだけです。学校を使って「やってる感」を出していると言われても仕方がないのではないでしょうか。

参考文献:

1)大阪府新型コロナウイルス対策本部会議を踏まえた学校園の対応について 2021/4/22更新 大阪市HP
2)医問研ニュース2021年4月号-英国変異株-子どもは感染リスクが高いのか
3)Testing for SARS-CoV-2 infection a key strategy to keeping schools and universities open 2021 Mar 19 The Lancet Child & Adolescent Health
4)SARS-CoV-2 infection and transmission in primary schools in England in June–December, 2020(sKIDs): an active, prospective surveillance study Mar 16, 2021 The Lancet Child & Adolescent Health
5)SARS-CoV-2 infection and transmission in educational settings: a prospective, cross-sectional analysis of infection clusters and outbreaks in England The Lancet Infectious Diseases 2021; 21: 344-353

高松 勇 (たかまつこどもクリニック)