PCR検査の問題点─特にプライマーについて(NEWS No.549 p08)

5月の例会にて、新型コロナ感染症の検査(特にPCR検査)の問題点について列挙させていただきました。その中でも、ここで私が根本的な問題として再度取り上げたいのは、「プライマー」についてです。

現在世界中で行われているPCR検査で検索されている新型コロナウイルスの遺伝子部分は、主に、1. RNAポリメラーゼ遺伝子、2. S遺伝子(Orf2)、3. E遺伝子(Orf1ab)、4. N遺伝子(Orf9a)の4つですが、これらの遺伝子に対応する「プライマー」配列がPCR検査キット用に設計されています(キットによってプライマー配列が異なる)。例えば、感染研のマニュアルに記載されているリアルタイム RT-PCR 用プライマーは、2種類が同時に使用される形になっており、N遺伝子とS遺伝子の一部の配列からそれぞれ設計されています(SARS-CoV-2 遺伝子検出・ウイルス分離マニュアル Ver.1.1)。

ところで、米国国立衛生研究所(NIH)が提供している遺伝子検索ツールに、「BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)」というものがあります(“BLAST”でググればすぐ出てきます)。そして、感染研マニュアルで使用されているN遺伝子やS遺伝子のプライマーの塩基配列を実際にBLAST検索にかけてみると、なんと多種多様な微生物やSARS-CoV-2以外の他の遺伝子にも、プライマーと全く同じ塩基配列が存在していることがわかります(実はヒトの遺伝子にもかなりの程度一致する配列が存在する)。

これはすなわち(感染研マニュアルだけでなく)、世界中で使用されているPCR検査用に設計されたプライマーの塩基配列が、新型コロナウイルスに特異的なものというわけではなく、新型コロナウイルスとは別の遺伝子にも交差反応やオフターゲット現象を起こし、“偽陽性”を生み出す可能性があることを明確に示すものです。「プライマーの塩基配列が、主要なウイルスや細菌の遺伝子配列とは一致しなかった」として交差反応を否定しているところもありますが、交差反応が100%起こらないことを保証することは誰にもできないということです。

また、27種類の新型コロナウイルス診断用のプライマー/プローブ結合領域の遺伝的多様性を網羅的に解析した調査で、7つのアッセイで不一致が認められたということが報告されています(The Royal Society. 2020:8;200636)。これは新型コロナウイルス側のプライマー/プローブ結合領域の塩基配列に変異が起こった場合、その検査そのものの意味がなくなる(“偽陰性”になる)ということを示しています。だからこそ、地域ごとにRNAシーケンスなどで新型コロナウイルスの配列変化(変異)をチェックし、アッセイを常に最新の状態に保つ必要があるということなのです。先述した感染研の白戸先生は、「プライマー領域の変異が起こっているかどうかは国内でもちゃんとチェックされている」と仰っていましたが、誰がどのようにして調査しているのか明らかにされておらず、甚だ疑問です。

さらに、技術者の腕前の問題や、実験室内でのコンタミ(キャリーオーバーコンタミネーション)の問題、また検査キット自体にウイルス遺伝子の汚染があったり、PCR検査にはあまり一般的には知られていない多くの問題が隠れています。このような不正確なツールが、医療現場で感染症診断のゴールドスタンダードとして用いられている現状こそが、パンデミックを生み出している元凶であるとすら私は考えています。実際に、現在では無症状者でも感染者との接触履歴がなくてもPCR検査が行われており、陽性になれば感染者として扱われ隔離されるという、これまでの感染症診断ではあり得ない恐ろしいことが起こっています。いわれなく新型コロナ感染者扱いされ、隔離などで自由を奪われることになる一般市民にとっては、PCR検査(を推し進める行政)は「脅威」でしかありません。国民の平穏な生活を守るためにも、無駄なPCR検査の拡充は絶対にすべきではないと考えます。

医療法人聖仁会松本医院 院長 松本有史

(現在のところ感染症対策は基本的な検査としてはPCRに頼らざるを得ません。その際に、注意すべき点が示されていると思います。今後、PCR結果と感染率の違いなどが解明されなければならないことも、この文章から示唆されます。みなさんのご意見をお待ちしています。〈編集より〉)