いちどくを この本『「コロナ禍の医療現場」からの警鐘と提言─日本の医療崩壊をくい止める』(NEWS No.550 p07)

『「コロナ禍の医療現場」からの警鐘と提言─日本の医療崩壊をくい止める』
本田宏・和田秀子 著
泉町書房 1900円+税
2021年2月発行

もともと「緊急事態宣言」は重症化をもたらす新型コロナ感染症のため医療現場が逼迫して大変だからと施行されたのではなかったのでしょうか?

感染者数を増加させてはいけないと言いながら、昨年の10月下旬からは64歳未満の患者と基礎疾患を有しない患者の家庭内療養を認めて政府・自治体の責務を軽くし、家族内感染の道を開いたり、インバウン頼みに傾斜していた観光事業社を支えるためGoToトラベル政策を始めたり。また増えてくると「宣言」再開との繰り返しですが、この1年6ヶ月の間に余裕のある(安心できる)医療環境をつくるための施策がなされたのでしょうか?

マスコミ報道では、感染者数・死亡者数やワクチン接種と東京五輪をニュースに取り上げています。「医療関係の方々に負担をかけてはいけない」と施行された「宣言」にも関わらず、医療に繋がることなく亡くなった人々の増加が示す「医療崩壊」と言える現状への私達の認識を薄れさせる方向での番組編成か?と言いたくなります。

本書は、このような事態のなかで「日本を安心して生きられる国にするために」「医療・福祉再生のラストチャンス」と訴えて本年2月に発行されました。

本田宏氏(1954年生まれ)は、外科医師として「日本で人口あたりの医師数がもっとも少ない埼玉県」の病院に26年間勤務。「医療現場での経験から長年、医師不足や医療費抑制の問題を訴えて」こられ、新聞紙上にもその名を見かけたことがありました。2015年「本当の医療崩壊はこれからやってくる!」(洋泉社)を上梓されていますが、「この本では、新型コロナでいかに日本の医療現場が危機に瀕しているかということ、その源に連綿と続く医療費や医師削減の歴史があったことを記しています」。

1960年、人口10万人当たりの医師数はOECD(経済協力開発機構)平均108、日本103でした。’70年当時「最小限必要な医師数を人口10万対150人」に目標設定され、’73年「一県一医科大学」構想のもと医師数の増加が図られていました。

「土光(どこう)臨調」をご存知でしょうか?

経団連(経済団体連合会)の会長であった土光敏夫氏が’81年「第二次臨時行政調査会」の会長となり「3K(コメ・国鉄・健康保険)の赤字解消」の実行を提唱したものです。私達の主食、移動・運搬の手段、命・健康を守るすべを「3K」と称し、国庫(国税)からの支出を減らすことを意図したものです。土光臨調のもと、’82年医師数抑制の閣議決定、’83年「医療費亡国論」の流布となり、’97年には医学部定員削減閣議決定に至り、2013年OECD平均の医師数330、日本230、’19年にはOECD平均350、日本240で加盟国36ヵ国中32番目の少なさ、G7(注)では最少国となっています。
(注)ドイツ・イタリア・フランス・イギリス・カナダ・アメリカ・日本

本田氏は本書第2章で「日本の医療をひっ迫させる諸悪の根源と言っていい『医療費亡国論』がいかに日本人の命を脅かすことになっているか解き明かしていきたいと思います」と述べています。

和田秀子氏は2010年よりフリーランスライターとして「移民労働問題、食、基地問題、原発事故、医療などの問題」の取材活動を継続。’19年に「一般社団法人ままれぽ出版局」を起ち上げて、その代表に就任。この書物では、「コロナ禍の医療現場」のルポルタージュと医療関係者へのインタビュー記事を担当しています。

「日本の医療崩壊は、コロナ以前からおきていた。政府はこの間ずっと、医療費削減のために病院や病床、保健所を減らしてきたのだから。今までのツケを、国民がみずからの命で払わされようとしている。」との女医(病院勤務)からの訴えに応えて医療現場の取材を開始。

東京都練馬区の病院長、千葉県の病院看護師、都内の特養老人ホームと連携する病院医師、札幌市の老人施設の看護師、北海道士別市立病院長、大阪市十三市民病院の委託会社勤務者など多くの人が実名を出しての取材を受けて「新型コロナで崩壊していく医療現場」を明らかにしています。また「医師の過酷な働き方」については「東京過労死を考える家族の会」元代表、全国医師ユニオン代表や研修医の方々。「整理・統廃合対象になった病院関係者」の公立豊岡病院組合の医師らも地域医療を守るために発言しています。是非聞いて頂きたい。

伊集院