原発汚染水海洋放出によるトリチウム危険性の理解のために(NEWS No.550 p08)

トリチウム問題の核心─その人体への影響
遠藤順子(健生病院医師、青森)
タンポポ舎パンフNo.103

菅政権は本年4月13日、福島原発事故による放射能汚染水を、2年後に海洋放出する政府決定を行いました。汚染水に含まれるトリチウムは、「希釈すれば安全」というのが理由である。この核心となる欺瞞に、科学的な証拠を突きつけて反論するパンフを紹介します。

著者は、日本原燃の六ヶ所村核燃料再処理施設からの、液体トリチウム海洋放出と、「短命県」といわれる青森県のがん死亡率の推移を監視している青森県の現役の医師です。

始めにトリチウムをめぐる日本での状況が紹介されます。福島第一原発敷地内の総量は、3400兆Bqが試算されており、汚染水中のトリチウムは1000兆Bqとされています。全国の原発の中で、原子炉が沸騰水型(BWR)に比べ、加圧水型(PWR)からの放出量は桁違いに多く、佐賀県の玄海原発は10年間で824兆Bqを海洋放出しており、原発周辺の白血病死者数の増加が、長崎県南に比べ、北地域で3~4倍の差が示されています。

これら健康への影響について、本パンフの中では医学的な観点から、疫学面と基礎科学面から重要な内容が解りやすく示されています。

疫学面では、現在までの世界各国における再処理施設・原発周辺で報告されてきた健康被害です。

① イギリス・セラフィールド再処理工場
② フランス ラ・アーグ再処理工場
③ カナダ CANDU重水炉周辺
④ ドイツ KiKK研究
⑤ アメリカ 原子炉閉鎖後の乳児死亡率
⑥ イリノイ州原発周辺

IAEA(国際原子力機構)やUNSCEAR(国連科学委員会)が、決して認めようとしない「平常運転時」の原子力施設近辺での健康被害について、世界中の良心的科学者から報告されているものがまとめられています。この原因が、運転時排出されるトリチウムとされています。

後半では、人体に対するトリチウムの危険性が解りやすく説明されています。科学的には水素(H)で、水(HHO)の中にトリチウム水(HTO)として存在、体内に取りこまれベータ線を放出して内部被ばくさせ、遺伝子DNA鎖に取り込まれるとHe(ヘリウム)に変換し遺伝子を損傷、被ばくと元素変換効果で二重に危険であることが示されます。また環境中では植物の光合成で有機結合型になると、魚類、動物に取り込まれる食物連鎖により濃縮を経て、我々の体内に取り込まれる様子が図を含め解説されます。

全漁連の反対声明が出されるなど、汚染水海洋放出中止に向けた国民世論形成に向け、身近でトリチウム問題を語る時の、力強い助言となり一読をお勧めします。

第1刷 2021年1月 たんぽぽ舎発行 400円

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