イスラエルの感染拡大から何を学ぶか(NEWS No.551 p07)

ファイザーワクチン接種を国家的規模で先行させ、いわば実社会、real worldでのワクチン効果の広告塔となっていたのがイスラエルである。(図1)にオックスフォード大学が日々ネット公開しているour world in dataから抽出したイスラエルの新規コロナ患者数、ワクチン接種率に、ロックダウン時期を追記したものを示す。ワクチン接種率は右目盛りに示し、少なくとも一回以上接種している人の割合を示す。また左目盛は報告日までの一週間ごとの平均新規検査陽性患者を100万人当たりの罹患率で示す。接種率が20%を超えたあたりから患者数は減ってきたように見えるが、50%あたりで停滞、60%あたりから安定して減少、60%を超えた一か月ころからはほぼ0に近くなったように見える。

(図1)

こういったデータをもとに、イスラエル保険省は2021年5月、1月から4月までにワクチンを接種した16歳以上の600万人のfield dataをlancet誌上に公表した1)。それによると、昨年12月20日から医療従事者、65歳以上の人にワクチン接種が開始され、5歳刻みに接種対象を拡大、1月24日から4月3日までの国家レベルのワクチン調査で16歳以上の人口6538911人の72.1%に2回接種が終了、65歳以上は90.0%が終了した。この間、16歳以上のワクチン非接種者の検査確定新型コロナ罹患率は91.5/100万人日、接種者は3.1/100万人日で有効率91%、無症候者、入院者、重症入院者、死者いずれもeffectivenessは90%以上という結果であった。

これを背景に、イスラエルでは5月23日例えば「すべての施設へのアクセスは子ども、ワクチン未接種者も含めて制限なし」としすべての制限を解除することを宣言し、6月1日から解除が始まった。

ところが(図2)に示すように、our world in data を見ると、6月3日ころからコロナ罹患者は増加に転じ、7月18日現在、ワクチン接種率64.5%に対し、罹患率は92.3%まで等比級数的に有意な増加を示してきており、ワクチン効果への再考が必要となってきた。

(図2)

その後イスラエル当局は8月からの12-16歳までの接種奨励開始(供給が迅速化されることを理由に)、免疫力の低い人を対象とした3回目接種の実施方針、一方で隔離期間の短縮を発表するなどワクチンの有効性に対する判断を保留している姿勢がみえる。

再燃の理由の一つが低年齢層の接種が進んでいないことであろうと推定しているようである。確かに(図3)に示すように2)10-19歳の接種率は40%以下であるが、これでは最近発表された有効率が64%まで低下したことの説明ができない。

(図3)

一方、デルタ株の流行を理由に挙げる推定もある。確かに世界的なデルタ株の流行とともに、感染は拡大している。UKはデルタ株が99%、イスラエルでも新規コロナ患者の約90%を占める。

しかしこのことはワクチンの有効性が低下したことの理由にはならないはずである。ウィルス変異はワクチンの前提であるから。

一方で流行は防げないためコロナとの共存をちらつかせながら死亡や重症化阻止にはワクチンは有効であるという姿勢はくずしていないようである。

(図4)をみると、イスラエルでの新規感染者に応じて、死者も有意に増加している。

(図4)

安全性を度外視した仮免ワクチンの有効性にも限界が見えてきた今、ワクチンのみにすがるのではなく、予防、診断、治療体制の豊富な拡大整備が必要であることが明確になりつつあると考える。

参考文献

1)     Haars EJ https://doi.org/10.1016/ S0140-6736(21)00947-8
2)     Corona Control Panel (health.gov.il)

上記以外はすべてOur world in data 及びイスラエル保健省のホームページからの引用から作成したものである。