コロナワクチンのコホルト研究における「早すぎる効果バイアス」BMJ openのrapid responseに書きました(NEWS No.552 p04)

5月号4〜5ページに掲載しました「コロナワクチンの市販後調査論文の重大な疑問点」という題で、コロナワクチンの効果を調べたコホルト研究に「早すぎる効果」の出現のことを報告しました。その後、さらに検討したものを、BMJ副編集長ピータ・ドーシ氏に相談し、とりあえずすぐに掲載され、多くの人に読んでもらえる方法とのことで、彼に英訳の添削もしてもらい、BMJ openの「Covid-19: Pfizer BioNTech vaccine reduced cases by 94% in Israel, shows peer reviewed study」の「Rapid Response」に掲載されました。その文章を日本語にして、掲載します。

題は「COVID-19ワクチンのコホート研究は、「早すぎる効果バイアス」の影響を明らかにすべきです。」原文や文献を見られる方は、https://www.bmj.com/content/372/bmj.n567/rr-1 または、‘covid-19 vaccine keiji hayashi’で検索してください。表がなく読みにくいので、ここでは表・図をつけますので、ご参照ください。また、文献は元の文章をご覧ください。

また、「早すぎる効果バイアス」の問題点を理解していただくために少し解説を加えます。まず、前回紹介しましたようにコロナワクチンはRCTで2週間以内では効果を示していません。ですから、この期間の「効果」は別の要因で効果があるかのように見えるだけ=バイアスなわけです。その要因を、一部の著者は、「接種対象がコロナ感染者、コロナに似た症状がある、コロナ患者と接触などがあれば接種されませんので、当然接種されたグループから感染者が出にくい」と説明しています。インフルエンザワクチンでもこのような接種除外者が生じるので、インフルエンザにかかりやすい人、重症化・死亡しやすい人が、接種グループから除外され、ワクチンに効果がなくても接種グループはインフルエンザ感染や死亡が少なくなり、「効果あり」とされます。しかし、このバイアスを接種前の健康状態で補正すると、効果がなくなります。これは「健康者接種(病者除外)バイアス」と呼ばれており高橋晄正氏が学童の調査で、最近では「International Journal of Epidemiology 2006;35:337–344」でうまく証明されています。(当誌No.544,p04も参照)コロナワクチンもこのバイアスに影響されるはずですが、コロナだけは初期だけに限られ、最終的な効果に影響しないとしています。しかし、その根拠は全く示されていません。)

以下、英文の日本語訳です。

「編集者殿へ

緊急使用許可が与えられて以来、COVID-19ワクチンは世界中で大規模に接種されてきました。しかし、ワクチンはまだ正式に承認されておらず、RCTはその有効性に多くの未回答の問題を残しています。(f1)例えば、米国規制当局FDAは、RCTが無症候性感染、感染、入院そして死亡の予防に関する疑問にしっかりと答えていないとしています。(f2)

RCT以外では、大規模な予防接種を受けている国からのコホート研究が発表されています。イスラエルのワクチンの有効性に関するいくつかのデータは、Amitらによる「手紙correspondence」で発表されました。(f3)さらに、Daganらによる大規模な研究で、ワクチン接種により、SARS-CoV-2感染、症候性COVID-19、入院、重症度、死亡率が低下したと報告されています。(f4)スコットランドでは、Vasileiou らが、COVID-19ワクチンがSARS-CoV-2感染による入院を減少させたと報告しています。(f5)Hall らは、無症候性を含む感染者の数を減らしたとするイギリス医療従事者対象の研究を報告しています。(f6)

しかし、これらすべての研究では、有効性がほとんどまたは全く見られないはずの、ワクチン接種後2週間以内に生じる「早すぎる効果」バイアスに対して検討されていません。

この問題について、Vasileiouらは「初期の影響」と呼んで、4つの「これらの初期の影響の考えられる説明」を書いています。しかし、著者たちは最終的な分析でそれらの影響を無視しました。

Hallらは、この「早すぎる効果」の問題は、「症候性、現在PCR陽性、または最近COVID-19症例にさらされた人は、ワクチン接種を延期し、国のガイダンスに従って過小評価される可能性がある」と説明します。イスラエルからの報告にも「早すぎる効果」が現れているのですが、著者はそれの説明をしていません。(f3)(f4)

また、この問題はWHOの会議でも検討され、次のように説明されました。「ワクチン接種後の最初の数週間でいくつかのバイアスが発生する可能性がある。」(f7)しかし、ここでは、この問題が「早すぎる効果」以後の最終的な効果efficacyにどのような影響を与えるのかに言及していません。ただし、この問題が「インフルエンザワクチンのように、流行が始まる前に接種された場合、COVID-19ワクチンのように明確な形で現れることはありません。しかし、インフルエンザワクチンのコホート研究では、「健康なワクチン接種者のバイアス」がつきまといます。(f8)

「早すぎる効果」の時間と経過とその強さ、ワクチン接種からの日数とその後の経過を報告間で比較しました。レポート間のデータを比較するために、すべてのデータはファイザー-BioNTechワクチンに限定し、1回目のワクチン接種のデータのみを使用しました。元のドキュメントの単位を使用しました。Hallらの報告ではハザード比の数字が示されていないため、図2Bから手作業で測定しました。DaganNらによる報告は、相対リスクを計算しました。

Hallらのようにアウトカムが「感染」の場合、ワクチン接種後0〜3日でハザード比0.54の「効果」が現れ、4〜6日で効果は0.95に低下しました。その後、7〜9日で0.91、10〜13日で0.77、14〜20日で0.45、21日後に0.32に増加しています。同じアウトカムである「感染」でも、Amitらのデータは、ワクチン接種後0-14日で0.7、15-28日で0.25の「1- Rate reduction」でした。しかしながら、Daganらはワクチン接種後0〜7日で0.83、8〜14日で「影響」がほとんどない0.97の相対リスクを報告しています。その後、15〜21日で0.52、22〜28日で0.41でした。以上のように、ワクチン接種後の初期の報告間の影響の程度は大幅に異なり、その後の影響の時間と程度もかなり異なります。

入院については、Vasileiouらはワクチン接種後のRate Ratioが0〜6日目で0.14、7〜13日目で0。47の非常に大きな「初期効果」を報告しました。14日後、効果は0.31に、35〜41日で0.22に増加しました。一方、Dagan らは、RRがワクチン接種後0日から7日で0.46であったが、その効果は8日から14日で0.87に急速に減少したと報告されています。その後、15〜21日で0.46、22〜28日で0.83、29〜35日で0.66となり、これらの期間の影響はVasileiouらによって報告されたものとは大きく異なります。

「早すぎる効果」が、報告により程度と期間が異なるという事実は、多くの要因によって引き起こされる可能性があります。「早期の有効性」バイアスは、「最初の投与後の最初の数日で」(f7)「初期のCOVID-19症状を経験している、または最近曝露された個人はワクチン接種を延期する可能性がある」ことで発生します。それは、その後の結果にも影響を与える「健康者接種バイアス」などの時間に依存しないバイアスに関連していると考えられます。したがって、少なくともこの「早すぎる効果」=バイアスが何らかの方法で補正されなければ、ワクチンの正確な効果を推定することはできないと思います。

上記は初回のワクチン接種のみのデータですが、Hallらの論文の図2から、2回目のワクチン接種時に同じバイアスが発生していることが明らかです。(下図)

*有益なコメントや提案をしてくれたPeter Doshiに感謝します。