アルツハイマー病「治療剤」アデュカヌマブの日本での承認を許すな(NEWS No.553 p08)

国内の認知症の人数は2025年時点で730万人に達し、高齢者の5人に1人が発症すると推計されている(2025年問題)。認知症の原因の6~7割がアルツハイマー病(AD)だが、ADの明確な原因は分かっていないものの、認知症を発症する約20年前から脳内にアミロイドβ蛋白質(Aβ)やタウ蛋白質が蓄積され、脳神経が変性・脱落して認知機能の低下などを来すとされている。

アデュカヌマブは、Biogen社がADを対象にエーザイと共同開発してきた抗Aβモノクローナル抗体である。アデュカヌマブは脳内に蓄積したAβを除去することを企図。4週に1回点滴静注する。

アデュカヌマブはFDAによって「迅速承認制度」により認められた。1年半の短い治験期間で得られた効果はAβの減少のみで、「認知機能低下の抑制」の確認には至っていない。FDAは追加の臨床試験による効果検証をメーカーに指示。有効性が確認できない場合は承認取消の可能性もある。また、治験で効果が認められたのは軽度認知障害(MCI)や軽症者のみで、病気が進行した人に対しては効果が見られなかった。以下、少し詳しく見てみる。

当初の治験 RCT デザインではプラセボに対する優越性を示すどころか無益性のため途中撤退している(2021年6月現在;EMERGE, ENGAGE)。これら2つの「失敗治験」のデータを「後付け解析」し,都合のよいデータ解釈を提出するという異例の手続きで承認申請。この「後付け解析」でも 主要評価項目(=CDR-SBの悪化度)で有意差がついたのは2つの RCT のうち1つのみだった。因みに、類似機序の他の新規薬剤も軒並み治験撤退している。

アデュカヌマブ群でも認知症スケールの悪化は抑制できない。都合のよい結果が出た EMERGE 試験の 高用量群のみに着目しても,認知症スケール CDR-SB や MMSE の悪化度は,1年半で 0.4 点 と 0.6 点分緩やかになるのみ(プラセボ比)。ベースラインから比べると CDR-SB は 1.3 点程度,MMSEは 2.7点程度,悪化。ENGAGE 試験では,CDR-SB も MMSE も,アデュカヌマブ群はプラセボ群と同等に悪化。

EMERGE試験,ENGAGE試験 の 2 つとも,アデュカヌマブ群はプラセボ群と比べ,脳内のアミロイドプラークは有意に減少。しかし,それはバイオマーカーを改善させたということに過ぎない(=代理エンドポイント)。ENGAGE 試験では,PET 画像上アミロイドプラークは減っているが,認知症スケールの進行抑制効果は示されなかった。

EMERGE試験もENGAGE試験も,いずれも試験参加基準として「軽症早期(CDR 0.5 以上,MMSE は 24点〜30点)」かつ「アミロイド PET で脳内にプラーク沈着が証明されていること」が必須。つまり「ごく軽い時期から治療を開始することで進行させない」というコンセプトになっており,進行期の患者を治すことを示すデザインにはなっていない。

アデュカヌマブには「アミロイド関連画像異常」ARIA;Amyloid-related imaging abnormalities という重大な安全性の懸念がある。アデュカヌマブ使用者の 5人に1人は脳内に微小出血を起こし,7人に1人は脳に鉄沈着をおこし,3人に1人は脳に浮腫性変化を起こす。その多くは治験の期間中には(=78 週)無症候性だったが,長期的な安全性を保証するものではない。

FDA が承認の適否を検討する前におこなった外部諮問委員会への意見聴取では,11人中 10 人が承認に反対(2020年11月)。それでも承認された経緯から,諮問委員会に参加していた専門家のうち 3 名は,抗議のために辞任(2021 年 6 月)。

FDA も上記の問題点については十分承知の上で条件付き早期承認をおこなった。アデュカヌマブが「ADの進行を抑制する」効果については十分示されていないことを踏まえた上で,ひとまず「ADの治療剤」ではなく「脳内Aβ削減剤」として迅速承認をおこなったに過ぎない(=代理エンドポイント)。追加の RCT によっては「承認取り消し」もある。また薬価は年間 56000ドル(約610万円)と高額なのも問題。

なお、米国アルツハイマー病協会は、FDAの承認を支持していたようで、日本でも認知症と家族の会が国内での早期承認を要望。患者家族の当事者団体が承認を後押しする形だ。

超高齢社会を目前に、医療介護を含めて社会保障のあり方が問われ、介護保険も制度破綻している中で、薬剤への期待も膨らんでいるとも考えられるが、認知機能低下の抑制や介護負担の軽減のエビデンスもなく、臨床的意味の乏しい代理エンドポイントで後付け解析でも相反する結果しか出せないアデュカヌマブは治療剤とも呼べない。日本での承認は阻止しなければならない。

「薬のチェック」97号に臨床試験で判明した問題点が解説されています。ぜひご覧ください

梅田