新型コロナウイルスワクチンの最近の知見に関して (NEWS No.554 p06)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 収束の鍵を握ると考えられているワクチン接種が普及する中、デルタ株の流行、ブレイクスルー感染等により、2021年夏は米国をはじめ世界各国で感染者数と重症者数の増加を認めた[1]。COVID-19ワクチンの効果に関して最近出てきた知見について述べる。

COVID-19ワクチンがCOVID-19感染リスクを約90%低下させるというセンセーショナルな報告が、世界的に権威あるNew England Journal of Medicine (NEJM) 誌に掲載され[2,3]、多くの国々がCOVID-19の大流行を抑える上でワクチン接種が鍵となると考え、国民に接種を推奨してきた。

2021年前半、ワクチン接種が進んでいたイスラエルやアメリカでは、マスクを外して外を歩く人や食事やスポーツ観戦をする人達の映像が流れ、日本では思うようにワクチン接種が進まず日常を取り戻せていないと報道されていた。しかし、夏に入り米国では1日の新規感染者数が10万人を超え、イスラエルでは9月1日に1日の新規感染者数が2万人を超え、日本を大きく上回っていた[1]。「日常生活を取り戻すためのワクチン接種」という触れ込みで、政府、メディア総出でワクチン接種が推進されてきたが、現在はワクチンを打ってもマスク着用が望ましいと推奨されている[4]。ワクチンを打ってもマスクありの生活を強いられるということは、ワクチンの感染予防効果が薄弱ということなのだろうか?

2021年9月15日にNEJM誌に掲載された無作為化比較試験(RCT)では、ワクチンによる感染予防効果は接種後6ヶ月間持続していたと報告された[5]。一方、同年10月6日の同誌に、ワクチンによる感染予防効果は6ヶ月で低下してくるという報告も掲載された[6]。また、2回目のワクチン接種から6ヶ月経過した時点で血清の抗体価の低下を認めたというイスラエルの研究も報告された[7]。これらの研究結果の乖離の要因は何だろうか。RCTの研究[5]では、被検者の約半数は4~6ヶ月の追跡期間で、6ヶ月以上追跡した被検者は10%に満たなかった。4ヶ月の時点で感染予防効果は若干低下していた。

カタールの研究[6]では、2回目の接種後5ヶ月経過した時点で、有症状の顕性感染の有意な予防効果は消失していた。不顕性感染の予防効果は4ヶ月経過した時点で消失していた。この研究ではPCR検査を受けた人の内、PCR陽性の人をcase、陰性の人をcontrolとするtest-negative case control研究デザインを用いているが、PCR検査は症状のない人にも行われていたこと、PCR検査を受けた理由、年齢、性別等に関してマッチング(caseとcontrolの割合が同等となるように割り振ること)を行っていることから、この研究デザインとしては比較的バイアスが少なめであると考えられる。また、RCTの被検者の年齢中央値は51歳、カタールの研究の被検者の年齢中央値は31歳と大きく異なった。加えて、上記のRCTは2021年3月中旬までのデータ、カタールの研究では9月初旬までのデータを解析しており、RCTでは2021年7月頃に入り大流行したデルタ株に対する効果を検証できていない可能性が高い。このように研究デザインの違い、追跡期間の違い、年齢層、流行株の違いがこれらの研究結果の相違に影響している可能性が考えられる。

2021年9月30日にEuropean Journal of Epidemiology誌に掲載された研究では、ワクチン接種率が高い国や米国の地域程、感染者数が多いという皮肉な結果が出ている[8]。ワクチン接種率は新規感染者数低下と関連しないことに加え、むしろ逆に感染者数増加と関連する傾向が見られた。生態学的研究であるためエビデンスレベルとしてはあまり高くないが、ウイルスが変異したことやワクチン接種後時間が経過したことによってワクチン感染予防効果が低下し、マスク等感染予防策をとらないワクチン接種者がデルタ株の大流行を助長していた可能性が考えられる。最近の知見や変異の頻度が高いことを踏まえ、ワクチン接種がコロナウイルスに対する最善の対策であるか検証すべき時が来ているのかもれしれない。

神奈川県 医師

引用・参考文献:

[1] Worldometer. Coronavirus. アクセス日:2021年10月11日. URL:https://www.worldometers.info/coronavirus/#countries.

[2] Polack FP, et al. Safety and efficacy of the BNT162b2 mRNA covid-19 vaccine. N Engl J Med 2020;383:2603-2615.

[3] Baden LR, et al. Efficacy and safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 vaccine. N Engl J Med 2021;384:403-416.

[4] 厚生労働省. 国民の皆さまへ(新型コロナウイルス感染症). アクセス日:2021年10月14日.

URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html

[5] Thomas SJ, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine through 6 Months. N Engl J Med 2021 Sep 15.

[6] Chemaitelly H, et al. Waning of BNT162b2 Vaccine Protection against SARS-CoV-2 Infection in Qatar. N Engl J Med 2021 Oct 6.

[7] Levin EG, et al. Waning Immune Humoral Response to BNT162b2 Covid-19 Vaccine over 6 Months. N Engl J Med 2021 Oct 6.

[8] Subramanian SV, et al. Increases in COVID-19 are unrelated to levels of vaccination across 68 countries and 2947 counties in the United States. Eur J Epidemiol 2021 Sep 30.