臨床薬理研・懇話会 2021年10月例会報告 「テストネガティブデザイン」(TND)検査(NEWS No.555 p02)

今回の例会は、林から、前回に続いて「テストネガティブデザイン」(TND)検査について、新型コロナ既感染者へのワクチン接種、3回目のワクチン接種の根拠論文について報告しました。山本さんから、コロナワクチンによる心筋炎について、入江さんから主にコロナ感染症と他の感染症の流行に関する報告されました。

山本さんの報告は、本誌10月号の記事にさらに情報を加えたものでした。今号では、林の報告をだけさせていただきます。

【テストネガティブ(TND)研究】

TND方法は、下図の様にコロナの研究なら、コロナの症状らしいと思った人が受診し、医師が必要と判断したら、コロナの検査をします。コロナと診断された群のコロナワクチン接種人数(a)と非接種人数(b)の比率(a/b)を求め、コロナでないと診断された(対照)群のコロナワクチン接種人数(c)と非接種人数(d)の比率(c/d)と比較します。症例群の方が接種者が多いと「効果あり」、少ないと「効果なし」になります。

それに対して、従来のコホルト研究では、図のように、接種群で受診しコロナだった人としなかった人の比率を求め、非接種群のコロナだった人の比率を求めます。

前号で、寺岡さんから、以下のことが説明されました。第一に受診しない患者の評価はできませんから、受診した患者と受診しなかった患者のワクチン効果は同様でないと正確な効果判定はできないが、ワクチン接種者は受診しない傾向があり、ワクチン効果に影響する。もちろん、症状がないと判定できない、健康な人の方が接種率が高くなることによる「選択バイアス」なども生じる、などです。

<診断の間違いが大きく反映するTND>

この研究方法のコロナワクチンへの適応についてのアメリカ医師会誌の論説は、新型コロナの「診断」の重要性について指摘しています。そこで例会では、具体的な診断間違いの数字を出してこれまでのコホルト研究よりTNDの方が強いバイアスが出ることを確認しました。論説の著者らはPCR検査による誤審は入院患者で生じやすく、他の患者のRNAの痕跡を発見してしまういわゆる「コンタミ」や、すでに回復した患者からのRNAの一部の検出で診断を間違ってしまう可能性を指摘しています。そこで、改善案として検査だけでなく臨床症状を加えての診断を提議しています。

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2772136

となると、医師の主観でどうにでもできることになりますので、診断医は患者の病状は知るが、ワクチン接種の有無について知らされない「目隠し」が必要になります。コロナワクチン効果のアウトカムが入院や死亡の調査では、診断が目隠しで行われたかの確認も重要です。この「目隠し」はどんなTND研究でも必要で、同じ症状でもワクチン接種者には検査をしないことが多くなれば、「選択バイアス」がかかることもTNDの基本的問題です。

<「早期効果バイアス」>

コホルト研究でのコロナワクチン評価のもう一つの問題は、流行前に接種するインフルエンザワクチンとは違い、コロナワクチンでは流行中に接種することです。そのため、RCT以外のリアルワールドデータでは、ワクチンの効果がまだでないはずの接種後早期に、効果が出たかのようなデータが出ることです。これはWHOも「バイアス」の一つとして問題視していました。コホルト研究(次ページ上図)では、接種後10日ごろまでは、ワクチンの効果が出ないはずなのに、すでに0-3日(一番左の縦の棒)で大きな効果が出たことになっています。これはコロナ様症状が出たり、PCRが陽性だった人が接種されなかったためだと説明されています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X21007076

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8064668/ (Fig2)

<横軸は接種後の期間(日)縦字句はHRで、下の方が効果が大きい。>

the https://www.bmj.com/content/373/bmj.n1088 (Fig3)

<横軸は接種後の期間(日)縦軸はOdd比で下か効果大>

ところが、TNDだとその早期効果がなくなっています。TNDでは、接種前の人が受診した時期のワクチン群と非接種群の比率を知ることができ、それを基準(図では1.0)としていることの影響かも知れませんが、良くわかりません。皆さんから、このことに関して教えていただきたいと思います。

【すでに感染者している人へのワクチン接種】

次に、既感染者へのワクチン接種の効果について簡単に報告させてもらいました。アメリカやカナダは接種すべき、イギリスはしてもよい、WHOは推奨しないとなっているようです。日本も接種することになっています。この効果を証明するRCTの報告はありませんでした。そこで、いくつかのコホルト研究を紹介します。

再感染の頻度が大変少ないので、接種に否定的な2論文、推奨が1論文が見つかりました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33583018/

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7989568/

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00575-4/fulltext

共に既感染者の再感染はとても少ないとなっていますが、1論文は65歳以上では再感染の予防率は47%だから、高齢者には接種が必要としています。

コロナに感染後にワクチンをしていない人とした人を比較した論文は3論文あり、1論文はワクチンなしでも1350人を150日間観察しても感染者は0、ワクチンをした1220人で0だったので推奨しない、

doi: https://doi.org/10.1101/2021.06.01.21258176

次の論文は、(既感染者はワクチン2回接種より感染率が13分の1に減るが、)既感染者に1回接種すると約半分に減るので接種すべき、との結論です。

Comparing SARS-CoV-2 natural immunity to vaccine-induced immunity: reinfections versus breakthrough infections (medrxiv.org)いずれもpeer reviewによる医学雑誌への掲載が決まっていないものです。もう一つは、CDCの機関紙で、既感染者でワクチンをすると再感染が2.3分の1に減少するというものです。

https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7032e1.htm

ワクチン接種を異常なほど推進するため、CDC内の「専門家」達がブースター接種に反対したことを想起してください。

なお、これらの論文には有害作用に関するデータは出されていないことが決定的な問題です。

【3回目の接種の必要性】

3回目接種の根拠論文の一つを紹介し、2回目だけの群より、3回目接種群の方が短期的には再感染を9.7分の1に減らすとの報告です。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2114255

この論文を検討して、コロナワクチンは95%感染を減らすとされてきたことと矛盾すると感じました。そこで、3回目接種の対照となった2回接種完了の群の研究期間での10万人当たりの感染率を計算すると85.5でした。イスラエル全国民の感染率を計算してみると、この研究期間中10万人当たり64.9でした。イスラエル全国民のワクチン2回完了率が59%です。この単純な比較では、研究期間である今年8月には、コロナワクチンは全く効果がない可能性を示しています。この研究対象者は60歳以上の人たちですので、年令別の感染率や接種率のデータがなければ正確には計算できませんが、問題提議にはなりそうです。

はやし小児科 林