9月、10月の例会でテストネガティブ研究の、主に問題点を検討してきました。
この方法は今やインフルエンザやその他のワクチン、今ではコロナワクチン市販後の「効果」を評価する「リアルワールドデータ」の中心になりつつあることは、前号の例会報告でも述べられています。同報告に触れらているように、TNDによる報告の中に、にわかには信じられない結果が出ています。
それらの例は、TNDにより「効果」が証明されたとの文献を見ても、十分な検討が必要であることを示していますので、紹介します。
<麻疹ワクチンがコロナに効く、ワクチン効果は87.5%>
https://doi.org/10.1080/21645515.2021.1930471
このTNDはインドで行われた研究です。麻疹ワクチンを含んだワクチン(麻疹単独やMMRなど)を接種した群と、接種していない群をテストネガティブで調査したものです。
対照は、1歳から18歳の子どもです。
ここでは、「ワクチン群」とは、麻疹ワクチンを含んだワクチンを接種している人、「非ワクチン群」とは麻疹を含むワクチンをしていなかった人、としています。
結果は、下図のように、コロナ症例群では、ワクチン群が216人、ワクチン群が58人でした。コロナでなかった群ではワクチン群が265人、非ワクチン群9人でした。非ワクチン群の方がコロナ症例が約8倍多く、ワクチン効果は87.5%にもなっています。
コロナ症例 コロナでない 調整後ワクチン効果
人数 274 274 %( )内95%信頼区間
ワクチン群 216 265 87.5(74.2,94.0)
非ワクチン群 58 9
<MMRがCOVID-19予防>
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2021.06.045
これは、ファイザーのワクチンには及びませこれんが、アストラゼネガのそれよりは高い効果です。
次は、MMRが大人の男性に効いたとの報告です。スゥーデンで2018年に麻疹が流行し医療従事者に麻疹ワクチンを接種したがその人たちが対象の研究です。2018年にスウェーデンで麻疹が流行したときに、医療従事者のワクチン歴が見直されました。そのデータを元に、麻疹ワクチン接種者群と非接種者群で、新型コロナの罹患率を調べています。女性だけに効果がありとしています。
コロナ検査+のOdds比
MMR(−)群 基準=1 ワクチン効果
MMR(+)群 0.91(0.76-1.09) 0.09
性別の比較 女性 1.01(0.83-1.23) -0.01
男性 0.43(0.24-0.79) 0.57
著者も、この結果が交絡により、「効果がある」結果になったことの可能性を認めています。要は、バイアスによる間違った結果かもしれないのです。
<肺炎球菌ワクチンが効いた>
https://doi.org/10.1016/j.medcle.2021.02.007
この研究は、コロナ感染と年齢や持病、色々なワクチン接種歴などとの関連をTNDで調べたものです。TNDの使い道が広いことを示す論文です。
Odds比が0.4(ワクチン効果60%)で肺炎球菌ワクチンがコロナにも効果あり、との結果が、調査人数が少ないのに95%信頼区間に近い差が出ています。もちろん、多数の要因を調べていますので、偶然に何個かの関連要因で差が出ることは不思議ではありません。
コロナ症例 対照 Odds比
PCV13 n % n % (95%信頼区間)
Yes 7 11.1 29 23.2 0.4
No 56 88.9 96 76.8
(0.17-1.006)
以上のような研究結果が発表されていますが、麻疹ワクチンや肺炎球菌ワクチンがコロナに効くことを信じる人は少ないかと思います。一時期、BCGが効果があるかのように報道されましたが、今では忘れ去られたようです。BCGには疫学調査らしいことはされていませんでしたが、TNDにより他のワクチンが科学的装いを持ち得ます。
これらの論文には、症例の診断、受診行動の接種者と非接種者の違い、健康者ワクチン接種バイアスなど様々なバイアスが含まれているものと思われます。コロナワクチンの調査についても、同じようなバイアスに注意しながら論文を読まなければならないと考えられました。
はやし小児科 林