福島原発事故から11年。放射線被害を無きものにしようとする原子力村、福島県、国の科学捻じ曲げを許すな(NEWS No.559 p01)

2022年1月までに原発事故当時0-18歳であった福島県住民から、262名を超える甲状腺がんが発見されている(県民健康調査以外を含めると288名以上)。これは福島健康調査会議そのものが認めている「数十倍のオーダーの」多発である。多発の原因については、当初は該当年齢全住民を対象にした超音波検査によるスクリーニング効果が言われたが、100例を超えたあたりで癌研津金氏がすでに「スクリーニング効果だけでは」説明できないとした。

また、全国統計を見ると、2012年から2018年まで、10-24歳の5歳年齢階級別罹患率では10-14歳、15-19歳、20-24歳いずれの年齢でも福島県は全国に比べ有意に甲状腺がんに罹患していることがわかる。これからも多発は明らかである。

現在の科学的?論議の焦点は多発は放射線によるのか、過剰診断かに絞られている。

過剰診断で説明つかないのが福島県内の地域による罹患率の違いである。これを最初に明確に証明したのは9地域の罹患率の違いを示した岡山大学の津田氏である。さらに、2017年11月の県民健康調査会議に提出された福島医大からの避難13市町村、中通り、浜通り、会津地方4群(この順に放射線量が低くなる)での1,2回目調査共通受診者の甲状腺がん発見率の違いがこの地域の違いを決定づけた。放射線被ばくと甲状腺がん頻度との有意回帰の証明は津田氏に加えドイツScherb氏と我々との共著や加藤氏、Toki氏で示されている。一方、可能性としての過剰診断論の声は大きいが、福島の甲状腺がん多発は過剰診断によるという根拠を示した論文やデータは皆無である。

こういった中、1月27日5首相経験者が欧州委員会委員長に送った脱原発、脱炭素は可能とする文章の中に福島の「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」という文章に対する福島県知事、岸田首相やその他の政治家達からの一斉抗議がでた。例えば岸田首相からは「いわれのない差別や偏見を助長する」という内容であった。

こういった躍起になって論証なく多発そのものを否定しようという組織だった反応は福島の放射能汚染の事実を力でねじ伏せ、無きものにしようという県、国、原子力村の姿勢を示している。住宅費援助の中止、医療費補助の中止と軌を一にする動きである。

我々はこれに対し放射線汚染による甲状腺の多発を粘り強く日本各方面や世界に発信し続けなければならない。このような発信を続け、本号で紹介した3・11子ども甲状腺がん裁判」や医療補助打ち切り策動への闘いと連動することが重要と考える。