小児科学会は独自の責任を果たせ! 第125回日本小児科学会(郡山市)参加報告(NEWS No.560 p01)

第1日目 小児甲状腺がんほか

2011年の東電福島第一原発事故直後より、私たちは小児科学会員として、放射線被ばくの子どもたちへの影響について、海外の文献を収集検討し、福島での実情の調査を開始し、毎年の学会総会で発表を重ねてきた。資料配布などで会員・代議員の注意を喚起し、学会内にワーキンググループも作られた。国外の研究者とも協働し、事故後の周産期死亡の増加、甲状腺がんと放射線量の相関などは国際文献に認められた。福島県民健康調査・甲状腺検査でのがん進展と検出の問題、集計外症例の指摘、妊産婦調査の先天異常における外表性奇形の増加、また学校保健統計の「ぜんそく」被患率上昇などの問題提起、避難者家族への相談会の意義などを訴えてきた。

今学会第1日目のメインは、福島の原発事故の被ばく影響で、海外招待のGerry Thomas氏のリモート講演があった。UNSCEAR(国連科学委員会)、IAEA(国際原子力委員会)の役職を持つ彼女曰く、「福島での甲状腺がん増加は、スクリーニングによる過剰診断なので、原発事故が再び起き(防ぐ努力は述べず、再発を前提に)ても、福島程度の線量では、甲状腺の集団検診はすべきでない。」と断言。それを受けた午後のシンポ「県民健康調査11年の総括」では、演者のほとんどが学会外の福島県立医大関係者であった。周産期死亡の増加に有意差なしとの結論に、「母数が少ないのでは」との質問に、「県民調査の5000人のみ」との解答であった。また先天異常の発生推移に変化なしとする発表スライドは、前年に比し有意の上昇を示した2011年事故前後を抜いた2011年以降を示すものであった。福島医大の座長は、これらへの学会員の質問や意見を遮るように、自論を展開し時間切れの閉会を宣言した。小児甲状腺の専門家の教育講演では、「甲状腺がん多発は、将来発生するがんの前倒し検出とし、過剰診断との決めつけを否定する内容であったが、放射線の影響は認めず、全体の論調に合わせていたように思う。

福島医大はIAEAと協定を結び、被ばくの医療情報を独占的に収集する特権を得て、プーチンを含む核信奉者に都合の良いデータを出し続けている。この様な状況下で、日本小児科学会が日本の子どもの健康を守る学術団体として、原発事故11年目にして独自の責任を果たしているとはいえない。科学に忖度は不要であり、今後とも科学的立場の追求が必要であると感じた。

第2日目 原発事故被災地の訪問

2日目は主にコロナ問題であったが、郡山参加のもう一つの目的である放射能汚染の実態を現地に学ぶべく、ウクライナ製ガイガー線量計を携えて、レンタカーで中通り郡山市を後にする。途中桜満開の三春町を通過し、阿武隈山地の国道288号を浜通りに向かう。ピ、ピという音が双葉町に近づくにつれ、ピピピピと線量計の数値が5倍ほど高くなり、ビービーと購入以来聞いたことのない警戒音が鳴り止まず緊張感が高まる。周囲の民家の入口は柵で閉じられ、人気は全くない。

浜通りの6号線を北上し、JR双葉駅から数キロ先の東日本大震災・原子力災害伝承館までは除染され線量は低かった。しかし第一原発入口のゲート前では、車内にもかかわらず、アラーム音が絶え間ない。帰路は浪江町から114号線を美しい桜と渓流に沿って鳴りっ放しのアラームを聞きながら二本松に抜けた。美しい国土、故郷は奪われてしまっている。帰還の強要は見殺しと同じだ。

この景色の中に、6号線沿線で草刈をさせられた小学生、東大教授早野龍五に引率され防護服も着けず原子炉建屋を見学させられた女子高生、オリンピック聖火リレーに並ばされた子ども達の姿が目に浮かんできた。あったことを無かったことにするには、あまりに過酷な現状である。

復興を演じるのではなく、現実に立ち向かい二度と同じ過ちを繰り返さないという決意こそが、未来への原点と確信した訪問であった。