社会復帰を阻害し、再犯の恐れを拡大しかねない少年法「改正」は撤回を!(NEWS No.560 p08)

「改正」少年法が4月1日、施行された。民法改正により新たに成人となる1819歳を「特定少年」と位置づけ、20歳以上と同じく刑事裁判として扱われる対象事件を拡大。これまで禁止されてきた少年の名前や写真、住所などを報じる「推知報道」も、起訴された特定少年については可能となった。早速少年事件の報道がかまびすしい。

少年の非行や犯罪は、虐待やネグレクトなど不遇な家庭環境や育ち方に起因するケースも多い。これまで家庭裁判所や少年院が担ってきた「育て直し」の矯正教育を受ける機会が損なわれ、結果的に社会復帰が難しくなり、再犯に繋がりかねないとの指摘も多い。

少年法は「少年の健全育成」という法の目的のもと、罪を犯した少年らに刑罰を与えることではなく、少年院送致や保護処分により「立ち直り」の機会を重視する。しかし、少年の凶悪犯罪が起こるたびに厳罰化の議論が活発化し、今回も含め5度「改正」されてきた。ただ、今回の「改正」は成人年齢引き下げに合わせた法的整合性の意味合いが強い。

法制審議会は少年法改正の議論を始める段階で『1819歳の少年を含め今の少年司法は上手く機能している』と確認している。20歳未満を適用対象に置くことは維持された一方で、18、19歳は「特定少年」と位置づけられ、17歳以下の少年とは異なる扱いを受ける。その一つが「逆送」される対象事件の拡大。少年事件の場合は、すべての事件が家庭裁判所に送られる「全件送致主義」が貫かれてきた。すべての事件の原因や背景、少年の家庭環境等を調査した上で、社会の中で更生を促す「保護観察」や少年院送致といった保護処分が決定される。一方、殺人や傷害致死など「故意の犯罪行為で被害者を死亡させた16歳以上の少年」に限っては、刑事裁判を受ける「逆送」の手続きが取られる。「改正」法では強盗や強制性交、放火などが対象事件に追加された。

また、特定少年時に犯した罪について、起訴後に顔写真や名前、住所を明らかにする「推知報道」も解禁された。実名報道は、社会復帰後の進学や就職、人間関係に影響を与えかねない。再犯の一番大きな原因はスティグマと孤立だ。インターネット上に名前が残ることで本人の立ち直りの大きな足かせになる。

少年非行は減少の一途をたどっている。少年の検挙人員は戦後最少を更新し、少年の人口比でも減少傾向にある。一方、特定少年となった18、19歳は知的障害や発達障害など発達上の問題を抱えた子が多いが、刑罰の対象になってしまうと、これまで少年院で受けられた教育を施すことはできない。また、少年犯罪は『幼稚化』の傾向が進んでいる。かつての非行少年たちはよくも悪くも、不良グループの縦社会の中で社会性やコミュニケーション能力を身につけてきた。しかし、最近の非行少年は引きこもり気質で、対人能力に乏しい子が多い。そういう少年たちが刑罰の対象となり、十分な保護処分を受けられなければ、さらに孤立してしまう可能性がある。

1819歳の特定少年は、罪を犯す恐れがある「虞犯(ぐはん)少年」から対象外となる。虞犯は犯罪に至る手前で、更生に向けた教育や保護を施し、場合によっては少年院送致となる。虞犯少年の中には虐待などによって家出を繰り返し、JKビジネスや性風俗業で働く少女も少なくない。18、19歳が対象外となることで、“セーフティーネット”から外れてしまい、彼女たちが危険にさらされるリスクがさらに高まってしまうおそれがつよい。

少年犯罪の減少は厳罰化に起因しない。日本の少年非行が諸外国と比較して少ないのは、非行のピークが14歳前後と早期に収束し、少年法の全件送致主義によって非行が芽のうちに摘み取られているからだ。少年たちが抱える問題の顕在化は非行であり、かつては少年法によって早期に介入ができた。しかし、少年たちの“たまり場”がスマホの画面の中に移り、家庭で抱える問題はなおさら見えにくくなっている。

罪を犯した少年たちはいずれ社会に戻ってくる。どんな人間として戻ってきてほしいのかを考えていかなければならない。日本の再犯率が高い理由は、“刑務所帰り”の人たちへのスティグマが非常に大きいことも一因だ。一度過ちを犯したら、警察や少年院、刑務所に行っておしまいとの意識が強く、その先にも社会での人生が続いていくとの視点が欠けている。イタリアやノルウェーでは罪を犯した人々の社会復帰を社会全体で支えている。どんな市民になって戻ってきてほしいのか、そのためにどんなプログラムやサポートが必要なのかを、主体的に考えることが社会の寛容性に繋がっている。

感情的な排除や制裁論が先鋭化すると、彼らは社会に「恨み」を持って帰ってくる。実態を知り、理解することさえも怠ることで、結果として多くの人が不利益を被る可能性もある。排除ではなく、非行少年と向き合い、受け入れ、少年も大人も育ち直しをしていく社会が求められると考える。厳罰化を求める少年法「改正」は撤回されるべきだ。

梅田