シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第70回報告:ヘルスリサーチの不適切なメディア報道の防止のために(NEWS No.562 p02)

研究者はアカデミアが行うプレスリリース内容に責任を負っている

最近、不十分な原著論文の記載が、誇張された大学・研究機関のプレスリリースにつながり、さらには適切でない新聞などによるメディア報道につながる事例が増えています。

今回取り上げた論文は、この問題をとりあげ、プロフェッショナルである研究者自身の責任・自覚を求めています。

文献 BMJ 2022; 377: e070113 (フリ―オープンアクセス)
https://www.bmj.com/content/377/bmj-2021-070113
原題は「Aetiologic Research (因果関係を推論する観察研究) における探索的分析とその信頼性評価のための考察: 文献のミニレビュー」

大学が独立法人化され「独立採算」フレームのもとで社会に直接研究成果をアッピールするよう求められています。そのプレスリリース内容の正確さなどが問題となり、さらにはプレスリリースを基に不勉強な(?)ジャーナリストが執筆した誇張など適切でないメディア報道の悪影響が問題となっています。この問題をとりあげた BMJ の原著論文で、オランダからの投稿です。ただ一読して英語表現が今一つわかりにくい印象があるように思われました。

著者たちは、探索的分析 (Exploration) は科学の進歩にとって不可欠であると言い切っています。しかし、その探索的性格を正確に報告し、またどの所見が将来の研究で深く調べる(探査: 英語の investigation は本来そのような意味を有した言葉) 必要があるかを特定し、またどのようにしてそれを行うかを明確にせねばならない、と述べます。

しかし今回著者たちが実際に行った文献のミニレビューによればそれらが正しく報告されていませんでした。著者たちは改善のため6つのポイントを提案しています。

著者たちは「第一に害をなさない」 (“First, do not harm”) というヒポクラテスの誓いは、臨床診療 (clinical practice) にとどまらず、医学研究 (medical research) にも適用すべきと述べています。

探索的分析の信頼性評価において重要な6つの留意点 (considerations) とは: 研究課題 (research problem) , プロトコール, 統計的判断基準, 所見の解釈, 報告の完全性 (completeness), 将来の 因果研究(Causal Research)に対して探索的所見が及ぼす影響です。

著者たちは Introduction で次のように述べています。

Aetiologic Studies の報告は将来の研究のテーマを特定する目的で、しばしば多岐にわたる探索的分析の結果を示す。この形式は合理的に見えるかもしれないが、リスクが存在する。なぜなら検証的研究の結果と比較して、探索的所見の信頼性を評価するのは通常より複雑なためである。探索的データ分析の起源は少なくとも1960年代と1970年代のTukey に遡る。Tukey は統計家たちに新たなリサーチクエスチョンの確立のためのデータセットにおける、体系化の可視化技術を発展させるよう求めた。これらの新たなリサーチクエスチョンは引き続き独立したデータセットで回答を得るべきだ (しばしば確証分析と呼ばれる)。例えば、新たなバイオマーカーが知られた causal pathway の一部分であるときに、満開の大きなコホート研究を行う前に小さな予備的探索的研究が考慮される。なぜならコホート研究は財政的に大きな支出であり、そして原資の大きい投資が要求されるからである。同様に、知られた曝露-アウトカム効果が母集団のサブグループで変わってくることが考えられる際は、異種性の効果の確証分析に着手する前にサブグループで効果が違ってくるというアイデアを先に探索する必要がある

探索的Aetiologic Research の報告に際しての6つの重点的考察点

考察1 探索的分析を含むすべての分析の目的について明確に述べる
考察2 データ分析に先立ち研究プロトコールを確定し読者に示す
考察3 有意性に基づく価値判断だけで判断しない
考察4 分析の性質に添って所見を説明する、分析の探索的目的についての透明性が必要。所見の信頼性について過剰に述べない。一般化 (generalizability) への示唆は最小限にとどめる。探索的所見の臨床的妥当性 (clinical relevance) についても最小限にとどめる
考察5 行ったすべての探索的分析についての適切な要約
考察6 提案された研究 agenda による随伴する探索的分析。様式は randomised pilot and feasibility trial についての CONSORT extention と同様。「更なる研究が必要」といった中身のない記載は避けること。研究者たちは提供した探索的所見と将来の研究に責任をもたねばならない

論文に付された「このトピックですでに知られていたことは何か」は次の内容です。

Aetiologic Research における探索的分析は、研究課題に取り組む最初のステップである。そして計画された研究の主要分析 (the primary analysis) に付加してしばしば行われている。探索的分析はAetiologic Researchにおける新たな発見を導くかもしれない。しかしこれらの分析はわずかの data resources でもってなされ、また交絡への十分でない調整の結果でなされるので、正確に結果を解釈するための努力が必要である。検証的テストの統計的性質についてと比較して探索的テストの統計的性質については良く知られていない

論文に付された「この研究は何を加えたか」は次の内容です。

この研究はCausal Research の特有の (particular) タイプの一つである研究、すなわち Aetiologic Studies に焦点をあてた。Aetiologic Studies は 個々の (particular) Health outcome または疾病に関する一つないしは多くのリスクファクターの因果関係を探査する研究である。望ましい取り扱いと報告のためのディスカッションを鼓舞するために、Aetiologic Research における探索的分析の報告のための6つの留意点 (considerations) を提供した。研究者たちは、探索的性格を正確に報告し、どの所見が将来の研究で探査される必要があり、またどのように探査するかを特定することで、探索的分析の結果に責任を負わねばならない

薬剤師 寺岡章雄