コロナワクチンは死亡を阻止するかーイングランドのデータから (NEWS No.562 p04)

新型コロナ感染パンデミックがはじまって2年半が経過した。この間、当初驚異的な95%以上の感染阻止率を示すとされたmRNAワクチンであったが、市場にでまわると、接種開始3-4か月のうちに感染阻止率が急激に低下することが明らかになってきた。また、70-80%という高いワクチン接種率の国でも流行は阻止できないこともわかってきた。2022年5月の時点でも、安全性、有効性評価について、市場での複数の報告に対するメタ分析もないのに3回目、4回目のブースター接種が方針化され奨励されているのが現状である。リアルワールドでは当然のことながら既接種者へも私たちが周囲でよく聞く頻度での二次感染も明らかとなっている。そんな中、叫ばれるようになってきたのが、感染防止でなく重症化阻止のためのワクチンという位置づけである。イスラエルなどのリアルワールドデータによる成績などから、この重症化阻止効果自体も長続きしないことが明らかとなりつつある。こういった流れについて、医問研ニュースでも逐一分析評価し、指摘してきたが、本号では、死亡に対するワクチン効果についてイングランドのデータで検討してみた。

UKやイングランドでは比較的早期にwith corona政策に切り替えたが、一方でワクチンの効果についてのフォローも行っている。

(図1)

(図1)を見ていただきたい。2021年11月にニューヨークタイムズの元記者Berenson氏がUKの国家統計データ1)から作成したもの2)で、2021年1月から9月までの10-59歳についてワクチン2回接種完了者の死亡率が3月以降ワクチン未接種群を上回っていると発表したものである。再現は国家統計からすぐできるのにツイッターから削除されたということだが、このグラフを含めたBerenson氏の言い分とUK当局とのやりとりなどはTom Kertscherによるfact-checkに詳しい3)

2022年5月発表された国家統計速報版4) は2021年1月から2022年3月までの月ごとのコロナワクチンを評価するための死亡率データをまとめたものであり、死亡を「全死亡」、「COVID-19 関連死亡」、「COVID-19無関連死亡」の3群にわけて年齢標準死亡率(ASMRs:Age-Standardised Mortality Rates)を比較分析したものである。データそのものは毎週公表されるものであるが、この5月速報版の中で、(図1)について「10-59歳と幅広い。非ワクチン群は若い人が多く、ワクチン群は年齢の高い人が多い。したがってワクチン接種群で全死亡は高くなっている」、「ワクチン接種は重症リスクのある人を優先している」などの反論があり、一部をとらえて当局の意図を曲解しているとした。(図2)は5月に発表された5月速報版のなかでのデータの一部である。60-69歳の全死亡について、2021年1月前から1回ワクチン接種群は未ワクチン群の死亡率を上回っていること、2022年1月ころからは2回接種群の死亡も非ワクチン群を上回っていることがわかる。が、速報版では、これらについては死亡数が少なく、信頼区間の幅が広く、未接種群との有意差はないとして評価できないとした。

(図2)

死亡数が少数であることをカバーするため、(図3)に年齢群で分けるのではなく、すべての年齢群について、未接種群、1回接種群、2回接種群、3回接種群/ブースター接種群について月別の修正死亡率を「全死亡」について比較した。それぞれのグラフは1~3回接種から21日以上経っている群と未接種群について月ごとの死亡率をプロットしたものである。

(図3)

(図3)で示すように2021年4月には1回接種群の死亡率は未接種者を上回り、11月には2回接種者が、そして2022年1月には3回接種群/ブースター接種群が未接種群の死亡率を上回った。

なお、「全死亡」でなく、「COVID-19関連死亡」については、この傾向は(図4)に示すように「全死亡」とくらべ顕著ではないが、2022年以1月以降、1回接種、2回接種群は全死亡の時と同じように未接種群より死亡率が高い。

(図4)

速報の中で、「COVID-19関連死亡」について、1,2回目接種のASMRの信頼度については各群の死亡数と人年の影響を受けるため、信頼度が落ちるとしている。その上で2回接種後21日以上経過した人では10月から死亡率は着実に上昇していること、また、2回目接種から6か月以上たった群(高齢者の場合は接種21日以降)の死亡率は2022年1月以降明らかに未接種群の死亡率を上回っていると認めている。3回目接種後21日までの群については、未接種群や1回接種、2回接種群よりすべての月で有意に低かったと結論しているが、私の試算によると3回接種群については、接種後21日まででも、2021年10月の未接種群に対する死亡についての有効率は96%であったが、2022年1月には74%、2月には40%にまで着実に低下している。

なお、「COVID-19無関連死」群についても、ワクチン接種群は未接種群より死亡率が低いという点について(本来「COVID-19無関連死」の場合は文字通りワクチン接種の有無と死亡率の高低とは無関係のはず)、ワクチン群の健康者接種バイアスによるという重要な指摘を浜六郎氏が行っている5)

以上の分析から、mRNAワクチンの死亡阻止効果については、あっても3か月程度しか有効性は持続しないという推定が成り立つ。ワクチン後の突然死や心筋炎死報告、今後のウイルス変異なども考えると死亡を阻止できるというワクチンの実際的な意味はあるのだろうか。さらにmRNAワクチンにとどまらず、COVID-19ワクチンについては、死亡阻止率の現状を考えると当初からいわれていた抗体依存性感染増悪(ADE)という視点からも今後検討していく必要があるかもしれない。

大阪赤十字病院 山本英彦

文献

1)https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/birthsdeathsandmarriages/deaths/datasets/deathsbyvaccinationstatusengland

2). “Vaccinated English adults under 60 are dying at twice the rate of unvaccinated people the same age,”

3). PolitiFact | Alex Berenson misrepresents data on death rates by vaccination status in England

4). All data related to Deaths involving COVID-19 by vaccination status, England: deaths occurring between 1 January 2021 and 31 March 2022 – Office for National Statistics

5).「薬のチェック」速報版No.203