「マイナンバー保険証」への1本化はしてはならない(NEWS No.563 p04)

<健康保険証の発行を原則廃止政策>

5月25日、厚労省は社会保障審議会の部会で、健康保険証を将来原則的に廃止、マイナンバーカードに保険証の機能を持たせる「マイナ保険証」に1本化する案を示しました。その実施のために、マイナ保険証が医療機関で使えるように、システムを来年4月から医療機関に義務付け、24年度中に健康保険証を発行している健康保険組合などにマイナ保険証の発行に移行するかどうかを選ばせ、将来は健康保険証発行を原則廃止するとまでしています。岸田内閣は6月7日にこの方針を閣議決定しています。ただし、まだ国会での決議はもとより、議論もほとんどされていません。とはいえ、7月の参議院選挙結果を踏まえると、この方針が強行される可能性が強まっています。

<6月当時の日本医師会長は、「マイナンバーカード取得は義務でないことへの配慮を求める」>

日本医師会は、6月15日に、当時の中川会長が記者会見で「普及促進に取り組んでいるが・・スケジュール的に難しい」として、健康保険証の原則廃止を目指すとした方針について「国民にとってマイナンバーカードの取得は義務ではない。取得しないことによって保険医療を受けにくくなる国民が出ないように配慮を求める」と述べました。

<カードリーダーなどの補助金で導入促進>

他方で、国はすでにカードリーダーなどシステム導入への補助金は今年3月31日までは全額(病院などでは210.24万―診療所などでは42.9万、以後では病院は半額、診療所などでは3/4に減らされて、申し込みの期限を9月までとして導入を迫っています。現在の医療機関でのシステム設置率は19%程度ですから、医療機関の設置意欲は少ないようです。これを突破するために、システムを設置しなければ保険診療ができなくなり、設置が遅くなれば補助金も出しませんと、早期導入の圧力をかけています。

<1.8兆円もつぎ込む政府・企業の狙い>

マイナンバーカードの「新マイナポイント事業」では、マイナンバーカード取得で5000円、健康医保険証としての利用登録で7500円、預貯金口座と紐づけされれば7500円還元されます。預貯金・消費履歴や健康の情報が企業や国家に入っていくことが狙われているのです。これに、1兆8000億もつぎ込む理由は、いつどこで何に消費したかがわかれば、売り込みのための貴重な情報が企業に入り、権力者は個人の交友関係や思想信条まで知ることができるのです。

<マイナ保険証の危険性と導入への圧力>

もちろん、「マイナ保険証」は病気に関する情報とは切り離されているとされていますが、健康保険には病名や検査や治療が全て報告されます。それらがリンクされれば、個人情報は丸裸になります。これらの操作を防止する手段を個々人は持っていません。もとCIA職員でロシアに亡命したスノーデン氏は、今やスマホの情報まで権力や巨大大企業に筒抜けであることを警告しているぐらいです。それだけではなく、尼崎市の民間下請け会社や様々な企業での情報漏洩事件が相次いで起こっています。

そもそも、2020年12月に始まった、マイナンバーカードの取得率は2022年6月で45%程度です。多くの市民がその危険性を認識しているものと思われます。昨年8月から現在までの取得率の伸びは、その前6か月の65%程度に鈍化しています。そのために、遅れている自治体には名前を公表し、2023年度から地方交付税の配分を減らすなどの圧力をかけており、茨城県知事は「非常に困惑している。」と反発しています。

マイナ保険証取得は義務でもないのに、強要するのは違法であり反対です。

他方で、医療機関は、今後増加する可能性のあるマイナンバーカードしか持参していない患者の増大も予想した対応を考えざるを得なくなっています。

はやし小児科 林敬次